評価報告書 > 評価対象研究開発課題の個別評価

大学発ベンチャー創出推進
平成24年度終了課題事後評価報告書

3.評価対象研究開発課題の個別評価

1.研究開発課題名称

低侵襲性高感度マルチ抗原アレルギー診断チップの開発研究

2.開発代表者、起業家 氏名(所属)、側面支援機関

開発代表者:木戸 博(徳島大学 教授)
起業家:鈴木 宏一
側面支援機関:Delta-Fly Pharma株式会社

3.研究開発の目的

 現状のアレルギー診断法は、多量の血液を必要とし、感度も不十分なIgE測定法が主流である。この測定法では患者負担が大きく、現状で測定時間に2時間も要する等の問題を抱えていることから、改良が強く望まれている。本研究開発では、これまでに開発代表者が開発してきたカルボキシル化DLC(Diamond-Like Carbon)蛋白チップの反応条件の最適化を進め、検出時間60分以内の迅速性と、世界初の高感度測定システムを確立することを目的にした。また、汎用性のために、濾紙血や全血の使用が可能な技術を開発し、さらには従来技術では想定不可能である微量の臍帯血を用いた診断技術の実現も次の目的とした。

4.事後評価内容

A)成果
 低侵襲性、高感度化、迅速、多項目アレルギー診断用のDLCアレルギー診断チップの技術確立を目的とした研究開発を実施し、検査所要時間の迅速化(2時間以内)、高感度化(既存法の20倍)、多項目アレルゲンの検定(37抗原)、多項目抗体の測定(IgE, IgA, IgG1等)、臍帯血を用いた検定技術確立、等の各目標項目を達成した。また、これらの研究開発成果を基に、平成22年5月には「応用酵素医学研究所株式会社」を設立し、大手臨床検査会社との業務提携を通じて、アレルギー診断チップの製造販売と受託解析事業開始の準備を整えた。
本事業期間中の特許出願数:6件(PCT 1件含む)

B)評価
①研究開発計画の達成度
 低侵襲性、高感度化、迅速、多項目アレルギー診断デバイス技術を開発し、アレルギー診断のみならず予防と治療にも適用が期待される診断デバイスを完成させた。また、大手臨床検査会社と組み、体外診断用医薬品の薬事申請と診断チップの販売見込みを得たことは高く評価される。今後の課題としては、実用性の向上に必須と思われる「全自動化測定による大量検体処理技術の確立」と併せて、これまでに確立した技術を基に更に優位性のある技術確立と、臨床データの拡充による優位性の検証・確保がある。
②知的財産権の確保
 蛋白質高密度固定化技術に関する原権利が特許登録となり、本事業の成果を元にした特許出願2件と必要な権利確保は進んでいる。今後は、関連技術も含めて国際化と国際標準に向けた更なる権利の確保が望まれる。
③起業計画の妥当性
 本プロジェクトにより、アレルギー検査チップの製造販売そして最終的には医薬品開発のための実用化研究を実施することを目的として、平成22年5月に大学発ベンチャー「応用酵素医学研究所株式会社」を設立した。またその後に大手臨床検査会社との間で、「DLCアレルギー診断チップ」の体外診断用医薬品承認申請に向けて契約締結に至り、事業化に向けて前進したことは評価できる。本格的な事業化に至るまでの間は、関連シーズによる事業で経営基盤を整えつつ、経営リソースを研究開発に重点注力して更に画期的な技術への発展と優位性の確保を目指して欲しい。
④新産業創出の期待度
 これまでに確立した、予防や治療のための診断に必要な特性を備えた基盤技術を基に、抗原の国際標準化や更なる新たな独創的な技術を積み上げることで、国際的競争力を有する新産業創出に繋がる期待は大きい。
⑤総合・その他
 平成25年秋に予定している大手臨床検査会社からの体外診断用医薬品承認申請と、平成25年5月開催の日本アレルギー学会での紹介を契機に、設立ベンチャー企業からの試験研究用DLCアレルギー診断チップの製造・販売と受託解析が開始される状況になったことは大きな成果と言える。今後は、従来のアレルギー診断デバイスでは測定できなかった臍帯血IgE、唾液や腸液のIgAの測定など、独創的な新産業創出に繋がることが期待される。今後確実に市場性を確保するために、優位性の高いオリジナリティーのある関連技術を積み上げて行くこと、およびより幅広い臨床家との共同研究や企業との協力を通じて、更に本技術を発展させて欲しい。

■ 目次に戻る ■