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地域イノベーション創出総合支援事業
重点地域研究開発推進プログラム「育成研究」
平成22年度終了課題 事後評価報告

平成23年11月
独立行政法人科学技術振興機構
 イノベーション推進本部 産学連携展開部



(1)JSTイノベーションプラザ北海道

課題名: デジタルレンズ電子顕微鏡の研究開発
代表研究者北海道大学大学院工学研究院 教授 郷原 一寿
共同研究企業等鞄立製作所
研究期間平成20年4月〜23年3月(平成19年度採択)
 
【総評】
電子回折パターンから位相回復アルゴリズムを用いて実像を得るデジタルレンズ電子顕微鏡の開発において、原理検証機による性能評価では低い加速電圧で当初目標を超える分解能が得られる等、実施計画の達成度は高いといえる。本顕微鏡は軽元素やバイオマテリアルをはじめとした非周期構造を持つ物質の原子スケールの観察にも応用可能であり、新たな計測ツールとして製品化に向けたさらなる研究開発を期待する。 


課題名蛋白質大量発現細胞株の確立と生産蛋白質(バイオジェネリック医薬品等)の
有効性評価
代表研究者北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター 教授 鈴木 定彦
共同研究企業等扶桑薬品工業
研究期間平成20年4月〜平成23年3月(平成19年度採択)
 
【総評】
 蛋白質の大量発現細胞株を簡便かつ迅速に樹立し、その産生蛋白質の生産量及び活性が目標を大きく超えたことで実施計画の達成度は高い。更に、事業化に向けた中規模培養試験の実施や、元シーズよりも安価で安全な大量発現細胞株の樹立法を開発する等、計画を超える成果が得られたことは大いに評価できる。事業化に向けては、様々な蛋白質に応用可能な技術であるため、自社開発、共同研究開発両面からのアプローチにより、幅広く技術シーズが実用化される事を期待する。


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(2)JSTイノベーションプラザ宮城

課題名タンパク質リン酸化ディスプレイ法の開発と創薬・診断ツールへの応用
代表研究者京都大学大学院薬学研究科 教授 石濱 泰
(慶應義塾大学先端生命科学研究所 非常勤)
共同研究企業等ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ(HMT社)、ジーエルサイエンス(GLサイエンス社)
研究期間平成20年4月〜平成23年3月(平成19年度採択)
 
【総評】
  慶応大学(京都大学)とHMT社、GLサイエンス社が三位一体となりまさしく原理開発から応用まで一丸となって研究を進め、本育成研究期間中に、新たな創薬及び診断のターゲットとして大いに期待されている蛋白質リン酸化ディスプレイ法を開発した意義は大きい。既に小粒ながら事業化したものも少なくなく総じて本育成研究は産学連携研究の成功例である。


課題名糖尿病治療を目的とした革新的膵島分離システムの開発
代表研究者東北大学 未来科学技術共同研究センター 教授 後藤 昌史
共同研究企業等野村ユニソン梶A崖EO研究所
研究期間平成20年4月〜平成23年3月(平成19年度採択)
 
【総評】
 移植に伴う様々な生体反応の制御を含む溶液の開発、更に、分離、保存、移植に至るプロセスで膵島の生存を図るための酸素化の工夫(中空糸モジュール、酸素ナノバブル水)など、3年間の研究で顕著な成果をあげた。これによりシステム開発の実際的段取りを具体的に描けるようになったが、未だ動物レベルでの成果であり、今後これまでの知見をベースに改善を図り、一刻も早く臨床の場で本システムの機能が作動することを確認することを望みたい。


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(3)JSTイノベーションプラザ石川

課題名芳香族アミノ酸類縁体を用いた高性能成型材料の開発
代表研究者北陸先端科学技術大学院大学 マテリアルサイエンス研究科 准教授 金子 達雄
共同研究企業等旭化成せんい
研究期間平成20年4月〜平成23年3月(平成19年度採択)
 
【総評】
  本課題は、芳香族アミノ酸類縁体を用いて、環境適応性と同時に軽量化に向けた新高分子材料を創成するという意欲的な研究課題であり、その成果を自動車関連素材に応用することを目標として材料開発が開始された。結果的には自動車に応用するには強度不足であると共に、臭いの問題が残り、この実用化は見送られた。開発したポリマーの持つ大きな可能性を考慮すれば、今後の発展性は高い。


