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  固体中では、外部から加えられた磁場(H)は磁化(M)を、電場(E)は電気分極(P)を誘起しますが、磁化と電気分極が強く絡み合う現象の研究は現代においてもなお、未開拓と言ってよい分野です。
  19世紀末、Pierre Curieによって電気磁気効果(磁場で電気分極を、また電場で磁化を起こす効果)を示す物質の存在が予言されました。それから60年以上経た1960年頃、ようやくロシアの研究者によって電気磁気効果の基となる物質相(マルチフェロイックス=強誘電性と強磁性が共存する物質相)が発見されましたが、その電気磁気効果は非常に弱く、応用上の意味を持つまでには至りませんでした。ところが、最近、強い電気磁気効果を持つマルチフェロイックスが、十倉等によって発見された(2006年)ことで、Pierre Curieの予言が改めて注目を集めるようになってきました。このマルチフェロイックスは、世界で初めて磁場による電気分極の反転を示しただけでなく、その逆の電場による磁化反転の存在を示唆しており、この材料系の大きな広がりを予感させられるものでした。強い電気磁気効果は、磁化と電気分極の強い相関から生まれますが、この未開拓の分野の研究を進めることは、科学的に大きな意義を持つだけでなく、これまで存在し得なかった動作原理に基づく革新的な電子デバイスの創製につながると期待されます。
  本研究領域では、磁化と電気分極の強い相関を持つマルチフェロイックスの創製と、その物性を説明する学理の構築を総合的に行うことで、材料の新たな設計指針を見出しつつ、ものづくり手法の高度化と合わせて、新規材料群の開拓を行います。また、将来の電子デバイス創製に向けて、電気磁気相関の制御技術の基礎を築きます。それに加え、強い電気磁気相関によって発生する特異的な光学応答現象を研究するための電気磁気光学を創成します。
  具体的には、次の二つの設計指針、a) マルチフェロイックスとなりうるスピン超構造(電子スピンの方向が結晶格子上で周期的に変化している構造)を持つ物質群の探索、b) 強磁性物質を含み電気分極が発生するよう設計された人工的な界面物質相の形成、に沿って材料開発を行います。これを実行するために、理論設計、バルク単結晶育成、界面物質相作成の各項目について、研究を進め、物質探索と創製を行います。また、見出されたマルチフェロイックスの磁化と電気分極の相関を実験によって検証し、その物性機能発現のモデル化を行います。それによって、より強い電気磁気効果を持つ物質の開発を目指すと同時に、電気磁気相関の制御技術の基礎を築きます。また、方向2 色性などのマルチフェロイックス特有の様々な電気磁気光学効果の検証、それを用いたレーザ発振の可能性の探索など、新たな研究分野である電気磁気光学を創成します。加えて、放射光施設におけるビームライン・測定系の開発によって、電気磁気効果の基礎となる構造物性研究を行います。
本研究領域は、「マルチフェロイックス」という新たな概念を導入した固体電子物理学の新展開を目指すものであり、これを精密に制御することで新規な物性を発現させる方法論の確立につながると期待されます。さらに、わずかな消費電流(変位電流のみ)による磁化制御機能を用いた省電力半導体記録素子など、革新的な電子デバイスの創製につながると期待できます。よって、本研究領域は、戦略目標「情報処理・通信における集積・機能限界の克服実現のためのナノデバイス・材料・デバイスの創製」に資するものと期待されます。

研究概要図

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