評価報告書 > 評価対象研究開発課題の個別評価

大学発ベンチャー創出推進
平成22年度終了課題事後評価報告書

3.評価対象研究開発課題の個別評価

1.研究開発課題名称

原子空孔受託評価及び評価装置製作ベンチャー企業の創出

2.開発代表者、起業家 氏名(所属)、側面支援機関

開発代表者:金田 寛(新潟大学 教授)
起業家:玉木 竹男
側面支援機関:(株)新潟TLO

3.研究開発の目的

 高集積メモリデバイスの大量製造にとってますます必要となる完全結晶ウェーハおいて、点欠陥の状態で含まれる原子空孔の濃度とその分布を制御することは必須の技術課題である。開発代表者らが発明した低温超音波計測は、この課題を解決する方法として注目されており、世界の主要半導体企業から原子空孔濃度の測定依頼が寄せられている。今回、低温超音波計測に用いる圧電素子として、これまで用いてきた酸化亜鉛(ZnO)薄膜のかわりに、有機ポリフッ化ビニリデン(PVDF)圧電薄膜を用いることで、単位時間当たりの測定可能回数(イールド)を大幅に向上させ、需要が増大する完全結晶ウェーハに対する実用評価技術を確立させる。

4.事後評価内容

A)成果
 当初目標に設定した主な技術開発課題であるPVDF圧電素子の開発、及びそれを製品ウェーハと同じ厚さと面方位を持つ短冊状試料に用いた実用的評価技術の開発に成功し、測定時間を1/8に短縮できた。これにより、半導体企業からの要望に応じた製品ウェーハの原子空孔濃度の測定評価が可能になった。また、設定した目標以外の成果として、測定速度を大幅に向上させ、且つ測定操作を簡便にできる要素技術として期待できる磁場スキャン法を見出した。原子空孔濃度の評価測定装置製作については、構成要素となる超音波計測装置、極低温装置、およびPVDF薄膜作製装置の基本設計スペックを固めることができた。
本事業期間中の特許出願数:2件(PCT1件含む)
B)評価
①研究開発計画の達成度
 計測方法について、様々な角度から改良検討がなされ、歩留まりの向上や測定のスピードアップなど実用化に向けた成果を得ることができたと考える。またデバイス製造用に用いられている商用ウェーハの原子空孔濃度評価ができる見通しが立ったことも評価できる。
②知的財産権の確保
 基本特許、関連特許および外国出願も行っており、適切に実施されていると思われるが、今後のビジネス展開を考えると測定手法に関しては、さらに周辺を押さえる必要があると思われる。
③起業計画の妥当性
 要求仕様や要求価格、市場規模などターゲット市場の分析が不十分で、コンサルティングや受託評価により、どのように収益確保していくのか具体性に欠ける。本技術を実用化することによりユーザーのグローバル競争力の向上に貢献するという位置づけで、起業家の関与を高め、事業化フェーズに向けてのリーダーシップを強化することにより、今後、初期成果を出していくことが望まれる。
④新産業創出の期待度
 本技術が直接新産業を創出するのは困難であるが、本技術によってデバイスの微細化に貢献できれば、産業レベルでの貢献は期待できる。
⑤総合・その他
 シリコンウェーハの評価技術は、今後のデバイスの微細化において必要となることは予測できるが、ユーザーが限られる状況であり、本技術を実用化することによりユーザーのグローバル競争力の向上に貢献すると思われる。

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