課題名環境に優しい産業機械部品化のための高密度ナノ炭素膜の開発
代表研究者石川県工業試験場機械金属部 専門研究員 安井 治之
共同研究企業等潟Iンワード技研、日立ツール梶A豊橋技術科学大学、理化学研究所、神奈川県産業技術センター
研究期間平成20年4月〜平成23年3月(平成19年度採択)
 
【総評】
  DLC(Diamond-like-Carbon)膜は、ダイヤモンドに類似した優れた膜特性をもつことから圧粉成形金型の特殊表面被膜などいろいろな分野で重宝がられている。本研究課題では、この膜をより高密度化させると共に、金属膜との融合を試みて機能性を高めることを目的とした新規のDLC成膜装置の製作がなされた。この装置を活用して、計画当初の目標以上の成果を挙げており、育成研究として高く評価される。今後、この成果が早急に事業化されることが期待される。


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(4)JSTイノベーションプラザ東海

課題名マルチカラーメッセージディスプレイ用高輝度酸化物蛍光体の研究開発
代表研究者三重県工業研究所 主任研究員 井上 幸司
共同研究企業等ノリタケ伊勢電子梶A共立マテリアル梶A名古屋工業大学
研究期間平成20年4月〜平成23年3月(平成19年度採択)
 
【総評】
  低エネルギーの電子により発光できるVFD用蛍光体の開発にはほぼ成功し、試作管の作成まで到達した点は高く評価できる。現時点では、赤色蛍光体の輝度向上等、検討すべき課題が残されているが、全体的には良い結果が得られ、企業化の可能性も高いと考えられる。


課題名ナノシリカ中空粒子内包断熱薄膜用塗料の開発および実用化研究
代表研究者名古屋工業大学セラミックス基盤工学研究センター  教授 藤 正督
共同研究企業等グランデックス
研究期間平成20年4月〜平成23年3月(平成19年度採択)
 
【総評】
 開発された断熱フィルムは地球温暖化防止や原発事故に端を発するエネルギー問題から、その需要は爆発的に増加すると考えられる。機を得た開発であり、高く評価できる。今後、世界的需要拡大も踏まえ、より厳しい条件下での使用に耐えられるよう、更に一層の性能と耐久性の向上に努めたい。


課題名高品質コロイド単結晶を用いた分光素子及び超小型分光光度計の開発
代表研究者名古屋市立大学大学院薬学研究科 教授 山中 淳平
共同研究企業等独立行政法人物質・材料研究機構、富山大学、富士化学梶A概AKシステムイニシアティブ
研究期間平成20年4月〜平成23年3月(平成19年度採択)
 
【総評】
 コロイド結晶を用いて分光光度計を超小型化するという発想は大変興味深く、基となるコロイド結晶も充分な性能を持つものが開発されている。色透過フィルターとしての性能も高く、新しい光学素子として成長する可能性がある。しかし、現時点では明確な製品像が描きにくく、製品化については種々の選択肢を検討する必要がある。


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(5)JSTイノベーションプラザ京都

課題名オーダーメイド手術ナビゲーションシステムの開発
代表研究者奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科 助教 中尾 恵
共同研究企業等パナソニック・メディカル・ソリューション
研究期間平成20年4月〜平成23年3月(平成19年度採択)
 
【総評】
 実時間ボリューム可視化、臓器変形・加工シミュレーションの構築について、適切なアルゴリズムを開発することにより、既存プログラムを凌駕するナビゲーションシステムが達成されている。代表研究者の優れたプログラム開発能力と企業及び医師との密接な連携により、当初計画より早くプロトタイプが完成し、京大病院へ納入されたことは高く評価できる。今後、医師からの要望を反映することで、より有用なシステムに発展することが期待される。また、本システムが完成すれば、手術支援のみならず、医学教育・メディカル教育における教材としても活用可能で、応用範囲が広いと思われる。今後の課題として、医師によってはシミュレーション結果を間違えることもあり得るので、安全に対する対策が望まれる。


