評価報告書 > 評価対象研究開発課題の個別評価

大学発ベンチャー創出推進
平成23年度終了課題事後評価報告書

3.評価対象研究開発課題の個別評価

1.研究開発課題名称

高品質な有機強誘電性薄膜作製における標準化技術の研究開発

2.開発代表者、起業家 氏名(所属)、側面支援機関

開発代表者:石田 謙司(神戸大学 准教授 )
起業家:堀江 聡
側面支援機関:財団法人京都高度技術研究所

3.研究開発の目的

 今後急速な市場形成が見込まれる有機焦電型赤外センサ・圧電センサの作製技術確立と標準化を目的に、開発代表者らが考案した高速蒸着(HSD)技術を発展させて、強誘電性分子膜のナノ構造制御と生産リードタイム短縮を同時実現し、有機強誘電性薄膜センサ部材の供給体制を確立する。これら工法開発とプロセス標準化、モジュール化技術を通して、有機強誘電性薄膜センサの製造装置およびセンサ部材販売を担う大学発ベンチャーの設立につなげる。

4.事後評価内容

A)成果
 ナノ構造制御した有機強誘電性薄膜の作製において、当初の三年間で、1プロセス30分、センサ100素子の同時形成の歩留りほぼ100%にて実現した。また、焦電応答特性としてサンプリング周波数1Hzにて平均電圧感度5mVを達成しセンサ素子ベースでは、研究責任者等の当初の生産法よりも100倍の生産効率化を実現する工法として確立できた。その後の延長期間一年間では、更にモジュール化技術の開発に取り組み、手や指の動きを検知する近距離用途と人の体全体の動きを3m程度離れた位置から検知する中距離用途に分類して開発を進め、センサパッケージの出力値での焦電応答特性として平均電圧感度5mV(サンプリング周波数1Hz時)、電圧ノイズ5µV/√Hz以下を達成し、パッケージ信頼性では60℃の耐熱試験をクリアできた。
 これらの研究開発成果を基に、平成23年4月に「株式会社センサーズ・アンド・ワークス」を設立した。
本事業期間中の特許出願数:6件(PCT 1件含む)

B)評価
①研究開発計画の達成度
 有機強誘電性薄膜作成に関しては、高い技術レベルを確保できている。しかし、モジュール化技術に関しては、当初計画したモジュール化された試作品はできているが、周辺技術を含め、市場の要求仕様・規格・価格などスペックの具体化が十分とはいえない
②知的財産権の確保
 開発に伴う権利化は、製造技術特許、アプリケーション特許及び外国出願も行っており、ほぼ適切に実施されているが、アプリケーションについては更なる補強が望まれる。
③起業計画の妥当性
 人感センシングに特化した高度な技術を提供する会社を設立し、パートナー企業との連携や資金調達も実現できたことから立上げは順調であるが、コスト面についての見通しがやや不明瞭である。また、今後事業を拡大していくには、キラー・アプリケーションとその市場形成での問題点を踏まえたビジネスモデルの見直しが必要である。
④新産業創出の期待度
 開発されたセンサは、鉛などの有害物質を含まず薄いフイルム状のアレイ型のセンサとして従来にない特徴を有しており、その特徴を活かし本技術でなければ実現できないキラー・アプリケーションを特定して展開していければ利用される分野が広がる可能性がある。しかし、如何に短時間に市場を形成出来るかどうかにかかっているので、スピード感を持ってビジネスモデルを再検討する必要がある。
⑤総合・その他
 新しい有機強誘電性薄膜センサの量産につながる技術を確立した成果は認められるが、そのセンサの事業化への筋道を確立できたとは必ずしも言えない。特に、事業の柱となるキラー・アプリケーションが確立されていないので、既存製品に対する更なる優位性を確保し,先ずは経営を維持できる最低限の収入を確保しながら、目標としているグローバル・ニッチ型のターゲット新規市場分野でのリスク対策が必要である。また、ユーザーニーズの把握を通じて売上が見込み通りに実現できるかどうかを繰り返し検証していく必要がある。さらに、新規材料に関する開発は今後とも着実に推進する必要がある。

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