評価報告書 > 評価対象研究開発課題の個別評価

大学発ベンチャー創出推進
平成20年度終了課題事後評価報告書

4.評価対象研究開発課題の個別評価

1.研究開発課題名称

分子設計可能なデプシペプチド共重合体を用いた革新的DDS新薬の研究開発

2.開発代表者、起業家 氏名(所属)

開発代表者:小濱 一弘 (群馬大学 教授)
起業家:西山 利巳

3.研究開発の目的

 新しい医薬品の創薬とあわせて、ドラッグデリバリーシステム(DDS)技術を用いた既開発薬の活用が社会的に強く求められている。しかし、現状のDDS技術では、薬物の吸収促進、薬効持続化や病巣部位への選択的送達性等、未だ不十分な点が多い。その主原因の一つとして、薬物に合った最適DDS担体の分子設計が十分できないことがある。本研究開発では、薬物との相互作用を考慮した分子設計が可能な独自開発ポリデプシペプチド(DP)共重合体を基に、優れた薬理活性を持つが使用形態が限定されるベラプラストやパクリタキセル等との複合体の評価を進め、実用化に繋げる。この技術確立により、既開発薬を有効利用し、良質で低コストの医療技術を社会に提供する。

4.事後評価内容

A)成果
 ベラプロストやパクリタキセル等を対象薬剤として、これら薬剤と別途合成した40種以上のDP共重合体との組合せで調製した各種複合体にて、薬物の溶解性・安定性・放出性改善や薬効持続性・副作用低減等について検討した。その結果、抗血液凝固剤のベラプロストと抗ガン剤のパクリタキセルにて、その持続効果時間や安定性に関する技術課題を改善できる糸口になる知見は得られたが、何れも実用化レベルには至らなかった。
本事業期間中の特許出願数:1件
B)評価
①研究開発計画の達成度
 種々のアミノ酸の組合せで40種以上の種類のDP共重合体を合成し、DP共重合体ライブラリーを作製した。これらDP共重合体ライブラリーと、ベラプロスト及びパクリキセルをDDS対象薬剤として調製した複合体にて、徐放化や持続化の検討を行い、併せて動物実験による検討も行った。その結果、ベラプロストでは課題であるイニシャルバーストの克服による持続効果時間の延長の糸口と、パクリタキセルでは溶液中での溶解性改善等の技術課題解決への糸口を見出したが、何れも実用化レベルの検証には至らなかった。今後は、本技術の核となる科学的な理論に基づくDP共重合体の最適化のための、理論構築面等に改善を加え、論理的かつ効率的な研究アプローチにて研究開発を継続することが望まれる。
②知的財産権の確保
 現状では権利確保が十分ではなく、関連の技術確立と権利化への継続的な努力が必要である。
③起業計画の妥当性
 新規な創薬に比してDDS技術は短期間で開発が可能であり、開発コストもかからない創薬技術であることより、ベンチャー事業に向いていると考えられる。しかし、本研究開発では、まだ実用化レベルの技術確立には至ってないことから、先ずは基盤技術の確立に注力すべきである。
④新産業創出の期待度
 本研究開発でのDP共重合体は新規性に加え、対象薬剤の物性等に適合するように、自由に分子設計出来ることが最大の特徴となっている。現状では、その特徴を十分に発揮するに至っていないが、これらに関する基盤技術を確立し、他のDDS手法との差別化ができれば、新産業創出の可能性はあると思われる。
⑤総合・その他
 ベラプロストでは技術課題であるイニシャルバースト克服の糸口を、パクリタキセルでは溶液中での溶解性改善の糸口を、それぞれ掴んだが、現状では何れも実用レベルとは言えない。このDDS市場は非常に大きく、新しい技術開発へのニーズも大きいことから、今後も引き続き効率的かつ論理的な研究手法を通して、実用化への努力を継続することを望む。

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