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(6)JSTイノベーションプラザ大阪

課題名電子部品の高速・高精度マイクロ二次元・三次元同時形状検査ユニットの開発
代表研究者和歌山大学システム工学部 准教授 藤垣 元治
共同研究企業等一般社団法人モアレ研究所、活タ永
研究期間平成20年4月〜平成23年3月(平成19年度採択)
 
【総評】
 三次元空間計測の新しい手法を開発し、電子部品に適用するために様々な工夫が組み込まれ、実用化の当初の目標を十分に達成するに至っている。格子投影法の技術を極限まで追求し、特に要求の厳しい電子部品生産ラインでの実用機の開発・販売まで達成したことは、高く評価できる。現仕様でのユニット製品化とともに更に次世代対応の高速・高精度化など、スペックを上げた製品についても開発が期待できる。


課題名溶液構造制御によるタンパク質結晶化技術の開発
代表研究者大阪大学大学院工学研究科 准教授 松村 浩由
共同研究企業等椛n晶
研究期間平成20年4月〜平成23年3月(平成19年度採択)
 
【総評】
 新しいタンパク質の結晶化手法とその企業化について道を開いた点で価値が大きい。学術的な面では、固相結晶化法のメカニズムの解明にも着手し、一定の成果を出していて今後の展開が期待される。当初の目標を上回る十分な成果を得ており、企業化も既に始まり、知的財産も確保している。大学と企業の連携が良好で協働活動が実を結んだプロジェクトであり、JSTの育成研究の代表例と思われる。


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(7)JSTイノベーションプラザ広島

課題名埋め込み式バイオ人工膵臓による新規糖尿病治療の開発
代表研究者岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 講師 小林 直哉(H20,21年度)
岡山理科大学工学部 教授 中路 修平(H22年度)
共同研究企業等東京農工大学、(独)国立環境研究所、メディカルサイエンス梶A潟Xリー・ディー・マトリックス・ジャパン
劾eoCel
研究期間平成20年4月〜平成23年3月(平成19年度採択)
 
【総評】
 本研究では「各種インスリン分泌細胞を充填した免疫隔離能を有する埋め込み式バッグ型バイオ人工膵臓(BAP)装置を開発して、新規糖尿病治療に使用すること」を目指し、開発したBAPを糖尿病犬に埋め込み血糖値を制御できる可能性は確認できたが、BAPの信頼性、長期間の制御性、コストなど依然として大きな課題が残されている。今後、研究体制を再構築して課題解決を図ることが望まれる。


課題名先端的分子標的技術としてのpeptide-based RNAデリバリーシステムの開発
代表研究者愛知県がんセンター研究所 腫瘍病理学部 部長 近藤 英作
共同研究企業等琉球大学、シグマ・アルドリッチ・ジャパン梶A神戸天然物化学
研究期間平成20年4月〜平成23年3月(平成19年度採択)
 
【総評】
 本研究は「RNA干渉薬開発のための優れたDDSとして、高機能・標的細胞選択性・低侵襲性を発揮する特異的アミノ酸配列よりなるsmallRNA導入ベクターを開発すること」を目指したが、ほぼ目標どおりに、全く新しいsmallRNA導入ベクターの開発に成功した(mRNA抑制効果は80%程度)。さらに、生体腫瘍イメージングへの応用可能性も示され、今後の展開が大いに期待される。実用化を確実にするためにmRNA抑制効果をさらに高めて競争力を確保するとともに、使用量の低減化や生体内でのデリバリー分子の長期安定化を図ることが望まれる。


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(1)JSTイノベーションプラザ福岡

課題名: 革新的核酸−酵素ハイブリッド化技術の開発
代表研究者九州大学大学院工学研究院 教授 神谷 典穂
共同研究企業等徳島大学、アロカ
研究期間平成20年4月〜平成23年3月(平成19年度採択)
 
【総評】
 2大学・1企業の産学連携組織の密接な共同研究体制を基盤にして、革新的核酸−酵素ハイブリッド化技術の開発研究が実施された。医療機器及び診断薬の大部分が欧米で開発された製品に依存している中で、新規in situ hybridization(ISH)法の可能性を実証するとともに、核酸−酵素ハイブリッド化技術を用いた遺伝子検出用試薬キットの製品化を実現した成果は、育成研究としてかなり優れた研究と判断される。今後新規ISH法の実用化と普遍化への展開が期待される。


