評価報告書 > 評価対象研究開発課題の個別評価

大学発ベンチャー創出推進
平成20年度終了課題事後評価報告書

4.評価対象研究開発課題の個別評価

1.研究開発課題名称

マイクロ波応用手術支援機器と手術システムの臨床応用

2.開発代表者、起業家 氏名(所属)

開発代表者:谷 徹 (滋賀医科大学 教授)
起業家:清水 謙嗣

3.研究開発の目的

 現在、組織凝固能を持った手術用切断器としては、超音波メスなどが主として用いられている。しかしながら、これらの機器は核磁気共鳴(MR)と干渉を起こすために、MR画像による生体透視下の手術には展開できない。本研究開発では、既に独自開発したMR画像不干渉のマイクロ波手術支援機器である無止血組織切断機(MWCX)等を、一般外科用途に加えて他科用途にも展開し、システムとしての臨床応用を目指す。これにより一般外科手術をより安全かつ短時間にするのみならず、三次元リアルタイムのMR画像下に生体を透視しながら、低侵襲下に病巣部を効率的に取り除く手術が可能となり、医療技術の向上に大きく貢献する。

4.事後評価内容

A)成果
 本研究開発では、既に独自開発してきたMR画像不干渉のマイクロ波手術支援機器である無止血組織切断機(MWCX)等を、一般外科用途に加えて他科用途にも展開し、外科医の夢である“三次元リアルタイムMR画像による生体透視下で行う手術システム”としての臨床応用を目指し、MR対象内視鏡も含めてそれらの基本技術を完成させた。このMR画像下でも画像を干渉しない本マイクロ波デバイス技術により、より安全で出血がなく、外科系各科に展開可能な手術手法の提供が可能となった。この成果を基に、平成19年3月に株式会社マイクロン滋賀を設立した。
本事業期間中の特許出願数:3件
B)評価
①研究開発計画の達成度
 マイクロ波手術支援機器として、MWCXのスライディング型、ハサミ型、骨盤内蔵用、乳癌用(微細手術用)やバイポーラ攝子について、動物実験で実用レベルの効果と有効性を証明し、スライディング型と骨盤内蔵用MWCX、バイポーラ攝子については商品化可能な技術レベルに到達させた。また、マイクロ波発生装置に関しても、新しいマイクロ波手術支援機器にも適応可能な、低電圧下でも同じ効果が得られる機能へと改良を行った。更には、耐久性をもった径の異なる2種の新しいMR対応内視鏡の試作に成功し、これに付随的に使用する内視鏡用マイクロ波針状プローベとハサミ状鉗子の切れ味や止血能力の改善にも成功した。また、研究開発期間の途中から医療機器申請に関わる作業を提携企業に委嘱するなどの開発戦略の変更により、限りある研究開発資源を、各種のマイクロ波手術支援デバイスを試作改良と、実用化レベルでの有効性の検証に振り向け、スピード感をもって研究開発を実施することができた。
②知的財産権の確保
 手術支援機器エネルギーとしてのマイクロ波を用いるデバイス技術に関して、当初は機器毎に権利化を行ったが、その後はマイクロ波の発射に必要な構造や機序に関する権利を考慮した出願も行った。これにより、マイクロ波発生装置から刃の先端までの各部位における権利化をほぼ網羅的にカバー出来た。
③起業計画の妥当性
 当初計画の無止血組織切断機(MWCX)等の開発に加えて、MR対応内視鏡など次世代の手術システムも開発ターゲットに加え、全てのマイクロ波手術支援機器を独占的に開発することを目標に多くの提携候補先と交渉を重ねて来た。その結果、事業化面では大きく進展しており、起業計画は妥当だと考えられる。
④新産業創出の期待度
 確立した技術は、一般外科用マイクロ波手術支援機器であるが、今後、外科系各科に応用が可能である。さらに、またMR対応内視鏡と鉗子を合わせ、MR画像下での手術手法も構築できるので、手術ロボット化にも繋がる。以上のように本マイクロ波手術支援機器は、既存技術では対応出来ない分野にも展開できる可能性が大きく、新産業創出の期待度は高い。
⑤総合・その他
 研究開発期間の途中から医療機器申請に関わる作業を提携企業に委嘱するなどのタイムリーな開発戦略の変更により、限りある研究開発資源を有効にMR対応マイクロ波手術支援機器の開発に向け、スピード感を持った技術開発を行った。これにより、超音波や高周波等の従来のエネルギーによる手術支援機器より優れたマイクロ波手術支援機器と、それを用いたより安全で低侵襲な次世代手術システムを、独占的に社会に提供することを可能とした。

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