「半導体の界面準位を消滅させ、
かつ金属不純物を除去できる新技術」を開発

(JST大学発ベンチャー創出推進の研究開発成果を事業展開)

 科学技術振興機構(理事長 北澤宏一)では、平成15年度より大学等の研究成果をベンチャービジネスにつなげていくために、起業化に向けた研究開発を行う独創的シーズ展開事業大学発ベンチャー創出推進を実施してきました。
 この度、平成16年度より開始した研究開発課題「欠陥消滅機能を持つ半導体洗浄液の実用化研究」(開発代表者:小林 光 大阪大学産業科学研究所 教授、起業家:岩佐 仁雄)のメンバーが出資して、株式会社 KIT(代表取締役:岩佐 仁雄、本社:大阪市北区梅田1-1-3-267、資本金500万円)を平成19年4月3日に設立しました。
 半導体は、パソコン、携帯電話、テレビなどの電子機器のみならず、あらゆる機器に組み込まれて、現代社会を支えています。半導体表面に汚れ(金属不純物)が存在すると半導体製品の電気特性が劣化するため、半導体製造過程では、酸やアルカリなどの洗浄液で表面を洗い流す必要があります。しかし従来の洗浄液では、材料表面にあれを生じたり、次世代デバイスに使えるレベルまでには汚れを除去できないなどの問題がありました。小林教授らは、シアノ基注1を含む溶液で半導体を洗浄すると、シアノ基が汚染金属と結合し、安定な錯体を形成するため半導体表面に再付着せず、優れた洗浄効果を発揮することを発見しました。また、表面準位注2を形成している半導体表面の未結合手を終端注3して、表面準位が消滅することを見出しました。この洗浄液は室温で使用でき、極めて低い成分濃度でも十分な洗浄能力を発揮し、繰り返し使用も可能です。また、洗浄液を無毒物質から合成する技術や、洗浄液の廃液を窒素と炭酸ガスに分解する技術を開発して、安全かつ環境にやさしいプロセスを達成しました。
 株式会社KITは今後、これらの研究成果を事業化するとともに、 1)半導体やセラミックなど固体表面の表面化学処理の研究開発、2)その成果を応用した装置、部品、薬液などの製品の製造、販売、保守管理、3)これらの技術に関する知的財産権およびノウハウの使用許諾と移管業務、4)表面化学処理技術のコンサルティング――などを行っていく予定です。 今回の「株式会社KIT」設立により、プレベンチャー事業(大学発ベンチャー創出推進の前身の事業)及び大学発ベンチャー創出推進によって設立したベンチャー企業数は59社となりました。


<用語解説>

(注1)シアノ基:
HCN、KCNなどに含まれるCNをシアノ基といいます。HCNはアルカリ性の水溶液中で電離しH+イオンとCN−イオンになっていますが、このCN−イオンが半導体表面に結合して表面を終端したり、金属イオンとシアノ錯イオン(錯体)を形成して金属を除去します。シアノ基は強い結合力がありますが、毒性も強いため、安全な取扱が必要になります。

(注2)表面準位:
半導体を形成している結晶の表面は結合の相手がいないため、自由な結合手が電気的に活性になり半導体製品の電気特性を低下させます。このような表面の電荷の蓄積によって生じる電子の準位(電子状態)を表面準位といいます。

(注3)終端:
自由な結合手に適当な原子や分子を結合させて不活性化することを終端といいます。通常、半導体の表面準位は水素で終端しますが、シアノ基に比べ、水素との結合は弱く温度上昇や紫外線照射などで結合が切れて終端の効果が失われることがあります。

■原理
■製品例
■企業概要
■事業形態

<本件についてのお問い合わせ>

独立行政法人 科学技術振興機構
産学連携事業部 技術展開部 新規事業創出課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5-3
徳山 亜季(トクヤマ アキ)・齋藤 和男(サイトウ カズオ)
TEL: 03-5214-0016  FAX: 03-5214-0017

株式会社 KIT
住所 〒530-0001 大阪市北区梅田1-1-3-267
担当者名 岩佐 仁雄
連絡先  TEL: 06-6879-8451(大阪大学産業科学研究所小林研究室内)
       FAX: 06-6879-8454