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ヘルスセキュリティ

本プロジェクトで描かれるヘルスセキュリティとは

河井:まず、最初に永井先生、教えていただきたいのですが、ヘルスセキュリティの今このプロジェクトで描いている世界観をあらためて、もう一言いただきたいのですが。
永井 良三 学長(自治医科大学)写真 永井: 世界観というと大げさですが、確かにこれは世界観の問題でもあると思います。医療には社会の実相が全て凝縮されています。社会保障となれば社会は持続しません。
医療は公共政策的な事業ですから、市場原理や国の完全な管理の下で実現できるわけではない。そうすると、まずは今の日本の医療提供体制、とくに国民皆保険を持続させることが大切と思います。
最近国連がSDGsということを強調しています。サステイナブル・デべロップメント・ゴールズの略で、17項目をとり上げています。そのなかの1番目は「貧困をなくす」、2番目が「飢餓をゼロに」、そして3番目が「全ての人に健康と福祉を」です。他に、安全な水、住み続けられる町、不平等をなくす、などが持続可能な開発目標であると謳われています。現在、世界の研究者はこのことを意識して研究するようになっています。
その意味で、今回のプロジェクトでは、「医療における持続性のある社会保障システムを作る」、「全ての人に不平等なく健康と福祉をいき渡らせる」ということが基本的な世界観といえます。
河井: はい、ありがとうございます。
もう少し具体的にというか、誰が、どういうふうに嬉しいかみたいな辺をもう少し砕いていただくとどんな感じになりますか。
永井: 噛み砕けば、医療が必要な全ての人にとって、不平等がないようにする。経済的な格差を越えて同じような医療がゆき渡ることです。しかしそのためには、これを支える社会システムにも継続性がないといけない。
それは今の世代だけが医療を受けられるだけでは困るわけで、世代を越えて引き継がれないといけないわけです。そういうところがポイントです。
河井: はい。永井先生、今日最初に国民皆保険で医療は維持できないというニュースの話に触れていましたが、この超ビッグデータプラットフォームができると、その辺も保っていけるということなのでしょうか。
永井: 予測は困難ですが、いまの医療レベルを保つためにどういうアプローチを取るかということが問題になるわけです。 世界を見ますと、まずアメリカは市場原理が医療をコントロールしています。一方、ヨーロッパは社会主義的な体制です。日本はそのどちらでもない道を歩んでいます。
これは医療費の支払いは国が管理していますけども、医療の提供は民間でおこなっています。病院の90パーセント近くは民間ですし、ベッド数もほぼ同様です。社会主義でもなく、市場原理でもない社会システムで公共政策をどのように行うかという、非常に難しい問題です。最後は話し合いしかないわけです。
まずは急激に進む少子高齢化という社会の変換期には、データに基づいて話し合いをすることが基本です。そのために医療のデータサイエンスが重要ということです。
河井: はい、ありがとうございます。 小谷さん、実際に取材を通じて、そのデータ活用やヘルスセキュリティの分野を追ってらっしゃると思いますが、今現在、どんなことが起こっているか、超ビッグデータプラットフォームに期待することというのは、どういうふうにお考えですか。

