評価報告書 > 評価対象研究開発課題の個別評価

大学発ベンチャー創出推進
平成22年度終了課題事後評価報告書

3.評価対象研究開発課題の個別評価

1.研究開発課題名称

紙とペンによるユーザコンピュータインタラクションの開発

2.開発代表者、起業家 氏名(所属)、側面支援機関

開発代表者:中川 正樹(東京農工大学 教授)
起業家:堀口 昌伸
側面支援機関:東京農工大学 産学官連携・知的財産センター

3.研究開発の目的

 紙にペンで書くと筆跡の時系列情報を取り込むペン・ペーパデバイスは、紙に筆跡が残る利点があるため、これまで情報化が難しかった用途を開拓し情報化を促進する可能性がある。しかし、現状では、有効な手書きアプリケーションプログラムがない、特定のデバイスでしか利用できないなどの課題により、市場拡大を阻害する要因にもなっている。本研究開発では自由筆記文章の認識について既に世界最高水準の98.6%という認識率を達成した実績を基に、普及の鍵となる新規手書きアプリケーションの開発と認識率の一層の向上(99.5%)、OS依存性の解消を進めて、手書きインターフェイスを自国の技術として確立すると共に、その技術・サービスを提供する会社を設立する。

4.事後評価内容

A)成果
 SVM(Support Vector Machine)手法を採用して単文字認識エンジンの改良、ソート方法の改良を実施することで、日本語文字列の認識精度を98.6%から99.5%に向上できた。また、特定のOSに依存せずに認識エンジンやアプリケーションが開発できるようにするデバイスの抽象化が実現できた。手書き文字列認識・手書き文字列検索エンジンを活用した受付システム・診療報酬請求業務アプリケーションなどの手書き電子カルテ業務のプロトタイプ版を外部協力機関と連携して開発し、現場での評価を受けて商品化へ向けた改善項目が収集できた段階である。さらに、市場が拡大しているスマートフォン用途に向けた文字認識エンジンの改善改良(高速処理・小型化)開発を加速している。
本事業期間中の特許出願数:3件
B)評価
①研究開発計画の達成度
 認識率において性能評価を実施して優れた結果を残しており、研究計画の達成度については充分である。ただし、広く市場に普及するためにはアルゴリズムの優秀さだけでなくそれを実感として納得できる性能を機器の上に実現する実装開発が重要である。新たに拡大するスマートフォン市場への対応については、現有技術による参入の可能性、優位性の見極めを先に行ってから、開発ロードマップ作りに取り掛かるべきと考える。
②知的財産権の確保
 本事業スタート以前に取得している特許がかなりあり、期間中の知的財産権の確保については戦略的検討と積極的出願が行われたと評価できる。
③起業計画の妥当性
 競合製品があるなかでの市場参入を狙った製品開発であるので、市場進出には戦略が必要である。事業を立ち上げて行くには、①強力なソフトに採用されてライセンス販売する、②高性能が要求される市場に特化して性能で勝負するという方法が有力であり、現在想定している手書きカルテの電子化、アンケートの自動集計、塾答案の自動採点などは、当面の作戦としては良いと思う。大きな成長を目指すのであればスマートフォン、タブレット関連の市場に対して迅速な進出が望まれる。
④新産業創出の期待度
 普及が始まった電子カルテは、その導入によって、診察現場の混乱も見受けられる。技術力だけを押し売りするのでなく、人間工学的なシステム作りが肝要で、それがうまくいけば市場への参入は期待できる。手書き文字認識は、携帯端末などでも利用が始まっている技術で、スマートフォンやタブレットなどの市場に参入することができると、大きな成長が期待できる。
⑤総合・その他
 当初の目標を達成していると評価できる。スマートフォンやタブレットなどのデバイスには手書き入力技術はマッチする可能性があるので、キラーアプリの創出を期待したい。動きの速い分野であり、市場の要求変化に追随し、常にトップを走ることのできる組織能力の獲得が必要であろう。

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