評価報告書 > 評価対象研究開発課題の個別評価

大学発ベンチャー創出推進
平成24年度終了課題事後評価報告書

3.評価対象研究開発課題の個別評価

1.研究開発課題名称

オン・ディマンド型の蛋白質絶対定量キットの開発

2.開発代表者、起業家 氏名(所属)、側面支援機関

開発代表者:寺崎 哲也(東北大学 教授)
起業家:堀江 透
側面支援機関:株式会社エービー・サイエックス

3.研究開発の目的

 従来の蛋白質定量技術では、複数の蛋白質の同時定量解析は不可能であり、これらに対応できる複数蛋白質の同時絶対定量技術の開発が望まれている。開発代表者らは、これまでの質量分析技術を用いた複数蛋白質の同時絶対定量法として、原理的に配列情報のみから全ての蛋白質の定量が可能なmultiplexed MRM法(質量分析装置による定量技術の一種)を確立している。本研究開発では、定量法の高精度化および高速度化を目標に前処理効率を評価するシステムと測定データを解析するソフトウエアの各要素技術を開発し、それらと開発者が有する基礎定量技術(multiplexed MRM法)を統合することで、市場動向にリアルタイムで対応可能な「オン・ディマンド型の蛋白質絶対定量キット」の開発を行う。

4.事後評価内容

A)成果
 一般に定量が難しいとされる膜蛋白質を主な対象として、約40分子の同時定量が可能でかつ安定して高い信頼性を得られる、質量分析装置を用いた絶対定量法を確立した。また、従来技術では利用者の要求に応じた蛋白質を定量するための定量系の確立に約3ヶ月程度以上を要しているが、本技術ではその期間を短縮することに成功し、1ヶ月程度で利用者に要求に応じた定量キットを提供することを可能とした。
 これらの研究開発成果を基に2010年3月に「株式会社Proteomedix Frontiers」を設立した。なお、設立ベンチャーは欧州の企業と業務提供し、2012年には薬物動態学関連の研究用途に、前臨床試験用蛋白質定量キットとして日本と欧州を中心に発売を開始した。
本事業期間中の特許出願数:3件

B)評価
①研究開発計画の達成度
 蛋白質定量の指標として着目すべきアミノ酸配列の選択法を確立することが最も重要な開発課題であった。この開発課題を解決し、新薬開発における前臨床試験用の蛋白質定量キットを製品化するに至った。本技術の応用展開として癌の診断法に関連する定量法、リン酸化蛋白質の定量法、サンプル前処理の自動化は今後の課題として残ったが、総合的には順調に研究開発計画は達成できたと評価する。但し、本技術が有する優位性と特異性を最後まで明確に示すことができず、将来の事業展開に若干の不安を感じる。今後は臨床応用面を中心として事業戦略の見直しと拡充が必要である。
②知的財産権の確保
 海外での事業展開を考慮して、国内だけでなく、欧州、米国などに国際出願がなされており評価できる。また、関連特許のいくつかは既に登録されている。今後のライセンスビジネスにつながることを期待したい。
③起業計画の妥当性
 事業の初期段階として、製造販売承認が不要な前臨床試験用蛋白質定量キットの商品化を目指し、国内外での事業展開を見据えて海外の企業との業務提携を計画した。その結果、設立ベンチャーが欧州の企業との業務提携を実現した上で定量キットを国内外で販売し、ある程度収益力も認められることは、最初の実績として評価できる。将来的には製造販売承認を要する体外診断キットの商品化を目指す計画であるが、今後の国内外の事業戦略をより明確にする必要はある。
④新産業創出の期待度
 現在は、前臨床試験用の蛋白質定量キットの商品化をした段階であるが、ユーザ側のニーズに沿った体外診断キットの商品化に成功すれば新産業創出の期待度は大きい。また、創薬開発でのターゲットとなる受容体、酵素、抗体、ホルモン等の蛋白質を定量することで、将来的には新しい「定量プロテオミクス創薬」に至る可能性もある。しかし、応用展開の模索が続けられているところであるが、現時点では明確なターゲットを選択するには至っていない。社会および臨床的ニーズを十分に考慮した用途開拓への取り組みに期待したい。
⑤総合・その他
 開発者が有する技術を統合して、多種多様な蛋白質について、質量分析装置を用いた絶対定量法を確立した。また、2010年に設立したベンチャー企業を基に前臨床試験用の定量キットとして製品化し、国内外で販売を開始できたことは評価できる。しかしながら、本定量技術が有する優位性や特異性を基にした応用展開(特に臨床応用)の戦略に関しては、ユーザ側のニーズを考慮したうえで、見直す余地が十分にある。今後は目利き能力の高いコーディネーターの活用や、臨床家を始め異分野研究者との積極的な共同研究等を通じて、本技術の価値を最大限発揮できる応用展開を目指して欲しい。

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