超ビッグデータプラットフォームへの期待とデータ

小谷: まさに今、ビッグデータ、先ほどお話にもあったように、AIとIoTと一連のキーワードで書かれる医療・介護など、ニュースというか話題が非常に多くなってきています。
私も今いろいろ報道をしたりあるいは取材をしたりして、1つ思っていることは、いくつか似たようなプラットフォームというか、民間主導であったりだとか、あるいは国が主導であったりだとか、そういったいわゆるIoT、あるいはビッグデータ、AIっていう冠をかぶせたようなデータ活用の基盤、プラットフォームはいくつかあると。
使うユーザーというか、患者側、あるいは医療従事者側からすると、多分いくつかそういうものが乱立していると、非常に使いにくくなるというときに、今回話を聞いていて1つ思ったのは、国のなかでオンリーワンのものにこれがなっていくのかどうか、あるいは、いろいろなプラットフォームとの連携のインタフェースのようなところ、それがどうなっていくのか。 それはプラットフォームとしてもそうですし、 あるいは、今日、自治医大の苅尾先生がお話しされていた、血圧データとか、ミクロデータとおっしゃっていた領域のデータというのが、特にウェアラブル端末をはじめとして、いろいろなデバイスとかが世のなかには存在していて、データ形式もかなりバラバラだったりする。
それを活用していくには、そのデータの統一も含めて、非常に一筋縄にはいかないと端から見ていると感じます。その辺りは、どういうふうに将来の方向性としてなっていくのかというのが個人的な興味です。
河井: 喜連川先生、情報爆発みたいなこと、いろいろなデータを扱うというようなことをずっとやってらっしゃると思います。多分、小谷さんが言われた、いろいろなデータの形式が違うといった状況もあると思いますが、どういうふうに捉えて、どういうふうに進めていったらいいとお考えですか。
喜連川 優 教授(東京大学 生産技術研究所)写真 喜連川: 多くの方々が、データのフォーマットが違います、ユニットが違いますということで、ご懸念をされていると思うのです。 けれども、例えば、YouTubeがどうなっているのかというのも、ご覧になられるとわかるのですが、あれは、ユーザーは、どんなフォーマットでもいいからとにかく動画をあげる、残りのことは全部YouTubeがやります、そういうモデルですよね。
従って、いろいろ形式が違う諸般のご事情があるということよりも、データが収集できるっていうことのほうの価値観のほうが、圧倒的に大きいというのが、彼らのプラットフォーマーの考え方なのです。
もう1つは、いろいろなプラットフォームがあるのをどうするんだというお話もあるかと思います。クラウドベンダーの、例えば、そういうものをどう強調していくかといったときに、Amazonが出てくるかっていうと、一切出てこないです。 なぜかっていうと、別にそんなものは、自分達より小さいところと一緒になる必要はなにもないからです。必要であったら、買収してしまえるわけです。
ここら辺は、やっぱりかなり競争原理が厳しい領域のなかで、日本がどういうふうに立ち振る舞うかっていうことは非常に重要で、私共も地球環境のプラットフォームを作っているのですけれども、最近は、皆さんが、データを載せさせてくださいっていうふうに来られるようになっているのです。それまでは、データを載せませんか、とこっち側が言っていたのです。だから、あるいき値を超えると、そこでだいぶ勝負がついてくるのです。
それまでは、質の高い、有用なデータをどれだけサービスに寄与するか、というようなことが、やっぱり粛々と真摯に、そういうことを積み上げていくっていうこと以外に、プラットフォーマーとして勝つという道はないのかな、というのが、我々の印象観でございます。
河井: それこそ、超ビッグデータプラットフォームというのができると、そこら辺はあまりケアをしなくてもよくなっているということもあるのですか。その、今のデータの種類がたくさんある辺だとか。
喜連川: そうですね、アプリとプラットフォーマーを考えたときには、プラットフォーマーのIT屋がなるべく洗練化する。いろいろなツール、キットを用意せざるを得なく、実際そうなっているわけですよね。
逆にいうと、医療系とかファクトリ系とか、世の中的にはトランスポーテーションかエナジーか、山のようにあるわけですけれども、そういうところが中途半端なITをごちゃごちゃしていただくよりも、ズボっとプラットフォーマーに依存する構図になってくる。
逆にいうと、プラットフォーマーは、今のAmazonを見ればわかるように、コンピューティングリソースがほしいから、あるいはストレージのリソースがほしいからって使う人など、今もはやいないのです。 なぜクラウドにいくかっていうと、ソリューションそのものがサービスになっていると、一番早くソフトウエアが流出されるのがクラウドの上であって、個別のライセンスになんて話はもはやなくなっているわけです。この生態系を我々は理解していく必要があるかと思います。

