評価報告書 > 評価対象研究開発課題の個別評価

大学発ベンチャー創出推進
平成17年度採択課題事後評価報告書

4.評価対象研究開発課題の個別評価

1.研究開発課題名称

ゲルと海洋生物起源忌避物質のハイブリッド防汚剤・塗料の研究開発

2.開発代表者、起業家 氏名(所属)

開発代表者:沖野龍文(北海道大学 准教授)
起業家:倉又一成

3.研究開発の目的

 貝類や藻類の船底への付着を防ぐための船底塗料は、従来有害な重金属等が使用され深刻な環境問題を引き起こしてきた。本研究開発では、付着生物以外には影響を与えない安全性の高い海洋生物起源の忌避物質の高い付着阻害機能と既存の塗料にはない低摩擦抵抗機能をもつ高分子ゲルを融合させたハイブリッド防汚剤・塗料を開発・実用化する。本技術は海洋環境の保全に貢献するほか船舶の長寿命化にも貢献する。

4.事後評価内容

A)成果
 忌避物質として有望なイソニトリル基を有する化合物をアルコールから一段階で合成する安価な工業製造法を確立し、さらにこれを高分子ゲルとハイブリッド化することにより大型付着生物に対する付着阻害効果を有するハイドロゲル塗膜を開発した。同塗膜は60%以上の膨潤度、人工海水中での耐久性や高い貯蔵安定性を示した。船底塗料用基材として船舶塗料会社の評価を受ける目処をつけた。また同塗膜は防汚性をもつとともに低毒性であることから漁網用防汚剤への適用も進めている。
本事業期間中の特許出願数:3件
B)評価
①研究開発計画の達成度
 忌避物質としては関係事業者から評価されているが、高分子ゲルの開発が遅れているため、最終製品としての船底塗料が完成していない。既存の市販品に対する優位性を市場に示すためにも研究成果の定量化が必要である。
②知的財産権の確保
 特許は適切に出願されていると思われるが、競合商品が多い中、ビジネスとの関係で十分なものか更なる検討が必要である。提携先の会社との知財関係を明確にするとともに、特許マップに基づく特許戦略を構築する必要がある。
③起業計画の妥当性
 競合する商品(酸化銅、銀担持人工ゼオライト、その他)に対して、性能、コストおよび耐久性において優位性を保てるかが、事業の成功の鍵となる。これらを明確にし、堅実な起業計画をたてることが肝要である。
④新産業創出の期待度
 原油高の状況において、メンテナンス性の向上や省エネ効果が期待できる技術は今後市場獲得及び市場拡大が大いに期待できる。本技術はこれらに叶う環境に優しい技術であり、応用範囲は広いと思われる。
⑤総合・その他
 有望な忌避物質が開発されたが、製品としての船底塗料は、実用化レベルに達していない。しかし技術目標の一部は達成されているので,フィールドテストなどの実績を積み上げることが望まれる。また、省エネ性について何らかの知財を確保するとともに、化学物質審査規制法の新規化学物質としての登録計画を明確にすることも必要である。

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