評価報告書 > 評価対象研究開発課題の個別評価

大学発ベンチャー創出推進
平成22年度終了課題事後評価報告書

3.評価対象研究開発課題の個別評価

1.研究開発課題名称

ディスポ式、磁気浮上遠心血液ポンプの研究開発

2.開発代表者、起業家 氏名(所属)、側面支援機関

開発代表者:高谷 節雄(東京医科歯科大学 教授)
起業家:永谷 基
側面支援機関:東京医科歯科大学 知的財産本部技術移転センター

3.研究開発の目的

 従来の血液循環補助に臨床応用されている体外設置型の循環補助用血液ポンプ(ローラポンプ、遠心血液ポンプ、等)では、取扱が簡便である反面、機械的な耐久性や生体適合性などの諸問題から、使用場面が制限されていた。本研究開発では、これらの問題点を解決することを目的に、これまでに開発したディスポ式、磁気浮上遠心血液ポンプの技術を基に、血液接触面に生体適合性の優れた素材であるMPCをコーティングする事により、人工心肺、膜型人工肺、PCPS(経皮人工心肺)や術後の循環補助などの、短期から中長期(一か月)の循環補助がミニマム抗凝固療法で実施可能なシステムの研究開発を行う。

4.事後評価内容

A)成果
 開発代表者らは、独自の最先端磁気浮上技術を遠心血液ポンプに適用し、磁気浮上遠心血液ポンプの研究開発を行い、仔牛を用いた実験を通じて"1週間ポンプ"の技術確立を経て、"1ケ月ポンプ"を目指した60日間の安全かつ有効な循環補助機能を立証し、完全非接触式、シングルユース体外式磁気浮上遠心血液ポンプの技術を開発した。
 これらの研究開発成果を基に、平成23年8月に「株式会社メドテックハート」を設立した。
本事業期間中の特許出願数:1件
B)評価
①研究開発計画の達成度
 仔牛を用いた動物実験で60日間安定した循環補助が3頭において確認された。1カ月間循環補助可能な「ディスポ式、磁気浮上遠心血液ポンプシステム」という目標はほぼ達成しており、工学的技術はすぐれていると思われる。更なる安全性・有効性の確保のため、動物実験を含めた、総合的な信頼性のレベルを示すことが重要と思われる。
②知的財産権の確保
 本研究開発の基となったポンプに関する特許の権利化、新規特許の出願、関連特許の調査、及び、研究開発成果の発表など知的財産権の確保は十分に行われている。事業化については、国際出願中の特許が取得できるかどうかが重要と思われるので、確実に特許登録できるような対応が必要である。
③起業計画の妥当性
 自社での医療機器製造販売という当初ビジネルモデルではなく、国内外の製造販売企業へのライセンス供与というビジネスモデルで起業し、国内外の製造販売業者との契約を進め、平成25年度には製品販売開始予定という起業・事業計画が立てられた。今後、上市までにしっかりしたデータの蓄積と、事業上のリスクを十分考慮した価格戦略が望まれる。
④新産業創出の期待度
 欧米においては競合品は順調に伸びており、国内においても昨年12月に承認された長期使用を前提とした二種類の植え込み式補助人工心臓と、短期使用が前提の体外循環ポンプとの狭間を埋めるものとして体外式中長期循環補助デバイスの使用ニーズが顕在化しつつあり、新規の産業分野として成立することが期待される。競争が激しい事業領域であり、類似の補助システムは既に存在していることから、本技術の優位性、独自性の強化が望まれる。
⑤総合・その他
 磁気浮上型ポンプの技術ならびにその前臨床的評価は十分なものが得られた。医科学領域での応用という特殊性を考慮し、起業・事業化に関する対策・戦略について十分に練る必要があろう。

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