リポート
キャンパスの落ち葉を腐葉土に、野菜を育て地域交流―「きぬがさ農園」でつながる輪―
立命館大学 国際関係学部/きぬがさ農園Kreis 初代副代表 曽野部 えみ
立命館大学 産業社会学部/きぬがさ農園Kreis 現代表 山根 巧也


「大量の落ち葉を『ごみとして』捨てるなんてもったいない」という1人の学生の声から、きぬがさ農園Kreisは始まった。私たちは、きぬがさ農園を地域交流の基盤にしつつ、学生・大学職員・地域住民が三位一体となって腐葉土づくりや野菜の地産地消を実施し、SDGsの達成を目指している。
■はじめに
きぬがさ農園Kreisは、立命館大学の農業・園芸サークルだ。2020年3月に国際関係学部1回生(当時)3人によって創設され、2022年12月現在42人の学生が所属している。本団体は、大学職員や地域住民と協力して「①腐葉土づくり、②野菜の地産地消、③SDGsの達成を目指す活動」を行っている。毎週金曜日に定例活動を実施し、その参加者は延べ2,774人となった(2022年12月現在)。私たちの活動はSDGsの目標1「貧困」、2「飢餓」、3「保健」、4「教育」、6「水・衛生」、11「持続可能な都市」、12「持続可能な消費と生産」、13「気候変動」、15「陸上資源」、17「実施手段」などに貢献している。
創設のきっかけは、1人の学生の「大量の落ち葉を『ごみとして』捨てるなんてもったいない」という声だった。その声が大学を動かし、仲間を集めた。環境に配慮した学生の考えに賛同した大学は、新たな地域交流の場として農園を設立し、そこでキャンパスの落ち葉を腐葉土化して有効活用することを決定した。そして、農業や環境問題に関心を持つ学生2人も加わり、共に腐葉土づくりと農園運営を軸にSDGsの達成を目指す「きぬがさ農園Kreis」を創設した。本稿では、①腐葉土づくりと②野菜の地産地消に焦点を置き、きぬがさ農園Kreisについて紹介する。
■腐葉土づくりの地域の輪
きぬがさ農園では、学生・大学職員・地域住民が協力して衣笠キャンパス(京都市)の落ち葉から腐葉土を作り、野菜を栽培する土として用いている。『明鏡国語辞典第三版』(2021年)によると、腐葉土は「堆積した落ち葉が腐ってできた土。養分が多く、空気の流通や排水が良い。園芸に用いる」と記されており、野菜栽培に適した土だ。46,768Lもの落ち葉を廃棄せずに有効活用する本活動はSDGsの目標12、13などの達成に貢献してきた。以下が、その作成手順である。
きぬがさ農園Kreisの腐葉土の作り方
①落ち葉を集めて、簡易堆肥器タヒロンに入れる。
※ケヤキ、クヌギ、コナラ、サクラなどの葉を使用
②タヒロン内の落ち葉を粉砕・攪拌(かくはん)し、米ぬかを投入し、水を与える。
③タヒロンを上下ひっくり返して置いておく。
④月に3回程度、②、③の作業を繰り返す(米ぬかの投入のみ、月に1回程度)。
ミミズ・微生物・糸状菌・放線菌の力を借りて、落ち葉の分解と発酵を促進させる。
分解・発酵が進むと、落ち葉は熱を発するようになり、細かく黒っぽくなっていく。
⑤①より半年から1年を経て、腐葉土が完成する。

上記の手順で完成した腐葉土を畑に投入することで、植物がよく育つ団粒構造の土を作ることができる。定例活動では、腐葉土・油かす・苦土石灰(くどせっかい)・完熟堆肥を畑に入れて、シャベルや鍬(くわ)、耕運機を使用して土づくりを行う。この作業によって畑の土はふかふかになり、農業に最適な土へと作り直すことができる。
現在、衣笠キャンパス(きぬがさ農園を含む)では、タヒロンを99個設置している。2022年度は腐葉土を作るために、17,600Lの落ち葉を使用した(図1)。これは45Lのごみ袋390枚分の量である。また、活動開始より累計46,768Lの落ち葉をごみとして廃棄せず、畑の土として有効活用している。

