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欧州研究者インタビュー

イギリス ヨーク大学電気学科 廣畑 貴文 教授
2015年10月30日


廣畑 貴文 教授
- 海外の大学で研究をしようと思われたのはどうしてですか?

大学時代、博士課程に行くことをもともと希望していましたが、研究テーマを決める段階で、やりたい研究ができる場所として海外に行くことを決めました。英語圏で色々検討して、イギリスのケンブリッジ大学に行くことになりました。博士号を取った後は、アメリカや日本の大学、国の研究機関で約6年間、ポスドクとして研究を行っていたのですが、日本の研究現場における雇用はどうしても任期付きが多いという状況でしたので、落ち着いた環境でじっくり研究に集中したいと徐々に考え始めておりました。そんな中、ちょうどヨーク大で教員の公募があったので、応募することにしたためです。

- その後、イギリスの大学で研究を行う中で、ご自身の専門分野における日本の強みや日英の違いという点で、改めて何かお気付きになったことはありますか?

私の研究分野は磁性なのですが、この分野は伝統的に日本が強いです。今、世界最強の永久磁石は日本のメーカーが開発したものですし、材料や素子を作る研究は日本が圧倒的に進んでいると思います。最先端の装置・充実した人材・研究室の多さなど、様々なリソースの層が非常に厚いです。ただ、研究の進め方という観点でイギリスとの違いをあげるとすると、実験の進め方にその違いが最も顕著に現れているのではと感じます。日本人は系統的に調べることを好み、体を動かして試料をどんどん作って細かな条件設定をして測定し、膨大なデータを集めるという傾向があるように思うのですが、イギリス人はそういうことは面倒臭がってやりません。新しいことを考えついたらまず椅子に座り一週間くらいぼんやりしながら、どんなやり方をすれば最も効率よく論文を書けるかを考えます。彼らにとっては一度の実験でインパクトのある論文を書くことが理想であり、「美しい」研究にこだわりがあるように思います。また、同じ研究を進める場合でも申請書や論文の書き方のいずれにおいても日本人とはアプローチが異なっていて、面白いなと思います。

- 研究の支援体制や制度ではどうですか?

私の場合、イギリスの工学・物理科学研究評議会(Engineering and Physical Sciences Research. Council:EPSRC)が主な研究助成機関ですが、レスポンシブモードという自由申請と、EPSRCが定めるテーマに沿った申請があります。もともとは前者が中心でしたが、昨今の国家予算削減の関係と、削減の過程で政府の重点目標が決まってきたという背景から、後者の比重が近年大きくなっています。自由申請の方は年間の締め切りがなく、ある程度応募が蓄積されると審査会が開かれますので応募しやすいのですが、採択率が10%を下回る状況になっており、工学系では研究費獲得が厳しくなっているのが現状です。

EPSRCと並ぶ研究助成機関として英国王立協会があり、私はインダストリーフェローシップをいただいているのですが、王立協会では研究者向けのアウトリーチ研修コースなどを設けていて、受講と一般向けのイベント実施を研究者に推奨しています。例えば、ロンドンの科学博物館を貸し切るといったこともあるようです。日本の場合は、学会ごとにその学会開催期間に合わせて一般向けのイベントを企画したりしていますよね。専門ではない人に自分の研究について説明をすることで、思いもよらない質問をされることがあり、後々考えるとその視点が非常に面白いと思うことがあります。日英いずれの場合でも、こうした活動は研究者にとって非常に有益であると思います。

- 教鞭をとられる立場から見える、イギリスの大学の特徴はありますか?

イギリスの大学では、教員が教育:研究:事務にかけるエフォートの割合がおよそ4:4:2です。特に教育に力を入れており、いずれ日本もそうなるのではと思いますが、学生が大学の取り組みや授業などを全国統一のシステムにより評価する仕組みが確立されています。いわゆる全国学生満足度調査(the National Student Survey: NSS)で、最終学年の生徒が卒業の2ヶ月前にオンライン評価を行うものです。結果は毎年新聞などに公表されるのですが、翌年度の大学応募者数に大きく影響するため、大学にとってシビアな評価と言えます。昔は学生自らの意思で大学に行くという傾向が強かったため、学生が大学を評価するこのシステムはうまくいっていたと思いますが、近年、学費がそれまでの3倍に値上げされてから、大学入学が家庭全体の問題となり、学科公開やオープンキャンパスには家族連れで見学に来る光景も見受けられるようになるなど環境が様変わりしています。

大学側の学費獲得という意味で最も活発なのは、留学生の受け入れです。イギリスでは1年で修士号が取れます。また、修士号の有無にかかわらず、学部を出て早ければ3年で博士号を取ることができます。こうした背景から海外からの留学生は多いのですが、特に中国から修士課程に留学する学生が非常に多い状況です。ヨーク大学電気学科の修士課程は、8割の学生が中国からの留学生です。工学系ではどれくらい装置が使えるか、壊れたら対応できるか、実験データをどう解釈するかといった経験値がものをいう分野ですので、修士と博士課程である程度のレベルに持って行かなければ修了後のキャリア展開が厳しいかも知れません。

- 国際共同研究を実施される中で、日本との繋がりをどう意識していますか?

先ほども述べたように、磁性の分野は伝統的に日本が強く、研究リソースが充実していますので、東北大学や私の出身校である慶応大学、九州大学や大阪大学など、いろいろな大学と現在共同研究をしており、多くの繋がりを持つことができている点は非常に恵まれていると思います。日本では派閥の関係があって難しい場合でも、海外にいるためか、幸いにも共同で研究をしやすいような状況に置かれていると実感することはあります。私の研究室には日本のみならず、香港・中国・欧州などから短期・長期問わず学生がたくさん来ていますが、2008年にJSTのさきがけ研究者となってから、研究装置が充実し、博士志望学生が増え研究室の基盤が確立してきました。さきがけでは、幅広い分野の研究者たちとのネットワークを構築することもできました。その関係は今でも続いており、そうした研究者との対話の中から、自分の研究をチップ開発研究やマイクロ流路にも応用できる可能性があるのでは、というアイデアが最近生まれているところです。

今後は、この研究ならヨーク大学と言われるようになりたいと思います。その過程で、さらに多くの学生やポスドクに集まってもらい、魅力ある研究・国際交流の場を提供できればいいと考えています。従来アメリカに向きがちな日本の眼を少しでもイギリスひいては欧州に向けてもらえれば、偏りのない人材・研究スタイルを生み出していけるのではないかと期待しています。