評価報告書 > 評価対象研究開発課題の個別評価

大学発ベンチャー創出推進
平成17年度採択課題事後評価報告書

4.評価対象研究開発課題の個別評価

1.研究開発課題名称

液体ヘリウムフリー希釈冷凍機

2.開発代表者、起業家 氏名(所属)

開発代表者:矢山英樹(九州大学 准教授)
起業家:武石誠司

3.研究開発の目的

 超低温を作り出す希釈冷凍機は半導体や超電導体など次世代技術の開発に不可欠であるが、寒剤として液体ヘリウムを用いる不便さや運転に高度な極低温技術が必要であることから、十分に活用できない状況にある。本研究開発では、超電導マグネットを用いて冷凍効率を向上させたGifford-McMahon(GM)冷凍機を中心とした寒剤用液体ヘリウムを用いない無冷媒希釈冷凍機を開発する。同装置はランニングコストが廉価である上に、電源さえあれば何処でも誰でも運転できるため、極低温条件を必要とする技術分野の発展を促し、新材料・新製品の創出に大きく貢献するものと期待される。

4.事後評価内容

A)成果
 高い冷凍能力が必要とされる場合には超電導マグネットにより冷凍効率を向上させたGM冷凍機を装備することにより、また振動を嫌う実験用には振動の少ないパルスチューブ冷凍機を用いることによりそれぞれ優れた液体ヘリウムフリー希釈冷凍機を製作することができた。また、圧力自動調整機構によりヘリウムガスの液化が自動で行えるようにすることにより、使い易いユーザーフレンドリーな製品にすることができた。さらに連続運転試験を実施することにより、4日以上問題なく稼働することも確認した。これらの成果を基に株式会社低温技術研究所を設立した。
本事業期間中の特許出願数:5件
B)評価
①研究開発計画の達成度
 当初の目的は全て達成し、種々の開発要素はいずれも従来品に比べ優位で差別化できる水準に達している。各要素を結合させて製作した冷凍機の水準も高い。
②知的財産権の確保
 周辺特許を中心に装置・部品特許、方法特許がバランスよく出願されている。またライバル企業の技術動向も十分に把握されている。しかしながら、市場は海外の方が大きいことから、外国出願についての適切な対応策を早急に立てる必要がある。
③起業計画の妥当性
 高度な技術が完成したが、Q(品質) C(コスト) D(納期)を満足する生産体制の確立が必要である。商品の性質からして、必要不可欠であるメンテナンス等のサポート体制を組み上げるとともに、外部との提携等により、収益性を確保できるしっかりしたビジネスモデルを早急に構築する必要がある。
④新産業創出の期待度
 システムの明確な小型化・低コスト化・易操作性等に成功していること、及びヘリウム価格の急激な高騰を考えれば、既存市場の拡大や従来品の代替としての急速な浸透が期待できる。
⑤総合・その他
 優位性のある製品ができているが、販売方法の検討が十分になされていない。研究開発を中心とした事業展開も可能ではあるが、国内関連企業との業務提携により収益性のある健固な体制を構築し、積極的にビジネスを展開していくことも志向して戴きたい。そのためにはマーケティングにもっと注力するとともに、メンテナンス・サービス体制を構築する必要がある。これまで殆どが海外勢に席巻されてきた該分野において日本発の優位性のある製品として完成することを期待したい。

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