ネットワークとデータ

河井: 原田先生はわりとネットワーク側の取り組みということだと思うのですが、やっぱり同じようにネットワーク側も多様なインタフェースというかモノに対応していく必要があるかと思いますが、どうですか。
原田 博司 教授京都大学 工学部)写真 原田: 多様といっても、一応ネットワークはいわゆる基盤という物理層、データリンク層とかがあるので、そこの部分は多分標準化は絶対されているはずなのです。いくらYouTubeがどんなフォーマットが載るといっても、電送系は全部IPを使っているわけで、そこは揃ってくるのです。そこの種類は限定されてくるはずです。その上に載ってくるデータが別に何のフォーマットでもいいと。
でも、そのためにアクセスするためのインタフェースはちゃんと規定しないといけない、ある程度。逆に今度取り出すときのAPI、今日私はデータコレクションのほうのプラットフォームを説明しましたけれども、そこは一応ちゃんとしておかないといけない。
ただデータの質は揃っていないのです。例えば、今日お話しした例でも、血圧のデータ自身と温度のデータは全然違っていて、血圧のデータは血圧計でエンクリプション(encryption/暗号化)している場合があるのです。エンクリプションをされていても一応のせるのです。この時間に届いたエンクリプションデータとして置いています。 あとどうにもできないようなカテゴリーのものを、例えば画像とかそういうものには、画像というカテゴリーを置いているのです。
でもそのカテゴリー分けもせずにバラバラにするというのは多分まずくて、ざっくりした振り分けをして、そのためのアクセスインターフェースはちゃんと標準化するのは必要かとは思います。
河井: 永井先生、そういうデータを、フォーマットもあるエリアでは統一感も必要でしょうし、それ以上に、多分集めることも必要だというお話があったと思います。もっとそのデータを集めていく必要がきっとあると思うのですけれど、そこを進めていくにはどうしたらいいのでしょう。

