評価報告書 > 評価対象研究開発課題の個別評価

大学発ベンチャー創出推進
平成17年度採択課題事後評価報告書

4.評価対象研究開発課題の個別評価

1.研究開発課題名称

マラリア等原虫感染熱帯病の治療薬および診断薬の研究開発

2.開発代表者、起業家 氏名(所属)

開発代表者:井原 正隆(星薬科大学 特任研究員)
起業家:伊藤 勇

3.研究開発の目的

 急速なグローバル化が進んだ今、マラリア等の原虫感染熱帯病は開発途上国のみならず、先進国にとっても重要な問題となりつつあるが、現在でも適切な治療薬はない。本研究開発では、第4級アンモニウムイオン構造を持つロダシアニン誘導体やフェノキサジニウム誘導体が各種原虫を低濃度で殺傷することなどの幾多の知見を基に、マラリアをはじめ、トリパノソーマ症(アフリカ睡眠病、シャーガス病)、リーシュマニア症など各種熱帯病の実用的な治療薬・診断薬を開発する事を目標とする。本治療薬の開発は人道的な立場から国際的に高い評価を得るのみならず、治療薬市場の拡大にも貢献できることが期待される。

4.事後評価内容

A)成果
 経口投与可能な抗マラリア薬候補化合物として、動物試験段階で既存薬と比較して高活性かつ作用機序が異なるベンゾフェノキサチン誘導体を見出した。また、熱帯地方で深刻な病気であるリーシュマニア症の完治の可能性を有する新規ロダシアニン誘導体を見出した。さらには現状では良好な治療薬が殆ど存在しないトリパノソーマ症(難治性アフリカ睡眠病、シャーガス病)に対して有望な化合物群をも発見した。これらの成果をもとに、株式会社シンスター・ジャパンを設立した。
本事業期間中の特許出願数:1件
B)評価
①研究開発計画の達成度
 経口投与可能な抗マラリア薬候補化合物として期待が持てるベンゾフェノキサチン誘導体を、リーシュマニア症薬候補化合物として完治の可能性をもつ新規ロダシアニン誘導体を、さらにトリパノソーマ症(難治性アフリカ睡眠病やシャーガス病)候補薬に有望な化合物群を、それぞれ見出した。また、今後の臨床試験や開発コンセプトも明確であり、その達成度は高く評価できる。
②知的財産権の確保
 原権利の整備や新規出願も順調に行われており、適切と判断される。
③起業計画の妥当性
 マラリア、リーシュマニア、アフリカ睡眠病、シャーガス病薬は低価格あるいは無償で提供する事が要求されることがあるために、高利益をあげる事は困難ではあろうが、日本の国際的な貢献や、温暖化に基づく先進国での感染の危険性の増大等の状況から、将来的には需要の増加が予想されるので、今後は公的資金以外の資金も確保しつつ、より積極的な事業展開を期待したい。
④新産業創出の期待度
 先進国には罹患者が殆どいないために無視されている当該原虫疾患の治療薬の開発を目指すビジネス例は世界的にも少なく、本プロジェクトの成功を日本の国際貢献の観点からも大いに期待したい。
⑤総合・その他
 当初予定したマラリア、リーシュマニア、トリパノソーマ(アフリカ睡眠病、シャーガス病)治療薬のリード化合物開発は、ほぼ達成する事ができた。このうち、難治性トリパノソーマ症等の治療薬開発について、今年度より公的資金による支援を受けられる事になったことは、本プロジェクトへの期待が大きい事を示している。 今後、医薬品化までは多くの期間と資金と労力を必要とするが、実用化に向けて更なる発展を期待したい。

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