評価報告書 > 評価対象研究開発課題の個別評価

大学発ベンチャー創出推進
平成20年度終了課題事後評価報告書

4.評価対象研究開発課題の個別評価

1.研究開発課題名称

新規有用抗体の大量作製法の開発

2.開発代表者、起業家 氏名(所属)

開発代表者:塚本 康浩 (京都府立大学 教授)
起業家:片江 宏巳

3.研究開発の目的

 創薬や診断をはじめ幅広い分野への展開が期待されるポストゲノム研究において、抗体の活用は極めて重要なテーマである。しかしながら、マウスやウサギなどの哺乳類を用いて抗原特異的抗体を創製する従来法には、生産性と特異性等に関わる課題が存在していた。本研究開発では、既に開発したダチョウを利用した有用抗体の大量作製技術と、この技術を用いた癌の分子マーカーや病原体を高感度に検出しうるダチョウ抗体の作製技術を展開し、低コストで高品質の検査・診断キットを開発する。この新規な抗体大量作製技術は、次世代の画期的創薬や検査キットを通じ良質な医療を提供するのみならず、インフルエンザウイルスなどの病原体防御用素材開発や、BSE検査キット等を用いた食品の安全性の向上等を通じても、広く社会に貢献する。

4.事後評価内容

A)成果
 ダチョウを用いることにより、従来法に比べコスト面で遙かに優れた抗体大量生産技術の確立に成功し、抗体の工業製品への応用を可能にした。また、この技術を用いてインフルエンザウイルスを無毒化する抗体を大量作製する技術を確立し、平成20年6月にオーストリッチファーマ株式会社を設立した。既に、他企業と連携しこの抗体を担持させた不織布フィルターを使用したインフルエンザ防御用マスクや空間清浄機の商品化に成功している。これらの製品は新型インフルエンザや鳥インフルエンザ防御対策の市場ニーズに合致し、起業直後から一定の売上を確保している。また、これらの成果が各種メディアにも頻繁に取り上げられており、本「大学発ベンチャー創出推進」での成功モデルの一つとして挙げるに相応しい成果を残した。
本事業期間中の特許出願数:2件
B)評価
①研究開発計画の達成度
 ダチョウを用いることにより抗体の低コスト大量生産技術の確立に成功し、この技術を用いて生産したインフルエンザウイルス抗体を用い、インフルエンザ防御用マスクおよび空間清浄機の商品化に成功し、当初の目標以上の達成度を得た。また、ダチョウ抗体を用いた診断キット(肺癌、BSE,インフルエンザ)でもプロトタイプの作製に成功しており、製造承認申請に必要な臨床データ数の確保と、検査キットの事業化準備も順調に進んでいることから、この点も評価できる。
②知的財産権の確保
 基本特許の権利化、周辺特許・応用特許の出願も順調であり、問題はない。
③起業計画の妥当性
 既に、インフルエンザウイルス抗体の大量作製技術を基にベンンチャー企業“オーストリッチファーマ株式会社”を設立し、ダチョウ抗体商品に関する取引先や販売網も獲得し、高い売上実績も残している事から、事業化計画は妥当なものと評価される。
④新産業創出の期待度
 従来、抗体は高価なために工業的な大量使用が困難とされていたが、本研究開発により、有用抗体を低コスト(従来の4000分の1)で大量に提供することが可能となった。これにより、将来的に様々な用途・商品に本技術による抗体が利用されると期待される。既に販売を開始したマスクと空間清浄器は医療機関を中心に多く購入されており、最終製品の価格で数十億円の経済効果を生み出している。今後は、インフルエンザ防御用素材に止まらず、診断キット等の各種用途開発にて、新産業の創出に大きく貢献するものと期待される。
⑤総合・その他
 既に設立したベンチャーにて、ダチョウ抗体を利用した商品が販売されたこと、またこの成果により、開発代表者が平成21年「産学官連携功労者表彰・文部科学大臣賞」、および平成21年度「京都府知事特別表彰」を受賞するなど、本事業の成功例に挙げるに値する大きな成果を残したといえる。  
 今後、会社経営体制の強化、企業イメージの向上、ブランドの維持等に留意しつつ、継続して世界に向けて事業発展していくことを期待する。

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