データ収集における問題

永井: 現実には、よほどのモチベーションがないと進まないのです。本日お話しした心臓カテーテル検査の標準化と電子カルテとの連携は、実はすでに15年を要しています。それでもやっと素掘りのトンネルがつながった段階です。
実際つないでみるといろいろな問題がありますので、まだ現場ではメリットを感じられないだろうと思います。また予算を確保しても、これまでシステムの簡単な補修をしてくれる人がいないという状況が続いていました。実際、システムエンジニアは引っ張りだこです。世の中にもっと大きなニーズがあるようで、こうした研究事業には人が回ってこないのです。市場を生み出す環境が必要で、そのためにも今回の研究でメリットを示したいと思います。
河井: 喜連川先生、三重県と一緒にやっている例もあると思いますが、データを出そうとか、そういうモチベーションを高めていくための説得材料みたいなものはあるのでしょうか。
喜連川: これは、満武先生が長年信頼関係をご構築なされておられて、それでもやっぱり、まずは三重県からということ。永井先生は熊本からというふうに、なかなか 、人の健康データはやや特殊な形かと思うのです。
でも日経さんがいろいろ見ておられますように、産業セクターに行きますと全然姿が違うのです。例えば、エンジンというようなものを見た場合に、それはどうオペレーショナルに使えるかという状況をオペレーショナルカンパニーからエンジンカンパニーに対してもデータを出すと。これはもうエンジンの値段よりもそのあと使っているガソリン費のほうがもう圧倒的に大きいわけです。そこのコストリダクションをぐっとできるということになると、カンパニーにとってはものすごく大きなプロフィットになる。そのためにはもうデータがすべてだという感覚があるのです。
そうすると、それを適応すると、あの県に行くと寿命が延伸する、健康に暮らせるというようなことがだんだんわかってきますと、もうサイクルはぐるぐる回るはずです。この自治体というものが国家というレベルになりますと、日本というところに行けばこんなに、さきほどの高血圧のスパイクみたいなのがありましたけれども、それがうまく制御できて軽やかに生きていけるのだ、というようなことになると、その国家のコンピタンスになるわけです。
多分その一番スタートポイントに私共は今立っているのではないかなと、このへんはちょっと永井先生のご専門領域だと思うけれども。
永井: 自治体にお願いに行きますと、それぞれに条例がありますから、なかなか判断が難しいことがわかります。やはり公的な枠組みが必要なのだろうと思います。例えば癌であれば登録法がありますので、データが集まりやすい環境があるのではと思います。
これは十分な議論を経なければなりませんが、第三者機関に審査を委ねて了解が得られたときには匿名化された情報を使える仕組みが必要です。それがないと関係者に個別に了解を得なければなりませんので、その辺の仕組みを社会としてどう作るかが大きな課題です。
河井: 小谷さん、その辺、実際、例えばこんな仕組みもあるとか、例えば役所の方たちと話してこんな意識なのだとか、なにかそういうことはありますか?
小谷: 永井先生がおっしゃった、いわゆる社会の合意を得るという話は多分すごく重要で、おそらく先ほどからおっしゃっている、圧倒的にこれはすごいというのも多分見せていかないといけないわけです。
去年、最初のキックオフイベントで、こういうコンセプトでやるのですよ、という話をお伺いして、私自身がコンセプトが何かわかりましたみたいな感じだったのですけれども、今日いくつかのいろいろなプレゼンをお伺いして、あ、ここまでいろいろわかってきたのだなっていうのがすごくわかったのです。
おそらくその次、社会の合意を得るというとこに至るためには、ここまでわかってきたというところでは駄目で、それは皆さんももちろんご存知のとおりだと思うけれども、ここまでわかってきたっていうことのさらにその次、わかってきたことによって何ができたのか、何に還元できたのかというところ、そこを多分第3ステップとして提示されるという段階になると思います。 そこの部分がおそらく多分すごく重要で、そこが見えてくると、ある種のいろいろな意味での合意、先ほど一番冒頭におっしゃっていたような、じゃこれに突っ込んでもいいかなみたいな話にはなってくるかという気がします。なので、そこの次、第3段階のステップで、どんなものが提示されていくのかというのが、おそらくすごく大事なのかと思います。
河井: 原田先生、今みたいな話でいくと、いろいろなアピールを世間にしていかなきゃいけないことになると思うのです。ある意味僕らメディアもそういうことの一端を担うわけなのですが、どこに、誰に、どういうふうに訴えていくっていうところを中心にしていくといいのかというのを今思っていたのですけど、その辺などご意見ありますか?
原田: やはり最初は、私的なところよりも公的なものなのかと思っています。まず自治体、例えば今回の場合はいくつかの自治体を選択して実施していると思うので、そこである程度効果が出てくると、多分他の自治体に広がっていくと。そういう繋がりを少しずつ増やして、先ほど喜連川先生がおっしゃったように、今の状態は、我々はどうですかというように自治体にいって依頼をしているのですけど、向こうから来るような、すぐ施策などに使えるもの、要するにそろそろマーケティングを入れないといけないと思っています。実際使いたい人がどういうところを求めているのか。
私もヘルスセキュリティのディスカッションに参加しているけれども、やはり、研究ベース、論文ベースになってきたりすると、そこにやっぱり乖離があるのです。これは私の無線機のところもそうです。個人としてはやっぱり論文も書きたいと。でも、もっと下世話な話をして、マーケティングも考えないといけないと。なので、そろそろいわゆる企業でいうとCTOかCEOを誰かつれてきて、そこでマーケティングをするということを始めないとまずくて。そのマーケティング先はまずその自治体系を数珠つなぎにできるようなシステムになるのかとは思っています。
河井: 今日プレゼンテーションをずっと聞いていて、何ていうのでしょう、データがあるとこういうことがわかるという説明をいくつかいただいて、あー、そうなのだなというのはすごくよくわかったのです。一方で、データという、その切り口というか、見方をしてしまうと、例えばテレビでも最近すごくよくあるのですけど、こういうことをやっている人たちは何歳までに何々になる確率が何倍です、みたいなことがすごく思いだされて、やけに怖がらせているだけの感じもすごくするのです。自治体の方たちはそれでいいと思うのです。そういうので例えば社会保障費がこれぐらいかかってしまうと、それを、こういうふうにデータを使うと改善できます、というのはいいのですけど、実際にその患者みたいな立場に立っていたときには、もう少しメリットの方をうまく見せてあげるという方がいいのかと思ったりしていました。永井先生、そんな感覚で僕はいるのですけど、どうですか。
永井: 統計の分析は、確定的ではありません。ある確率でこうではないかとか、偶然にしては稀なことが起こったので、偶然によるのではないだろう、などという推測をもとにしています。統計解析を信じ過ぎるのもいけないし、かといってこれを否定することもできない。統計はひとつの説明仮説という位置づけです。その上で実証的な研究を進めないといけないのですが、実証主義にとらわれると判断を誤ることも多い。そういう位置づけであることを理解しておく必要があります。
また、医療の研究では、研究者のための研究というよりも、むしろ国民1人1人が自律的に生きていくための資料を提供するための研究であることを意識する必要があります。例えば、薬を飲んでおられる方にとって、その薬は本当に意味があるかを自分で考えられることが大切で、そのためのデータを提供することが医療研究の目的です。そのときに、社会からこうした研究がサポートされるのだろうと思います。
河井: そうすると、今日のお話の中にあったマクロの、世の中のトレンドというか、こういうものですよという傾向と、ミクロのところで自分の状態がどうかというのとを突き合わせることで、いろいろわかってくるっていうことですね。
永井: その通りです。これから医療制度改革が行われます。そのときに、国民が本当に納得できるように根拠を提供する必要があります。それが、生活者1人1人の自律的生き方に貢献するということではないかと思います。

