評価報告書 > 評価対象研究開発課題の個別評価

大学発ベンチャー創出推進
平成22年度終了課題事後評価報告書

3.評価対象研究開発課題の個別評価

1.研究開発課題名称

短日性農作物の光害を回避するLED屋外照明装置の開発

2.開発代表者、起業家 氏名(所属)、側面支援機関

開発代表者:山本 晴彦(山口大学 教授)
起業家:園山 芳充
側面支援機関:(財)やまぐち産業振興財団

3.研究開発の目的

 夏至から冬至までの日長時間が短くなる季節に花芽が形成される短日性農作物は、治安確保のために設置されている街路灯・防犯灯の照明によって、開花遅延や出穂阻害、収穫量低下など影響を受けている。このため、農地に隣接する地域では、農業生産者からのクレームにより、生活安全確保に必要な照明さえ設置が見送られるケースがある。そこで本研究開発では、夜間に長時間照明をしても花芽形成を阻害しないように、LEDの発光条件を最適化した照明装置を開発し、実用化する。

4.事後評価内容

A)成果
 イネの開花誘導遺伝子の発現量と光害の影響度合いを関連づけ、人工気象器内にて各種条件での影響評価を圃場試験よりも効率的に行う手法を開発した。開発した手法で光源の波長、パルス周波数、デューティー比の各種組み合わせによる光害影響度合いを評価し、最適な組み合わせによる光害防止技術を確立した。また、蓄積した研究データを基に光害の被害額を算定するコンサルタント事業のツールである「光害診断システム」を構築することができた。
本事業期間中の特許出願数:1件
B)評価
①研究開発計画の達成度
 イネの開花誘導遺伝子の発現量と実際の収量等のデータを蓄積し、光害影響度を定量的に評価する手法を開発した。開発した評価手法を基準として、光の波長とパルス発光周波数およびデューティー比を制御することによる光害阻止技術を開発するなど、当初の目標は概ね達成できた。
②知的財産権の確保
 光害を阻止する技術についての特許を出願しており、本研究開発成果について一定の知財化は行われている。現状では競合が少ないが、市場性が認知されると競合が出現するので、参入を阻止するだけの強い知財が必要であり、現在出願している基本的な特許の他にも周辺技術、特にコンサルタント事業の基本となる光害診断システムに関する権利など起業を前提とした特許戦略に基づき知的財産権を押さえておく必要がある。
③起業計画の妥当性
 光害の定量化技術などの成果に基づき、光害の啓発、コンサルティング、光害分析受託へと事業展開するシナリオは概ね妥当と思われるが、起業後の速やかな事業化を考えると、光害に対する啓蒙や開発技術の全国への浸透は起業前に違う主体(例えば、大学や非営利団体)が行うことも検討するべきである。
④新産業創出の期待度
 光害防止の社会的意義は大きく、光害の被害を客観的に判定するソフトとその解決のためのデバイスを提供することで新たな市場が形成される可能性はある。
⑤総合・その他
 これまで相反する状況であった営農と夜間の安全のための照明を、波長、パルス周波数、デューティー比の制御により両立できる技術の開発は大変有意義なものであり、期待は大きいといえる。小さいビジネスを開始するよりも、特許により護られたビジネスモデルを構築の上、この技術を更にPRして、全国的に認知させ、普及させることが肝要である。その際には、地方公共団体や公設試への啓蒙や、それらの機関との共同開発も有効と思われる。

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