課題名: 毒性のないHSP誘導薬の化粧品、医薬品としての開発
代表研究者熊本大学大学院生命科学研究部 教授 水島 徹
共同研究企業等轄ト春館製薬所、サニーヘルスホールディングス梶A貝TTバイオファーマ
研究期間平成20年4月〜平成23年3月(平成19年度採択)
 
【総評】
 毒性のないHSP誘導薬の化粧品の開発研究の結果、肌においてHSPを誘導し、その効果を有効に活用した抗シミ用ドレスクリームを、再春館製薬が製造・販売した点は大きく評価される。さらに、機能を表記できる美白剤の市販が計画されている。一方で承認まで長期間を要する医薬品に関しては、その効果を実証する段階までが実行されており、企業化実現を重視する育成研究として長期的レベルでも優れた研究と評価される。


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(1)JSTイノベーションサテライト岩手

課題名: 蛍光ブドウ糖トレーサー法の実用化技術の開発
代表研究者弘前大学大学院医学研究科 准教授 山田 勝也
共同研究企業等潟yプチド研究所、東京農工大学
研究期間平成20年4月〜平成23年3月(平成19年度採択)
 
【総評】
 生きた単一の細胞がブドウ糖(グルコース)を取り込む様子をリアルタイムに観察出来る技術を開発出来た。細胞内に取り込まれるD体と取り込まれないL体(対掌体)に異なる波長の蛍光体を合成し、細胞の活性度によってブドウ糖の取り込みを時系列的に可視化でき、生命科学の根幹となる事象の解明に寄与出来る技術の構築が出来た意義は大きい。今後、生命基礎科学研究分野のみならず、ガン診断・治療薬や微生物検査などへの応用展開が期待される。


課題名強磁性−反強磁性転移を誘起するイオンパターニングによる
ビット・パターンド・メディアの開発
代表研究者秋田大学工学資源学部 教授 石尾 俊二
共同研究企業等東北工業大学、秋田工業高等専門学校、秋田県産業技術総合研究センター
昭和電工エレクトロニクス梶A日東光器
研究期間平成20年4月〜平成23年3月(平成19年度採択)
 
【総評】
 高密度化が要求されるハードディスクの次世代技術として、1ビット毎に磁性ドットを配列するビット・パターンド・メディア(BPM)が有望視されている。BPMでは直径10〜20nmの高保持力強磁性ドットを非磁性媒体中に規則配列する必要があり、微細加工などのプロセスが複雑なことが課題である。本研究にて磁性転移を誘起する材料としてFePt、加工は拡散熱処理を適用することにより実用性とプロセスの簡素化が出来ることを確認出来た。研究期間内に金属イオンの打ち込みは出来なかったが、今後Pt又はRhを一括で照射する技術を開発することにより大幅なプロセスカットや平坦化が可能となり次世代のメディアとしての応用が期待される。


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(1)JSTイノベーションサテライト茨城

課題名: 高機能性鉄磁性体微粒子を用いた乳癌に対する
新しい低侵襲・個別化診断・治療法の開発
代表研究者慶應義塾大学医学部 准教授 上田 政和
共同研究企業等東京工業大学、神奈川大学、大阪大学、メビオファーム
研究期間平成20年4月〜平成23年3月(平成19年度採択)
 
【総評】
 センチネルリンパ節の同定のための励磁音響効果素子の開発が計画通りには進まず、途中でホール素子(磁気検出器)の開発を並行に進めるなど苦労したが、競合製品のリゾビストに対して、プロジェクトにて開発中の「クエン酸コート20nmフェライト粒子」がセンチネルリンパ節への留まり、MRI造影、励磁音響効果、磁気検出、色、発熱などの点で優れていることを見出し、育成研究としては一定の成果を収めた。診断や治療法に適応し開発を進めるとなれば医薬品に分類されるため、企業の興味としては先ず、生物学的安全性を最低限明らかにしておく必要がある。本課題については期間内に行うことが叶わなかった。また、現段階では、同定(診断)薬としての可能性が示されているだけで、治療薬・技術に比し市場が小さいこともあって、新たな共同研究に発展する開発企業等は見つけられていない。従って、実用化までは道は遠く、今後も公的資金等の助成が必要と考えられる。医師主導による臨床試験を行うにしても、品質管理されたフェライト粒子の製造が不可欠で、これを担う製造機関とのアライアンスが吃緊な課題となる。