データと時系列

河井: もう1つ、ヘルスセキュリティのほう方で僕が気になっていたことで、聞かせてください。これは、喜連川先生か永井先生が、どちらがいいのかと思っているのですけど、時系列というお話をしていますよね。これは、どのぐらいの時間の時系列があるとデータとして役に立つということになるのか、と思うのですけど。
永井: 時系列が大事な一つの理由は、長生きになったからです。戦後であれば、肺炎に対するペニシリンの効果は、10人に数日使えばわかりました。ところが長寿社会で生活習慣病が増えると、例えばコレステロールを下げて心臓発作が減るかということは実感ではわかりません。数千人を少なくとも5年にわたって治療してみなければなりません。ですからある治療法が、効いた効かないといっても、たまたまかもしれません。たまたまを乗り越えるのには時系列でしっかりみていかないといけないということなのです。
河井: 今までの蓄積もあるけれど、でもデータとしてはまだまだこれから貯めていかなければいけないと。
永井: 高齢化で増えている生活習慣病のイベントと呼ばれる事象ですね、脳卒中や心臓発作を防止するのかは、相当長い間見ないとわかりません。
河井: 喜連川先生、ヘルスセキュリティの方はこれで終わりにしますけれども、最後にデータの量ですが、先ほど6年分で2000億レコードというお話をちょっとされていたのですけれど、それは超ビッグデータプラットフォームがあると全然平気なのですか。
喜連川: いや、平気なようにしないといけないことだと思うのですけど。
河井: 時系列をとり続けると、どんどん膨らんでいく一方で、そうすると、どこかで限界も来るのかと思うのですけど、どうなのですか。
喜連川: まだ全然限界は来ないでしょうね。人間が生きている寿命なんて100年もないぐらいのものですから。我々感覚からいえば、全然つまらないデータ量、というと怒られるのですけれど、大したデータ量ではないといって過言ではありません。永井先生は結構、丁寧に、比較的リーズナブルな時間感覚をおっしゃったと思うのですけれども。我々的にほしいのというのは、もっと大きなスケールなのです。どんな教育を受けて、どんな人に影響を受けると、どのような人間に育っていくのだろうっていう、いい意味も、悪い意味も、実際にはどういう教育がいいのだろうと、そういうことの方が遥かに興味があるわけですよね。医学は興味がないというのではなくて、そういうことも興味がある。そういう意味では、長く集めることの価値観というのは絶対減ることはないと、私は思っています。
永井: 今日お話ししたように、子供達に抗生物質が処方されています。本当に重要なのか、あるいは問題がないのか、その意味がわかるのにおそらく10-20年は必要です。子供達が成長したときにどういう影響があるのか、さらに年齢を重ねたときにどうなのかということになれば、数十年は観察が必要です。
河井: そういう意味だと、最初に永井先生がおっしゃった社会システムとして捉えると、どのぐらいあればいいというのではなくて、ずっと取り続けなければいけないという話ですね、わかりました、ありがとうございます。