評価報告書 > 評価対象研究開発課題の個別評価

大学発ベンチャー創出推進
平成17年度採択課題事後評価報告書

4.評価対象研究開発課題の個別評価

1.研究開発課題名称

DNAアプタマーおよび機能性樹脂を用いる糖尿病血管合併症診断キットおよび治療薬開発ベンチャーの創出

2.開発代表者、起業家 氏名(所属)

開発代表者:井上浩義(久留米大学、現慶應義塾大学 教授)
起業家:近藤健二

3.研究開発の目的

 糖尿病血管合併症の原因物質である血中の終末糖化産物AGEsの毒性が注目されているが、それに対する抗体産生が困難であり、未だその診断キットは開発されていない。本研究開発ではAGEsファミリーの中でも最も毒性の高いGlyceraldehyde由来AGEに特異的に結合する一本鎖DNAアプタマーとGlyceraldehyde由来AGEにのみ吸着する機能性樹脂を利用した糖尿病の血管合併症の診断キットを開発するほか、化学修飾したアプタマーを用いた糖尿病性血管合併症治療薬や機能性樹脂を利用した透析用カラムや、健康食品、化粧品を開発する事を目標にする。本技術開発により糖尿病合併症の早期治療、患者の予後の改善等に大きく貢献する事が期待できる。

4.事後評価内容

A)成果
 当初計画のうち、DNAアプタマーを用いたGlyceraldehyde由来AGEs定量キットと組織染色キットを開発した。また、前記のAGEs定量技術を用いたスクリーニングを通じて健康食品や化粧品の開発にも成功した。しかしながら、期待されたDNAアプタマーを用いた糖尿病血管合併症治療薬の開発では、その技術仮説は正しいことは検証されたものの、副作用が生じたために、現在は開発を休止したしている。これらの成果をもとに、株式会社いぶきを設立した。
本事業期間中の特許出願数:1件
B)評価
①研究開発計画の達成度
 当初の計画とは多少のずれは生じているが、Glyceraldehyde由来AGEs定量キット、DNAアプタマーを用いた組織染色キット、AGEs吸着健康食品素材等の開発に成功した。期待されたDNAアプタマーを用いた糖尿病血管合併症治療薬の開発では副作用が生じたために開発をペンディングしており、残念である。今後は、絶対的に優位性のある商品開発にターゲットを絞り、AGEs定量キットについては更なる臨床データ取得、健康食品や透析カラムについては安全性データの取得に十分に留意して各製品の開発を着実に進めることを期待したい。
②知的財産権の確保
 テントマップを作成した上で、基本特許を順次外国出願していることは評価できるが、製品形態に応じた用途出願は少なく、今後の継続的な出願が必要である。
③起業計画の妥当性
 前記の定量キットや健康食品の品目にて実売を図りながら事業を行い、それによる営業利益を利用して未だ研究開発途上にある品目を開発する姿勢は妥当である。しかし、健康食品素材や化粧品素材分野での安易な事業展開に安住する事なく、現在ペンディング中のものも含め継続的に事業を展開して欲しい。
④新産業創出の期待度
 DNAアプタマーを用いたAGEs定量キットについては、国内の糖尿病患者は大幅に増加していることから、糖尿病の早期診断および食生活の改善に寄与する製品・技術の創出に繋がることが期待される。
⑤総合・その他
 3年間の研究開発期間においてキット2種、健康食品2種、および化粧品2種にて商品化の道筋を立てられたことは評価に値する。しかし、AGEs定量キットを基にした診断キットを確実に商品化するためには、糖尿病性血管障害との相関に基づく臨床有効性データの取得がキーになるので、この点に十分留意すること。一方で、現時点でまだ目処が得られていない高機能DNAアプタマーを用いた糖尿病血管合併症治療薬およびAGEs選択吸着樹脂を用いたカラムの製品化についても、今後実用化に向けて継続的に検討されることを望む。

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