評価報告書 > 評価対象研究開発課題の個別評価

大学発ベンチャー創出推進
平成20年度終了課題事後評価報告書

4.評価対象研究開発課題の個別評価

1.研究開発課題名称

新しい宇宙利用市場の生成を目指した低コスト・短期開発の超小型衛星の研究開発

2.開発代表者、起業家 氏名(所属)

開発代表者:中須賀 真一(東京大学 教授)
起業家:中村 友哉

3.研究開発の目的

 現在の人工衛星は巨額の費用と長期の開発期間が必要で、個人や企業による宇宙科学・実験等での利用や宇宙をビジネスの舞台として利用するために参入するには「しきい」があまりにも高い。本研究開発では、すでに開発と打上げに成功した超小型衛星CubeSatを、高信頼度・汎用的な衛星にするため、高機能なサービス提供が可能な標準バス技術の開発と軌道上実証、並びにミッション機器を簡便に取付け構成する技術を開発し、低コスト化と開発の短期化を図る。これにより、宇宙科学・技術の進歩に貢献するだけでなく、教育、エンターテインメント等の今までにない新しい宇宙利用分野の市場開拓が広く期待できる。

4.事後評価内容

A)成果
 2機の超小型衛星(リモ−トセンシング衛星PRISMおよび天文観測衛星Nano-JASMINE)を開発する中で、商品化する衛星の標準バスを確立した。PRISMは開発が完了し、2009年1月にH-IIAにより打ち上げられ、軌道上運用に成功した。さらに、打ち上げ斡旋・運用、コンサルタントなどのサ−ビスと一致したビジネス(衛星トータルサービス)につなげるべく、ロケット会社との交渉、契約・周波数獲得などの法的・手続き的問題の解決、分離機構の開発などの活動も実施し、ビジネス化の基盤を確立した。それらの成果をもとに、平成20年8月に株式会社アクセルスペ−スを設立した。
本事業期間中の特許出願数:0件
B)評価
@研究開発計画の達成度
 超小型衛星のバスの標準化の題材となる2つのナノ衛星の開発が順調に進行(PRISMは打ち上げ・運用に成功)し、所定の成果が得られている。地上局・地上情報システムの構築についても、概ね目標を達成した。また、大学等への機器の提供・打ち上げアレンジなどのサ−ビスを提供する「衛星開発支援サ−ビス」に向けた商品の開発も実施できている。
A知的財産権の確保
 原権利2件以外には「知的財産権の保護が困難なため、戦略的に特許を取らない」という方針であったため、新たな特許の出願はない。しかし、開発技術をブラックボックス化すべき部分はあってもよいが、重要特許の出願に努力すべきである。
B起業計画の妥当性
 衛星トータルサービス事業などは、超小型衛星ビジネスを立ち上げる段階としては妥当に思える。経営陣の経験や知識が事業のコアであり、これをベンチャー企業の事業維持と発展にどう繋げるかが今後の課題である。
C新産業創出の期待度
 超小型衛星に対する注目度も高まり、認知度が向上することで新たなユ−ザが増えること、さらに「低コスト・短納期」の優位性を活かした産業創出に繋がることが期待できる。各種情報産業等との連携により、多様かつ基盤になりうる市場が創出できる可能性もある。
D総合・その他
 超小型衛星の積極的活用が、政府の宇宙基本計画に盛り込まれたが、衛星打ち上げ機会については、保証がなく、企業存立基盤が脆弱である。「顧客が衛星を持つことが顧客自身の競争力を向上させる」という構図が肝要であり、そのような視点での顧客開拓とビジネスシステムの構築を急ぐ必要がある。

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