特集イノベーションプランナーの視点
多様な交わりから創出する九州工業大学型の産官学連携
九州工業大学 先端研究・社会連携本部 産学イノベーションセンター/国立研究開発法人科学技術振興機構 イノベーションプランナー 米澤 恵一朗

産官学連携とは、役割・使命の異なるステークホルダーによる共創にほかならない。このような産官学連携を促進させるためには、ステークホルダー間のGAP領域に存在する裾野の交わりへのアプローチが重要であると考える。工学系の中規模単科大学である九州工業大学が取り組んでいる、GYMLABOをはじめとする産官学連携の取り組み事例を紹介する。
■URAとしての業務概要
筆者は、九州工業大学(九工大)の産学連携部門である産学イノベーションセンターで研究推進部門のURAとして基盤研究から社会実装までを一気通貫に伴走支援している。具体的には、研究者の自由な発想に基づく科学研究費(科研費)プロジェクトや各省庁が公募する政策課題対応型研究開発の企画・運営を業務の軸に置きつつ、そこから創出されるアイデアやシーズを社会実装につなげるための産学連携プロジェクト(PJ)の企画調整、起業支援などまでをシームレスに実施している。さらに最近では、研究推進のための環境構築や仕組みづくりにも取り組んでいる。また、クロスアポイントメントで国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)のイノベーションプランナーとしても活動しており、ファンディングエージェンシーの立場から大学シーズの社会実装支援も実施中である。
■現在の業務に就いたきっかけ、産学連携促進のための課題や取り組み、そしてこれから
URAの仕事をしたいと思ったきっかけは大学4年生で配属された研究室の指導教員の口癖であった「大学は未来の社会を支える技術と人材を創出する場所である。そんな大学を元気にすれば、社会を元気にできる」という言葉がすごく腹落ちしたからだ。この言葉が、私のURAとしてのモチベーションとなっている。サーバントリーダー(奉仕・支援型のリーダー)として周囲を活性化させることに長けた私の武器を生かし大学の活性化を通じた社会の活性化に貢献していきたいと考えている。
知の集積拠点である大学で創出されたアイデア・シーズを社会実装することを目的とした産官学連携とは、役割・使命の異なるステークホルダーによる共創にほかならない。さらに、大学と企業では時間感も異なることは無視できない。そのため、産官学連携においては様々なGAPが生じるが、実際にはGAP領域でも裾野の交わりのように、両者の役割・使命が重なる部分が存在する(図1上)。筆者は、この裾野の交わりへのアプローチこそが産官学連携を促進するための鍵だと考え、①裾野の交わりを多様な視点で整理・明確にし、②交わり部分の拡大や活性化させる取り組みの企画・運営に取り組んでいる。
①の事例としては、九工大が持つ学術コンサルティング制度**1の積極活用がある。大学で創出されたアイデアと企業の課題などのすり合わせを可能とする学術コンサルティングの活動にURAが主体的に関与し、裾野の交わり部分における論点整理を実施することで、活性度の高い産官学連携PJや連携制度の企画立案が可能となる。これらの活動を基に、②として九工大の産学イノベーションセンターでは図1(下)に整理するような様々な取り組みを企画・運営している。ここでは、九工大が実施する主な官学連携、産学連携、産官学連携の施策を整理している。

と交わり部分における産官学連携施策(下)
一方、産官学連携プロジェクト数が増加する中で、九工大におけるステークホルダー間の交わりが個々に閉じているケースが多いことが課題としてあらわになってきた。そこで、筆者らはこの交わりを有機的にかつ持続的に創出することを目的としてGYMLABO**4を構想し2022年5月26日から運営を開始した(写真1)。GYMLABOとは九工大の戸畑キャンパスの旧体育館を改修して構築したコワーキングスペースであり、①インスピレーションの交わり、②関わりの交わり、③共創ゴトの交わりの3ステップを連続的に創出することを目的として、設備も機能もオープンにそしてフレキシブルに活用できる施設として設計・運営されている。GYMLABOの主な利用者は、工学系の専門知識を学ぶ九工大の学生である。そこに、九工大の教職員、他大学などの学生、企業人材、自治体などの職員、地域住民などが多様に交じり合う施設となっている。さらにGYMLABOでは、多様なイベントなどを通じて、各ステークホルダーの裾野部分を刺激するような情報を滞留させることで交わりの形成を促進している。これらの成果として、運営開始2カ月で利用者は1万人を突破した。さらに注目すべきは、これまでの教員起点ではなく、学生起点での産学連携が創出され始めたことであり、最近では学生などの起業活動の拠点としても機能し出した。今後は、学生を中心とした交わりを起点に、産業界や地域住民などに対して、リカレント・リスキリング環境の提供や、産業界の実証の場としての活用を進めていく予定である。
最後に、これまで述べたようなステークホルダー間の裾野の交わり領域へのアプローチには、広範囲にわたる知識や経験を持つジェネラリスト的なURAの役割が重要になると考えている。特に、九工大のような中規模大学においては、産学連携施策においては柔軟性が重要であるため、この役割はさらに大きくなってくると考えており、大規模大学とは異なる中規模大学におけるURAの在り方の検討も必要だと考える。

参考文献
- **1:
- 「九州工業大学の産学官連携制度」:産学官連携制度|研究・産学連携|九州工業大学
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- **2:
- 「Platform for All Regions of Kyushu & Okinawa for Startup-ecosystem(PARKS_パークス)」:ウェブサイトタイトル「オール九州・沖縄一体でアジアとつながるスタートアップ・エコシステムを創出することを目指し、九州・沖縄の15大学と株式会社FFGベンチャービジネスパートナーズ(FVP)によりPlatform for All Regions of Kyushu & Okinawa for Startup-ecosystem(PARKS)を設立しました」
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- **3:
- 「産学連携推進会インターンシップ型アルバイト」:ウェブサイトタイトル「会員特典|産学官連携推進会」(九州工業大学)
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- **4:
- 「GYMLABO~交わりの形成拠点~」:ウェブサイトタイトル「GYMLABO」
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- **5:
- 「国家戦略特区制度を活用した高速PLCの屋外利用に関する規制改革が実現」:ウェブサイトタイトル「国家戦略特区制度を活用した高速PLCの屋外利用に関する規制改革が実現|プレスリリース|TOPICS|九州工業大学」
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- **6:
- ウェブサイトタイトル(PDF):「未来思考キャンパス構想」(九州工業大学)
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