評価報告書 > 評価対象研究開発課題の個別評価

大学発ベンチャー創出推進
平成20年度終了課題事後評価報告書

4.評価対象研究開発課題の個別評価

1.研究開発課題名称

副作用の少ない高機能型ファブリー病治療薬の研究開発

2.開発代表者、起業家 氏名(所属)

開発代表者:桜庭 均 (明治薬科大学 教授)
起業家:藤原 聡

3.研究開発の目的

 ファブリー病は、細胞の中のライソゾームに存在する酵素α-ガラクトシダーゼ(α-Gal)の欠損により、心血管や腎臓に障害をきたす特定疾患指定の遺伝病で、欠損酵素の補充療法以外に有効な治療方法がない。本研究開発では、従来の欠損酵素の補充療法に存在する、不十分な治療効果や副作用等の問題点を解決するために、独自な酵素タンパク質のデザイニング手法にて既に見出している“α-Gal活性を持つ改変酵素”の開発に向けて、生産技術の確立、DDSシステム構築、および有効性と安全性確認等を通じて実用化を目指す。これは、当該病患者にとって福音となるばかりではなく、本手法をファブリー病以外の類似の遺伝病にも応用することにより、副作用のない種々の高機能タンパク製剤を社会に提供可能で、国民医療の向上に貢献する。

4.事後評価内容

A)成果
 研究開発開始前に既に見出していた、ファブリー病に対して効果が期待できる改変型NAGA(α-Gal活性を持つ改変酵素)について、大量生産・精製法と、酵素学的な性状解析、患者由来細胞レベルでの効果解析、モデル動物を用いた効果解析、等の各検討を実施した。
 その結果、CHO細胞株にて10mg/L以上の効率で分泌する生産系と、500倍以上の精製倍率で40%を回収可能な精製系を確立できた。これらの方法にて得られた改変型NAGAは、細胞レベル試験にて、野生型のNAGAが本来持たないα-Gal活性を獲得し、現行のファブリー病治療薬である組み換えα-Galに比べて安定性が高く、細胞内取り込みに関与する糖鎖を多く含み、α-Galとの間で免疫交差性を持たないことが判明した。これにより、改変型NAGAはアレルギー反応を起こしがたく、かつ効果の持続性も高いこと、また動物試験においても治療効果が確認されたことから、本剤はファブリー病治療薬として有望であることを検証できた。
本事業期間中の特許出願数:1件
B)評価
①研究開発計画の達成度
 当初の計画通り、従来の酵素補充療法用の組み換え酵素の持つ様々な問題点を克服する可能性を持つ新規酵素の改変型NAGAを、CHO細胞株で生産し、その効果を細胞および動物レベルで検証し、前臨床試験や臨床試験へ繋がる結果を得る事が出来たことは評価に値する。今後は、有力な開発パートナーを早急に確定し、実用化に向けて前臨床試験や臨床試験を確実に進めていって欲しい。
②知的財産権の確保
 他社特許の技術的範囲に含まれない医薬品の創薬を目指した特許戦略に基づき、基本特許の権利化と応用特許の出願を順調に進めている。
③起業計画の妥当性
 平成19年度以降の急激な投資市場の冷え込みで、第3相臨床試験までの資金調達が困難なことからビジネスモデルを見直し、アライアンスを主とした事業化戦略に変更したことは妥当と思われる。今後は継続的に、アライアンス交渉を有利にするための実証データと基礎データの充実が望まれる。
④新産業創出の期待度
 ファブリー病は酵素欠損によって発症する疾患であり、その治療法として用いる欠損酵素補充療法は作用機序が明らかな欠損酵素を補充する治療方法である。その際に用いる酵素薬は複雑な体内経路や免疫カスケードを介して作用する薬ではなく、開発リスクは比較的低いことが特徴といえる。このため市場規模では多くは望めないが、本薬剤での新産業創出の期待度は高い。
⑤総合・その他
 従来の酵素補充療法用の組換え酵素の持つ様々な問題点を克服できる可能性を持つ新規酵素を、CHO細胞株で生産し、その効果を細胞および動物レベルで検証し、前臨床および臨床試験へと繋がる結果を得るなど、当初計画はほぼ達成できた。また、事業化・製品化面での戦略も良く検討されている。現在のベンチャー企業の事業環境は、投資環境の悪化により資金調達等が困難な状況ではあるが、これまで確立した技術の付加価値を増すための基礎データおよび実証データの拡充や、適切な経営人材確保等の手段により、確実に起業そして創薬に繋げることを期待する。

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