評価報告書 > 評価対象研究開発課題の個別評価

大学発ベンチャー創出推進
平成17年度採択課題事後評価報告書

4.評価対象研究開発課題の個別評価

1.研究開発課題名称

新規前立腺診断法の研究開発

2.開発代表者、起業家 氏名(所属)

開発代表者:天野純子(財団法人野口研究所 室長)
起業家:山本修司

3.研究開発の目的

 現行の前立腺癌診断法は、前立腺特異抗原(PSA)の量のみを測定するイムノアッセイ法が主流であるが、前立腺肥大や前立腺炎でもしばしば異常高値を示すので、癌判定が困難な場合がある。その欠点を改良するために、本研究開発者は、ピレン標識法と超高感度質量分析法を組み合わせることによって、PSAの癌特異的糖鎖構造の変化を簡便・迅速に検出することのできる、極めて信頼性の高い癌診断法を開発することを目指す。本技術は、被験者に負担の大きい生検にかわる新たな前立腺癌の体外診断法として利用でき、前立腺癌の早期発見のみならず疾患予防への発展も期待される。

4.事後評価内容

A)成果
 技術的な難易度の問題もあり、現段階では実用化レベルの技術確立ならびに起業までは至っていないが、従来の質量分析法に比して1/100〜1/1000の試料量で測定できる高感度化を果たし、更に臨床試料を測定するための前処理技術の開発に目処をつけた。これらの技術は他の糖鎖マーカーへの応用も可能であり、新しい医療技術領域を創成できる可能性を見出した点は評価しうる。
 現在、本手法の実用化をめざして現行法による前立腺癌診断の血清PSA値がグレーゾン(4〜10ng/ml)での診断技術の検討をしているが、正常ゾーン(1〜4ng/ml)での診断も可能とする為に、更なる感度アップ化に注力している。
本事業期間中の特許出願数:7件
B)評価
①研究開発計画の達成度
 前処理法を含む高感度化には、一定の前進があった。しかしながら、前立腺癌特異的な糖鎖構造スペクトラムの特定、更なる検出感度の向上、診断のシステム化等の点でまだ未達成項目がある。これらの技術確立を急ぎ、実用化に繋げて欲しい。
②知的財産権の確保
 微量分析法や診断法も含め適切に出願されているが確立された技術についても今後適切に出願すること。
③起業計画の妥当性
 技術確立に加え、臨床データ取得、許認可や資金計画対応など、実用化に向けた重要なステップが多数残っている。当該技術の優位性確保と、それを基にした起業計画の策定が望まれる。
④新産業創出の期待度
 診断システムとしての技術を確立し、その技術優位性を明確にできれば、前立腺癌診断を始めその他の癌の診断にも展開できる可能性はある。
⑤総合・その他
 現段階では実用化レベルの技術確立までには至っていないが、社会的ニーズの高い技術であるため、引き続き財団法人野口研究所の協力のもと、先ずは当初目標としたレベルの技術を確立することを期待する。また、これと並行して臨床データ取得による現行診断法(PSAイムノアッセイ法や生検)との相関性の検証、許認可や資金計画対策などの起業に向けての各種重要課題に対する戦略を都度見直し、当該技術の社会還元と起業を確実に実現して欲しい。

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