特集イノベーションプランナーの視点

地方大学に見る産学連携の現状・課題・未来

宮崎大学 研究・産学地域連携推進機構/国立研究開発法人科学技術振興機構 イノベーションプランナー 西片 奈保子

写真:宮崎大学 研究・産学地域連携推進機構/国立研究開発法人科学技術振興機構 イノベーションプランナー 西片 奈保子

2023年2月15日

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産学連携の概念や守備範囲は、地方大学にあっても大きく変化・拡大した。人口減少社会における地方創生を第一波に、Society5.0、SDGs、そしてスタートアップへと、大学が受け止める日本の社会課題は増え続け、産学連携担当部署の大きなテーマとなっている。地方大学の多くは、少人数の産学連携担当者が分野横断的・業務横断的にこれらに向き合っている。今、大学が変わる大きなうねりの中で、大学は社会と連携し、どんな未来を描くのか。産学連携担当者は自らのアップデートを迫られている。

■「産学官連携とは何か」を考え、つながることから始まった

2014年4月に産学官連携コーディネーターをスタートした私は、最初の2年間、宮崎県から委託された「宮崎県産学官連携人材育成研修」事業を担当した。「大学は敷居が高い」との認識の下、宮崎県が大学の「知」をもっと地域で活用するべく、「産学官連携」の理解者を増やそうと用意した事業だった。これが地域の人的ネットワーク形成の土台となり、マッチングのためのラウンドテーブルin宮崎(写真1)を主催する今につながっている。

また、着任した年から、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)目利き人材プログラムを基礎コース・応用コース(当時)と連続して受講した。各分野の第一人者から「産学連携とは何か」について理論やツールを学び、「なんとなくの産学連携支援」から脱却を目指す貴重な経験となった。

振り返れば、この2年間の学びと出会いから、私の産学官連携のスタイルができていった。マッチングだけではなく、研究チームに必要なものを見つけてつなげる能力が必要で、大学からの社会実装は、とても一人ではできないとの認識からのスタートだった。

写真1 マッチングのためのラウンドテーブルin 宮崎
宮崎市内の「宮崎大学まちなかキャンパス」で、少人数・双方向で行う研究者と企業等との対話の場として不定期に開催している。研究シーズを様々な立場からの意見を交わすこと、仲良くなることを重視している。
(2018年3月開催 宮崎大学提供)

■そしてイノベーションプランナーになった

他の大学では、各種競争的資金の制度を熟知し、研究の出口を描いて大学に大型事業を獲得させるスーパーURAが、当時すでに活躍していた。焦った。少しでも多くの情報を得て、研究者の役に立ちたかった。

こうした中、地方大学の貴重なパートナーが、JSTのマッチングプランナー(以下、MP)だ。初めてのマッチングプランナープログラム(当時)の応募支援で本当にありがたかったのが、九州担当の二人のMPだ。以来、私にとってMPは強い味方である。

2020年7月から、宮崎大学からトライアウトに挑戦する研究者をMPと連携して掘り起こし、後押しするために、クロスアポイントメントでJSTイノベーションプランナー(IP)の肩書をいただいた。コロナ禍で始まったものの、オンライン環境のおかげで日常的にMPや他のIPと情報交換できるのは、情報を得にくい地方大学には貴重な環境である。

■A-STEPトライアウトを起点とした「みやざきサクラマス」の支援

JSTの研究成果最適展開支援プログラムA-STEPは、私たち産学連携担当者が研究者に関わるきっかけとなることが多い。特にトライアウトは、産学連携担当者が申請に必要だからだ。申請時にどれだけ研究者に「役に立つ」と思ってもらえるか、がその後の大学内の自分の存在価値に関わると言っても過言ではない。

A-STEPトライアウト(旧マッチングプランナープログラム)から関わった支援テーマの一つが「みやざきサクラマス」(写真2)である。山から海に降りることのない九州山系の養殖ヤマメを、冬の低水温の期間に海に運んでサクラマスとして大きく育てる循環型養殖法は、ヤマメが海水へ順応する際の生理的応答やホルモンの研究を土台としている。初対面の農学部の内田勝久教授から依頼を受け、MPから様々なアドバイスを受けての採択は、とてもありがたいものだった。その後、研究室の大学院生が株式会社Smolt(宮崎市)を起業し、注目される大学発ベンチャーとなっている。

写真2 ヤマメとサクラマス
淡水でずっと育てられたヤマメ(右上)と、一度海で育てたことで大型化したサクラマス(手前と奥)。一緒に生まれた魚たちが、2年後まったく違う魚のようになる。アグリビジネス創出フェア2017にて展示(著者撮影)。

■何がゴールか? 成功か? 支援人材の目標とモチベーション

共同研究事業などでは、企業から、あるいは競争的資金等で研究費が得られれば、大学としてはOKである。しかし、それは産学連携支援者のゴールなのだろうか? 雇用された大学で、支援担当として私が存在する意味はどこにあるのか。産学連携支援者は、大学の研究を世の中で形にするためにいるのではないか。

また、研究を事業化するには、大学から事業化の担い手(企業)に重心を変えていかなくてはならない。その時、テーマは知的財産権として研究者にひも付いているものの、研究者の手から離れていかざるを得ない。あるいは自分が事業の担い手になる、すなわち起業するしかない。どこまで支援していけるのか。

産学連携支援人材は、最新の国内外のトレンド、国の施策を把握し、技術移転から起業・スタートアップまで理解することが必要な時代となってきてしまった。変化に対応するモチベーションをいかに維持していくか。多くの人が悩んでいるのではないだろうか。

■地方大学で、産学官連携が未来を描く

地方創生の文脈では大学から地域への就職率アップが求められ、地域に向けた人材育成に力が入れられている。私見だが、地方では大卒の高度人材を生かせる場(企業)が多いとは言い難い。地域の産業振興は、大卒者の雇用と、大卒・大学院卒の高いポテンシャルの人材を生かせる「場」づくりが両輪となるべきだ。地方大学の産学連携が地域活性化の大切なギアとなり、地域の未来を作ること。共同研究等で地域企業の未来を支え、スタートアップで地域にも新しい事業を起こすこと。これが地方大学の産学連携の大切な目的の一つだ。

産学連携担当者として何でもできるスーパーマンにはなれそうにないが、全国の産学の仲間の活躍に、自分のアップデートの必要を感じる日々だ。時代を取り入れるには、個人だけでなく産学官連携支援組織もアップデートし、次世代につなげなければならない。一人ではなくネットワークで、たくさんの人の知恵を集めて、地域の未来の一端を担うイノベーションを大学から生み出していくことに、産学連携支援の立場でもうしばらく挑戦し続けたい。