成果紹介1

Spotlight 2017/11/17 in Applied Environmental Microbiology

細菌は決して孤独な生き物ではなく、自身が生産するアシル化ホモセリンラクトン(AHL)と呼ばれる細菌間シグナル物質を介して周囲の仲間の細菌を感知し、コミュニケーションを取ることで、病原性発現などの様々な表現型を制御しています。本研究では、このAHLを分解し、細菌間コミュニケーションを遮断する新規な酵素(AHLアシラーゼ)を多剤耐性菌より分離し、精緻な機能解析を実施しました。その結果、本酵素は既知のAHLアシラーゼの中で最も基質特異性が広く、アシル鎖長の異なる様々なAHL異性体を分解することが判明しました。また、本酵素は植物病原性細菌が生産するAHLを分解し、そのコミュニケーションを遮断することで、植物に対する病原性を顕著に低下させることが確認されました。さらに興味深いことに、本酵素は細菌間コミュニケーションの遮断だけではなく、ペニシリンを始めとする様々なβラクタム系抗生物質も分解することで抗生物質耐性にも寄与する「両機能性酵素」であることが明らかとなりました。以上のように、本研究は両機能性を持つ新規な酵素の発見と機能解明により、AHL分解と抗生物質耐性という従来全く異なるものと考えられてきた2つの微生物機能の間に初めて関連性を見出すと共に、現在世界中で問題となっている多剤耐性菌の出現にAHLアシラーゼが関与し得るという新たな知見を提唱しました。

本成果は米国科学誌 Applied Environmental Microbiology誌の2017年7月号に掲載され、編集委員が選定するスポットライト論文に選定されました。

論文情報

Hiroyuki Kusada, Hideyuki Tamaki (CA), Yoichi Kamagata, Satoshi Hanada, Nobutada Kimura
Appl. Environ. Microbiol., 83: e00080-17 (2017)