課題名生体吸収性合成高分子を用いた3次元細胞空間の構築と
コラーゲン複合化高機能性材料の開発
代表研究者(独)物質・材料研究機構 生体材料センター 高分子生体材料グループ グループリーダー 陳 国平
共同研究企業等セーレン
研究期間平成21年4月〜平成23年3月(平成20年度採択)
 
【総評】
 実施計画に沿った成果が得られており、初期の目標を達成している。プロトタイプの製造にも成功しており、育成研究として高く評価できる。しかし、次のステップに進むには戦略的な思考が必要と考えられる。 改良品としては優れた素材となるものと考えられるため、従来品との差別化と優位性のある機能の拡大技術、及び開発スピードが必須であり、コストと応用範囲の広さもキーとなる。研究開始時には期待が大きく、基礎研究レベルでは完璧に近い成果が得られているが、実用化となると結果的には既存品との差別化が難しいと考えられ、実際の再生医療への応用までには未だ多くの障壁が残る。生物評価の結果が従来品との比較で、優っているかどうかの検証が未だ不十分と言える。


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(1)JSTイノベーションサテライト新潟

課題名: 熱帯熱マラリアの予防と診断を革新的に進化させる
人工抗原ペプチドと関連デバイスの合成的研究
代表研究者群馬大学大学院工学研究科 准教授 奥 浩之
共同研究企業等国立国際医療研究センター、プライム・デルタ梶A東京CRO
研究期間平成20年4月〜平成23年3月(平成19年度採択)
 
【総評】
 マラリアワクチン用のペプチド抗原を合成する実践的手法の開発に目途を付けた。ペプチド抗原と生分解性高分子とのエマルジョン化により作製した微粒子をマウスに皮下投与すると抗体価が明らかに上昇すると共に、60週を超えても免疫価が増加し続け、生ワクチンのような性質を持つ新しい抗原材料としての興味深い特性を示すという、貴重な新知見も得られた。更に、マラリア原虫の感染試験でも免疫効果が確認されたことから、マラリアワクチン開発に向けての基礎的な知見の積み上げができたことは評価できる。並行して進めた免疫価を評価するワクチン効果評価キットの開発にも一定の目途が得られたことから、マラリアワクチンおよびワクチン効果評価キットとしての実用化に期待したい。実用化のための開発には莫大な研究費と時間がかかるため、競争的資金等の継続的活用などによる、更なる着実な進展を大いに期待したい。


課題名米・米糠タンパク質の新規機能性の解明と食品開発
代表研究者新潟大学自然科学研究科 教授 門脇 基二
共同研究企業等京都府立大学、新潟県立大学、亀田製菓梶A築野食品工業
研究期間平成20年4月〜平成23年3月(平成19年度採択)
 
【総評】
 米・米糠タンパク質を用いた開発を進め、これまでほとんど解明されてこなかった米・米糠に含まれるタンパク質の構造を初めて明らかにし、抽出処理と消化性の関連を明らかにした事、腎臓病への緩和効果を見出すなど、新たな機能性に関する知見が得られた事や米タンパク質の製造法に目途を付けた事はそれなりに評価できる。マイクロアレイ技術により遺伝子発現の変化から新規の機能性を見出す取り組みでは、一部で興味深い知見も得られたものの、実用化へとつなげるためには今後も継続的な開発が必要である。総じて、得られた生理的機能を食品として実用化させるためのエビデンスの蓄積や展望を見極めるためのさらなる研究開発が必要であり、今回育成研究にて得られた知見を基に、新たに獲得した競争的資金を有効活用して、企業とより密な連携による実用化への進展を強く期待したい。


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(1)JSTイノベーションサテライト静岡

課題名: ペーパースラッジを原料とする高速・高収率バイオエタノール生産技術の開発
代表研究者静岡大学 創造科学技術大学院 教授 佐古 猛
共同研究企業等静岡県工業技術研究所富士工業技術支援センター・株b川製紙所
研究期間平成20年4月〜23年3月(平成19年度採択)
 
