評価報告書 > 評価対象研究開発課題の個別評価

大学発ベンチャー創出推進
平成17年度採択課題事後評価報告書

4.評価対象研究開発課題の個別評価

1.研究開発課題名称

魚病感染防御抗原を発現させた米を用いた食べるワクチン開発のための技術開発

2.開発代表者、起業家 氏名(所属)

開発代表者:幸 義和(東京大学 助教)
起業家:谷垣 隆

3.研究開発の目的

 近年増加の一途をたどっている海水魚養殖におけるウイルス性疾患の発生に対して、日本ではイリドウイルスの不活化注射ワクチンが開発されているが、注射に要する負担は極めて大きい。本研究開発では、ワクチン抗原を集積したイネ種子(米)粉末含有飼料を食べることでワクチネーションを行う「魚病感染予防食べるワクチン」の開発を行うことを目標とする。米を用いた食べるワクチンは、精製の必要がなく、室温保存で2年は安定な経口ワクチンであるため、養殖魚介類に関する生産コストの低減及び安全性向上に大きく貢献することが期待される。

4.事後評価内容

A)成果
 当初計画に従い、各種ワクチン抗原発現米を作製し対応するサケマスや海老の病原ウイルスに対する防御効果を評価した。その結果、現状で問題になっている海老のWSSウイルス(白色スポットウイルス)に対して、ワクチン発現米の経口投与は感染防御効果を示すなど、各種ワクチン抗原発現米は魚類や海老の病原ウイルスに対して一定の効果を認めた。また、並行して進めた動物評価試験の結果、CTB(コレラトキシンB鎖)発現米では魚類には効果を認めなかったが、マウスにおいてはコレラ毒素に対する優位な防御免疫性を示す事を見出した。当初目標のサケマスや海老向けワクチン抗原発現米にも一定の効果は認められたが、この分野ではビジネス的魅力度が薄いと判断して、より市場性の高いCTB(コレラトキシンB鎖)発現米のヒト・ブタ用のワクチン開発へと軌道修正した。
本事業期間中の特許出願数:0件
B)評価
①研究開発計画の達成度
 ほぼ当初計画通りに研究開発を進めた。その結果、サケマス・海老向けワクチン抗原発現米の防御ポテンシャルは期待通りではなかったが、CTB発現米がマウスでのコレラ毒素に対する有意な防御免疫性を示す事を見出したことは、明るい材料である。
②知的財産権の確保
 事業化に備えて、更なる知財権の強化が求められる。
③起業計画の妥当性
 研究開発結果と最近の水産業界の状況をみると、当初目標の「サケマスや海老向けワクチン開発」に代えて、「CTB米のヒト及びブタ用のコレラ・大腸菌下痢症向けワクチン開発」へ方針変更したことは妥当と考える。今後起業までの間にヒト用のワクチンを開発するためには、海外展開やPA対策も含めたしっかりとした開発戦略のもと、確実に実用化に繋げることを期待する。
④新産業創出の期待度
 ヒト用コレラや旅行者下痢症向けCTBワクチン抗原発現米の開発は、ヒトおよび動物用の低コストでクローバル展開可能な関連蛋白医薬の開発へ繋がることが期待できる。
⑤総合・その他
 「CTB米のヒト及びブタ用のコレラ・大腸菌下痢症向けワクチン開発」をターゲットにするからには、ヒトやブタに対する有効性のエビデンスをより確実に押さえる必要がある。今後、関連法規制、特に薬事法やPA対策を充分に考慮し、設立予定ベンチャーにてCTBワクチン抗原発現米を始めとする経口蛋白医薬を開発することを期待する。

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