さらに、本活動を知った方々から、落ち葉の処分に困っているとの声をいただくことが増えたので、私たちは現地に行って腐葉土づくりを教える活動や、近隣の寺院の落ち葉を引き取る活動も行ってきた。このように落ち葉を廃棄せず腐葉土を作るという地域の輪は広がってきている。
以上のように、きぬがさ農園Kreisは落ち葉を廃棄せずに腐葉土を作ることで、廃棄コストやそれに伴う二酸化炭素の排出を抑えつつ、農業に役立て自然に還している。これはSDGs目標12、13、15、17の達成を目指す活動である。よって、きぬがさ農園Kreisは落ち葉による循環型社会の構築に貢献している。
■野菜の地産地消の輪
きぬがさ農園Kreisは、きぬがさ農園(所有:立命館大学/畑の面積:約150㎡)で無農薬野菜を栽培し、収穫物を活動参加者・大学・地域で全て消費することで、地産地消を促進している。本活動はSDGsの目標2、3、12などの目標達成に貢献している。
きぬがさ農園で野菜を栽培する目的は、腐葉土の有効活用と食料問題の解決である。本団体は「①食料生産力の低下、②食料価格の高騰、③食品ロス」を日本の食料問題として捉えており、各問題に対して以下の活動に尽力している。
まず、食料生産力の低下に対する取り組みとして、無農薬野菜の栽培が挙げられる。日本の農業従事者の減少・高齢化、食料自給率の低下といった現状を踏まえ、本団体は日本の農業を活性化させるために、人々の農業や食料生産への意識を高めることが重要であると考えている。そのため、これまで農業と接点がなかった方々も巻き込んで農作業を行っている。実際に、多くの参加者が農業未経験だったが、本活動を機に野菜の栽培・収穫に喜びを感じて食料生産に関心を持つようになり、参加者同士で情報交換をしながら自宅で家庭菜園を始める者や、就職活動において農や食に関わる職業を志す学生も増えてきた。農園では経験の有無・性別・国籍にかかわらず、保育園児から80代の高齢者までの様々な背景を持つ方々が協力して、環境や健康に配慮した無農薬野菜を育てている(表1)。
その中で、本団体は「①野菜の栽培方法の調査・資料作成、②定例活動の内容決定・準備、③定例活動の運営、④参加者への声掛け・気配り、⑤雨水を用いた毎日の水やり・観察」を担ってきた。「みんな」で協力して活動を継続した結果、2022年度12月時点で参加者数は延べ2,774人(学生1,588人/教職員201人/地域住民985人)となり、2021年度は合計294.2kgもの野菜を収穫することができた。
次に、食料価格の高騰に対する取り組みとして、野菜の低価格による提供・無料配布が挙げられる。新型コロナウイルス感染拡大による経済悪化や円安、物価高に陥っている現状を踏まえ、学生や職員が金銭的に安全な野菜へアクセスしやすくなるように、本団体は収穫物の一部を低価格で大学の食堂や購買部に納品している。食堂には2年間で11種類もの野菜を納品し、累計3,964食を販売させていただいた。いずれも1皿88円以下で、食堂のスタッフに美味しく調理していただき、学生や職員から好評を得て完売することができた。さらに、収穫した野菜を農園の近隣住民へ無料配布し、喜びの言葉をいただいた。このように、多くの方々が低価格または無料で、無農薬かつ新鮮な旬の野菜にアクセスすることに貢献している。
最後に、食品ロスに対する取り組みとして、根菜の葉や茎、間引き菜、大きく育ち過ぎた野菜の消費も行っている。日本で多くの食品が廃棄されている現状を踏まえて、本団体は小カブの葉やサツマイモのつるも大学の食堂に納品した。特に、サツマイモのつるは学生の提案・交渉の結果、初のメニュー化に成功した。そして、「さつま芋のつるの甘辛煮」として販売し、わずか3日で252食が完売した。さらに、活動参加者の間でも本来捨てられてしまう野菜を分け合い、工夫して調理し、SNSで発信している。このように廃棄野菜ゼロを実現し、食品ロスの削減と地産地消の促進に貢献している。
以上のように、きぬがさ農園Kreisは「①食料生産力の低下、②食料価格の高騰、③食品ロス」という日本の食料問題の解決を目指して活動を行っている。これらはSDGs目標1、2、3、11、12、15、17の達成に貢献している。今後も食料問題の解決を目指して、学生・大学職員・地域住民で協力し、「美味しい地産地消の輪」を広げ続けていく。

■おわりに
きぬがさ農園Kreisは学生の仲間に加えて、大学職員や地域住民、大学の食堂・購買部、立命館大学の他団体等の多くの方々の協力のもと、「誰ひとり取り残さない」未来を目指して腐葉土を作り、野菜を栽培している。本団体は初代から2代目の役員たちに受け継がれ、現在3代目の役員たちが受け継ごうと奮闘している。後輩たちに支えられ、初代の「きぬがさ農園を地域交流の基盤とし、腐葉土づくりや農業を軸としてSDGsの達成を目指す!」という思いは引き継がれている。今後も、きぬがさ農園を「みんなの居場所」として位置付け、人と食と自然の輪を大切に、持続可能な社会の実現に向けて活動を継続していきたい。