【総評】
製紙工場等から大量に排出されるペーパースラッジを亜臨界水加水分解および高活性セルラーゼ酵素糖化の2段階処理することにより、バイオエタノールを高速・高収率で生産し、その残渣から製紙用原料に使用できる白色度と硬度を持った無機材料を回収する技術がほぼ計画通りに開発できた。
実際に製紙工場から排出されたペーパースラッジを連続で亜臨界処理するベンチプラントを試作して、純度の高いバイオエタノールを精製する効率的なプロセスを実現した。さらに、酵素糖化に用いるセルラーゼもペーパースラッジから製造できる技術を獲得した。
ただし、試験に用いたペーパースラッジの種類によってはエタノール収率に変動がみられるため、その原因と思われる混入物の影響を取り除き、より安定したプロセス作りが重要である。また、回収された無機材料を製紙工程に用いるには白色度に少し課題が残るので、処理温度の調整などが必要と思われる。
今後、残った課題の解決を図るために、企業化を推進する大手企業と協力した具体的な事業化プランの作成とその展開が重要と考える。また、新たな研究助成事業等に応募することを含め、今後の技術開発をさらに加速する必要がある。


課題名: ディーゼルエンジン用超高圧コモンレールの開発
代表研究者信州大学工学部機械システム工学科 教授 杉本 公一
共同研究企業等野村ユニソン
研究期間平成20年4月〜23年3月(平成19年度採択)
 
【総評】
環境対応ディーゼルエンジン用の超高噴射圧で使用可能なコモンレールの実現に向けて、超高圧に耐える鉄鋼材料の開発と加工に関する技術開発は、既に開発した鋼材「TRIP(TBF)鋼」の化学組成と熱処理法を大幅に改良して、従来にない高疲労強度の新鋼材を生み出し、ほぼ研究目標を達成することができた。
この高強度鋼材について、コモンレールに鍛造加工する際の変形シミュレーションを行って適切な形状の鍛造金型を設計し、その金型で試作した部品に熱処理・機械加工・内部応力付与などを施して内圧疲労試験に供したところ、目標の超高圧(3000気圧)に耐える試験結果を得ることができた。
今後、さらに安全率を考慮した実用3000気圧用のコモンレール開発という課題は残されているが、その後に開発したより高強度の新鋼種を用いて加工方法の改良を行えば達成できる可能性は高く、超高圧コモンレールを企業化できる条件は整いつつあると考える。


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(1)JSTイノベーションサテライト滋賀

課題名: ナノダイヤモンドを用いたマルチモーダル分子イメージングプローブの創生
代表研究者滋賀医科大学医学部 准教授 小松直樹
共同研究企業等トーメイダイヤ梶A潟Cオンテクノセンター、和光純薬工業
研究期間平成20年4月〜平成23年3月(平成19年度採択)
 
【総評】
 この研究はナノサイズのダイヤモンド(ND)を均一な大きさに揃える分級技術を開発し、そのNDに金属イオンを注入および表面化学修飾を施し、光、磁気応答性マルチモーダル分子イメージングプローブを創製するものである。研究開発の結果、最小8nmサイズのNDの量産技術と精緻な分級技術を開発した。表面化学修飾により可溶性、標的指向性を与えることに成功し、イオン注入によりNDの光および磁気応答性が確認された。マウスに対してNDは毒性を持たないことが確認されたことは優れた成果である。イオン注入後の熱処理に対する表面化学修飾の安定性、磁気応答性の再現性などについてさらに検討することが課題である。


課題名UHF帯高性能MEMS発振器の研究開発
代表研究者立命館大学理学部 教授 鈴木健一郎
共同研究企業等三洋電機鞄d子デバイスカンパニー
研究期間平成20年4月〜平成23年3月(平成19年度採択)
 
【総評】
 この研究はシリコンをMEMS技術で加工してUHF帯の周波数を直接発振できる小型高性能の発振器のための要素技術を確立しようとするものである。ねじり振動モードを利用した構造体の寸法形状の最適化を図り、高周波数、高Q値、高スプリアス抑制、低インピーダンスなど目的とする発振器の所要性能を得ることに成功した。研究開発の過程で多くの新規知見を得て特許の出願につなげてきたことは高く評価できる。


