評価報告書 > 評価対象研究開発課題の個別評価

大学発ベンチャー創出推進
平成20年度終了課題事後評価報告書

4.評価対象研究開発課題の個別評価

1.研究開発課題名称

超臨界水熱反応場における多元ナノ粒子合成プロセスの研究開発

2.開発代表者、起業家 氏名(所属)

開発代表者:阿尻 雅文 (東北大学 教授)
起業家:福里 隆一

3.研究開発の目的

 磁性材料や二次電池材料などに用いる様々な種類のナノ粒子の合成が試みられているが、ナノ粒子の表面エネルギーは極めて高く凝集しやすいため、未だ目的性状を満足する分散性の高い粒子は得られていない。本研究開発では、水の超臨界場を水熱合成の反応場とする超臨界水熱合成法や更に同法を展開した超臨界in-situ 表面修飾法を用いて、従来法では得られない高結晶性、単分散性などの優れた性状を有するナノ粒子を合成する。本技術は、金属酸化物粒子など、広範囲の多元ナノ粒子に適用可能であり、そのサイズや形状を設計通りに制御できる優れた合成方法である。種々の新規ハイブリッドナノ材料や各種デバイスの創生を可能とし、電子・磁気・光学分野やバイオロジー分野など広範囲の分野の技術進歩に貢献する。

4.事後評価内容

A)成果
 実用化レベルの粒子合成、高濃度で安定なコロイド液の調整、転化率と回収率の評価によるプロセス技術の構築、実用上必要な磁気物性の評価方法を確立した。一方、企業ニーズをもとに技術移転戦略、事業化戦略を見直し、ナノ粒子およびハイブリッド複合材料を製造するための超臨界水熱合成技術を用いた企業の開発研究と大学の研究の間の橋渡しを行う事業が、当該技術を産業共通基盤技術として世に広く普及させるために必要であることを明らかにした。これらの成果を基に平成21年4月に有限責任事業組合スーパーナノフュージョンを設立した。
本事業期間中の特許出願数:15件
B)評価
①研究開発計画の達成度
 コア技術(超臨界水熱反応粒子合成)を基にした実用化研究であり、特定の系についてナノ粒子の合成、コロイド液製造技術の調製、合成プロセス技術などの開発が行われた。今後は、他の多くの系にも応用可能な体系的技術の構築が課題である。なおF/Sの対象であった透明導電フィルム用ITOの分野はナショプロをはじめとして、多くの企業で実用化研究がなされているので、事業化へのハードルが相当高いと予想される。
②知的財産権の確保
 知財戦略に基づき積極的に15件の特許が出願されており、中でも表面修飾金属酸化物微粒子に関する物質特許を取得したことは評価できる。ベンチャー企業として、知財をどのように持ち、どのように活用するのか戦略的に推進する必要がある。
③起業計画の妥当性
 自社を製品開発の基礎研究段階における産学「橋渡し事業」を行う事業モデルと位置づけているが、将来、事業拡大時にどのような事業形態が合理的であるのかも考えておく必要がある。また、事業化に向けて、生産設備をどこに設置し、どのように運用するのかを具体的に検討しておく必要がある。
④新産業創出の期待度
 超臨界条件を用いたナノ粒子の合成や評価に関する基礎科学的情報は集積されつつあるので、対象材料が具体化されれば、新産業分野や既存デバイス等の高性能化などを通じて幅広い産業分野で展開が期待できる。また、特徴ある新ナノ材料はユーザーとの協業により、応用製品として新産業の創出につながる可能性がある。
⑤総合・その他
 今後成長が期待される分野で利用される技術として重要なテーマであり、そのためには自社のコア・コンピタンス、競合他社のベンチマーク、市場分析を通じて、市場変化に即応できる事業戦略、事業計画を策定することが必要である。

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