本研究領域は、次々世代(次世代スーパーコンピュータ「京」の次の世代)あるいはそれ以降のスーパーコンピューティングに資する、システムソフトウェアやアプリケーション開発環境等の基盤技術の創出を目指すものです。
具体的には、2010年代半ば以降に多用される、メニーコア化された汎用型プロセッサや専用プロセッサ(現在GPGPUと呼ばれるものを含む)を用いて構成されるスーパーコンピュータの特徴を生かし、その上で実行されるアプリケーションを高効率・高信頼なものにするシステムソフトウェア(プログラミング言語、コンパイラ、ランタイムシステム、オペレーティングシステム、通信ミドルウェア、ファイルシステム等)、アプリケーション開発支援システム、超大規模データ処理システムソフトウェア等に関する、実用性を見据えた研究開発を対象とします。また、実用上の観点からそれらのソフトウェアレイアをまたがる研究開発が奨励されます。
超大規模計算・記憶資源を活用した数値シミュレーションやデータ解析は、理論や実験・観測に加えて新たに登場した科学・技術の第三の方法論として、その役割の重要性が飛躍的に高まっています。これに呼応して、欧米、中国ではスーパーコンピュータの開発競争が激化し、我が国でも、2012年には次世代スーパーコンピュータ「京」の正式稼働が予定されています。スーパーコンピュータのこのような重要性に鑑み、各国でもすでに次の世代、すなわち次々世代のスーパーコンピュータの開発が水面下で進められ始めているのが現状です。
スーパーコンピュータの存在が有意義になるためには、その上で実行されるアプリケーション領域でのシミュレーションプログラムやデータ解析プログラムが開発されるのみならず、スーパーコンピュータのハードウェア性能を十分引き出すことを可能にする、質の高い設計のもと高機能・高信頼性を有するシステムソフトウェアの存在が不可欠です。本研究領域では、このようなシステムプログラム、すなわち、プログラミング言語、コンパイラ、ランタイムシステム、オペレーティングシステム、通信ミドルウェア、ファイルシステム等や、アプリケーション開発支援システム(数値計算ライブラリを含む)、超大規模データ処理システムソフトウェア等の研究開発を行います。
次々世代以降のスーパーコンピュータのアーキテクチャは、メニーコア化された汎用型プロセッサや専用プロセッサ(現在GPGPUと呼ばれるものを含む)を用いて構成されるという方向性以外は、必ずしも明確になっているとは言えません。これを受けて、本研究領域の研究課題の提案においては、研究開発で前提としているアーキテクチャを出来る限り詳しく記述していただきます。採択された研究課題は、前提とするアーキテクチャ上で研究開発するシステムソフトウェア等が効率良く稼働する可能性が高いことを実証するとともに、その成果をオープンソースとして公開する等により本研究領域の発展に貢献して頂きます。また、対象アプリケーションを想定した上で、ハードウェアからアプリケーションまでの協調の可能性を十分考慮したシステムソフトウェアの研究開発が提案されることが望まれます。
さらに、本研究領域での採択課題は、最長5年間という研究開発期間がありますが、実用の可能性の高いシステムソフトウェア等が最終的に実現される見通しが付くことを、中間評価の段階で相当程度実証していただく予定です。その評価結果によっては、以降の研究計画を大幅に見直していただいたり、研究課題間の一層の連携を求めたり、場合によっては研究課題を中止することもあり得ます。
本研究領域を推進することにより、研究領域の期間の後期(2015年頃から)において、次世代スーパーコンピュータ「京」に続く、次々世代以降の我が国のスーパーコンピュータに活用され得るシステムソフトウェア基盤技術を創出します。また、次々世代以降の、超並列コンピューティングによるスーパーコンピュータのシステムアーキテクチャ、ソフトウェアアーキテクチャの方向性づくりに貢献します。このために、企業や海外研究者と情報を共有しつつ研究開発を実施する等の産学連携や国際連携を進めていける体制が望まれます。
さらに、各研究課題が終了する頃(2016年頃)から、超並列計算機システム上で本研究領域の成果を用いたシステムソフトウェアを利用して、大規模データに基づく新しい大規模シミュレーション・予測手法等が生まれ続け、環境分野からライフサイエンス分野に至る広範な分野で、科学・技術の新たな展開がもたらされると期待されます。
本年度は、昨年度と同様にアプリケーション、組み込みシステム、アーキテクチャ等の研究者が本領域に応募され、「システムソフトウェア」の研究に挑戦してくださることとともに、社会・経済・政治現象を対象とする大規模シミュレーションが可能となる、離散事象シミューション実行プラットフォーム(シミュレーションのための開発・実行システムであり、アプリケーションソフトウェアではありません)の研究提案も期待します。また、研究提案は、一般に研究代表者がその研究構想を実現するために必要十分なチーム構成で良いので、総額1.5億~3億円未満(CREST種別Ⅰ)の比較的小規模チームもエンカレッジします。