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(1)JSTイノベーションサテライト徳島

課題名: 高機能・高強度な新規アパタイトグラスアイオノマーセメントの開発
代表研究者徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 准教授 有田 憲司
共同研究企業等潟Wーシー
研究期間平成20年4月〜平成23年3月(平成19年度採択)
 
【総評】
 高機能・高強度な充填用アパタイトグラスアイオノマーセメントの創製に成功し、独創的な質の高い学術的成果が得られ、共同研究企業の協力もあり目標が達成できた。この企業は世界的に大きなシェアを有しており商品化されれば市場は大きい。しかし商品化するには、人での使用実績が必要である。課題としては、現行の商品との競合をクリアすることが必要で、これは企業の責任であろう。そのため医療関係者やユーザに向けて啓蒙が必要と考える。我が国と海外に適用をわけて課題を解決する必要性を感じる。


課題名窒化ガリウム基板を用いた固定型遷移金属触媒の開発
代表研究者阿南工業高等専門学校地域連携・テクノセンター 特別研究教授 塚本 史郎
共同研究企業等鳥取大学、(独)物質・材料研究機構、(独)日本原子力研究開発機構
シオノギファーマケミカル
研究期間平成20年4月〜平成23年3月(平成19年度採択)
 
【総評】
 共同研究機関ならびに企業との連携がよく、多くの独創的な学術的研究成果が得られている。ことに、従来の高分子担持型Pd触媒よりも耐熱性が高い、繰り返し利用が可能であるマイクロ波合成に適した、高い触媒活性を示すGaN-S-Pd触媒が開発できた。研究期間中に製品の販売計画までまとめられたことは大いに評価できる。本成果を使用した化合物ライブラリーの早期受注を行い、成功されることを期待する。


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(1)JSTイノベーションサテライト高知

課題名: 植物工場におけるスピーキング・プラント・アプローチで生育を担保した
植物部位別温度制御システムの開発
代表研究者愛媛大学農学部 教授 仁科 弘重
共同研究企業等愛媛県産業技術研究所、愛媛県農林水産研究所、高知大学、香川大学、井関農機
研究期間平成20年4月〜平成23年3月(平成19年度採択)
 
【総評】
 植物の生育診断を目指すスピーキング・プラント・アプローチ(SPA)に関する要素技術の開発に関して、確実な進展が計られていると評価できる。大学と企業の各グループが全体として整合性を保ちつつうまく連携して、本研究課題に関して一定の成果が得られたものと思われる。今後も企業化へ向けてさらに前進するものと大いに期待される。本研究成果を基として、採択されている他省庁事業をさらに推進され、高品質な農作物の生育と収量増加を担保する技術が確立されることを期待する。また、さらなるデータ蓄積とともに他の栽培作物にも本技術が応用され、より汎用性の高いシステムとなることを期待する。今後も積極的な成果創出によりさらなる“高収益化技術”という優位性を確保できるよう、参画企業との連携をより深め、具体的に研究成果が事業化へ結びつくよう努めてほしい。


課題名柔軟で高品位な短光パルス発生器の実用化による信号品質評価技術の開発
代表研究者高知工科大学システム工学群 教授 野中 弘二
共同研究企業等アンリツ
研究期間平成21年4月〜平成23年3月(平成20年度採択)
 
【総評】
 テーマの選択と集中が研究期間の後半期に行われ、十分な成果をあげられたことは総合的に大いに評価される。しかしながら、将来的にフォトニックネットワークが実現されることを前提としても、現時点における性能や製造コストでは、短光パルス発生装置が光信号評価装置へ組み込まれる可能性は低いと判断される。本研究に参画している企業がフォトニックネットワークに対応できる有効な事業戦略を策定され、本研究で開発された光信号評価装置が実用化されることを期待する。さらに、本研究の実用化に向けて、製造コスト削減への研究連携が生まれることも期待する。なお、競合技術のない1.3μm波長帯LDへの適用研究は、基礎的段階とはいえ優位性を持つ技術であると判断される。


