評価報告書 > 評価対象研究開発課題の個別評価

大学発ベンチャー創出推進
平成17年度採択課題事後評価報告書

4.評価対象研究開発課題の個別評価

1.研究開発課題名称

高解像度分子機能イメージング装置

2.開発代表者、起業家 氏名(所属)

開発代表者:飯田秀博(国立循環器病センター研究所 部長)
起業家:武蔵康文

3.研究開発の目的

 体内の放射性薬剤の立体分布を計測する装置として核医学診断装置の一つであるSPECT(シングルフォトン断層法)が大きなポテンシャルを持つようになってきた。SPECTはPETと比較して、設置コストが低く、検査薬剤が豊富である点が強みである一方で、「解像度が劣る(低解像度)」ことや「定量性が劣る(画像の歪み)」ことが弱点であった。本研究開発では、高解像度の小視野ピンホール検出器と解像度は劣るが大視野な検出器とを併用し、得られたデータを立体的に画像再構成することにより、空間分解能が大幅に改善され、かつ局所の分子機能画像を飛躍的に向上させた立体的SPECT撮影装置の開発を目指す。この技術確立により、既存SPECTの弱みを解消した新規SPECTの実用化を図ることで、多様な要求に柔軟に対応できる核医学検査装置の普及が期待される。

4.事後評価内容

A)成果
 小動物用高解像度SPECT装置の試作や、画像歪を改善する画像再構成法の開発、およびその他の周辺基盤技術の確立を通して、既存SPECTの弱みであった「低感度」や「画像の歪み」といった問題点を解消した。その結果をもとに、先ずは最初の製品としてラットなどに利用可能な「小動物用高解像度SPECT」を開発した。今後は、平成20年5月に設立した株式会社プロスペクトにて、今回開発した基盤技術に基づき「中小動物(イヌ・ネコ)用高解像度SPECT」、「ヒト用高解像度SPECT」の開発を進める事で、数年後にこれらの製品化(臨床応用)を狙える状況となった。
本事業期間中の特許出願数:1件
B)評価
①研究開発計画の達成度
 技術開発は概ね順調に進捗し、ラットなどに利用可能な「小動物用高解像度SPECT」の開発や、トランケーションを許す画像再構成法を開発することができた。ヒト用高解像度撮像SPECT装置の開発には多少の遅れは生じたが、それらの基盤技術も確立して実用化の目処を得た。
②知的財産権の確保
 起業家を中心に競合特許等の調査や知的財産権の拡充強化に向けた活動は妥当であった。
③起業計画の妥当性
 製品化までのハードルを勘案して、段階的な製品化開発(獣医療用→ヒト臨床用)に取り組む事業化計画は概ね妥当である。「中小動物(イヌ・ネコ)用高解像度SPECT」に関する市場は今後創出されるものであるが、高度獣医療への関心の高まりから、有望な市場となりうるポテンシャルを有している。しかし、大手民間企業や研究機関との連携等による「ヒト用高解像度SPECT」事業化の促進策を並行して検討していく必要がある。
④新産業創出の期待度
 開発した技術の独自性は高く、「ヒト用高解像度SPECT」が事業化出来れば、従来の核医学診断において観察することのできなかった病変の診断が可能となるなど、国民の健康向上に貢献する。
⑤総合・その他
 小動物用高解像度SPECT装置の試作や、画像歪を改善する画像再構成法の開発、およびその他の周辺基盤技術の確立によって、臨床用高解像度SPECT装置の機能を大幅に向上させ「中小動物(イヌ・ネコ)用高解像度SPECT」の事業化に目処をつけたことは評価できる。
 しかしながら、現時点では獣医療向け核医療装置市場の規模は未知数である事から、これまでの努力を研究だけで終わらせないよう、大手民間企業との提携等の方策にて「ヒト用高解像度SPECT」の事業化を早期実現するよう、継続的な努力を望む。

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