課題名古紙と未利用木質資源から造った炭の植物栽培床と環境資材の開発
代表研究者高知工科大学地域連携機構 教授 坂輪 光弘
共同研究企業等高知県立森林技術センター、高知県工業技術センター、(有)稲田建設
潟_イキアクシス
研究期間平成21年4月〜平成23年3月(平成20年度採択)
 
【総評】
 緑化事業用炭化物の成型と炭化条件が確立できたなど、順調に研究が進捗したと言える。量産体制やコスト面での課題が残っているものの、屋上・壁面緑化資材、観賞用植物栽培床など、事業化が期待できるものと考えられる。共同研究企業の商品化に賭ける熱意が空回りすることがないよう、今後も引き続き、連携体制を確固たるものとして、事業化へ向けて取り組むことを望む。インテリアデザインのセンスも販売促進には重要であるので、商品としての形を明確にすることを担える企業とのタイアップも考えられるとよい。高付加価値化、デザイン性、販売企画力を延ばすことにより、商品化につながるものと思うので、今後その実現に向けて展開することを期待する。


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(1)JSTイノベーションサテライト宮崎

課題名: C型肝炎に対する治療薬の研究開発
代表研究者鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 教授 馬場 昌範
共同研究企業等東京大学分子細胞生物学研究所、オンコリスバイオファーマ
研究期間平成20年4月〜平成23年3月(平成19年度採択)
 
【総評】
 本研究申請の基盤であるγ-カルボリン誘導体については、BVDVに対する非常に高い抗ウイルス活性を有する化合物の合成に成功したもののHCVに対しては抗ウイルス活性を示さなかった。しかしながら、別途検討を行っていたフェナンスリジノン誘導体において、高い抗HCV活性を有する誘導体(HA-719) が得られており、目標は十分達成されている。今後は、誘導体の化学構造の最適化と、より理想的な形の開発候補化合物の最終決定を行い、臨床試験の早期完了と創薬の開発を期待したい。


課題名術中運動野同定・機能的ナビゲーションシステムの開発研究
代表研究者大分大学医学部脳神経外科学 教授 藤木 稔
共同研究企業等潟~ユキ技研、ブレインラボ
研究期間平成20年4月〜平成23年3月(平成19年度採択)
 
【総評】
 リアルタイムでの脳の位置計測、脳表電極による手術中運動機能の状態把握、3次元脳MR画像への情報表示など、当初計画がほぼ遂行され、目標も達成されている。当面は、脳機能解析等を用途とした研究用機器としての製品化を期待したい。また、術中術後の安全性に関する信頼性を高めるニーズは高いものがあるので最新の画像技術の導入の検討とともに特許戦略も含めた研究継続を行っていただきたい。


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(参考)

プログラムオフィサー名簿
プラザ・サテライト 氏名 所属
プラザ北海道 中山 恒義 JSTイノベーションプラザ北海道 館長
プラザ宮城 伊藤 弘昌 JSTイノベーションプラザ宮城 館長
プラザ石川 三谷 忠興 JSTイノベーションプラザ石川 館長
プラザ東海 浅井 滋生 JSTイノベーションプラザ東海 館長
プラザ京都 松波 弘之 JSTイノベーションプラザ京都 館長
プラザ大阪 村井 眞二 JSTイノベーションプラザ大阪 館長
プラザ広島 高田 忠彦 JSTイノベーションプラザ広島 館長
プラザ福岡 持田 勲 JSTイノベーションプラザ福岡 館長
サテライト岩手 平山 健一 JSTイノベーションサテライト岩手 館長
サテライト茨城 後藤 勝年 JSTイノベーションサテライト茨城 館長
サテライト新潟 西口 郁三 JSTイノベーションサテライト新潟 館長
サテライト静岡 徳山 博于 JSTイノベーションサテライト静岡 館長
サテライト滋賀 小林 絋士 JSTイノベーションサテライト滋賀 館長
サテライト徳島 今枝 正夫 JSTイノベーションサテライト徳島 館長
サテライト高知 細川 隆弘 JSTイノベーションサテライト高知 館長
サテライト宮崎 黒澤 宏 JSTイノベーションサテライト宮崎 館長

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