特集イノベーションプランナーの視点

千葉大学の産学連携の現状、課題と取り組み

千葉大学 産学連携担当URA・特任准教授/国立研究開発法人科学技術振興機構 イノベーションプランナー 渡邉 史武

写真:千葉大学 産学連携担当URA・特任准教授/国立研究開発法人科学技術振興機構 イノベーションプランナー 渡邉 史武

2023年2月15日

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■産学連携担当URAとなったきっかけ

2017年から千葉大学で産学連携担当URA・特任准教授として従事している。また、2019年からは、クロスアポイントメント制度を活用して国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)産学連携展開部のイノベーションプランナー業務を兼務している。

技術を基に社会に貢献したいとの思いから、一貫して技術関係の仕事に関わってきた。大学で専攻した化学工学を生かしかつ海外と関わる仕事がしたいとの思いから専業エンジニアリング会社に就職した。水素製造触媒や新規プロセスの研究開発チームに入り、基礎研究から実プラント運転までに携わり、実用化を達成する研究開発業務の「いろは」を叩き込まれた。転職先の世界最大手フィルタメーカーでは、当初ろ過・分離に関する技術研究、新製品開発に従事し、日本も含めたアジアのビジネスを技術面でサポートした。その後、ポリマービジネスのアジア地域担当マネージャーとしてアジア各国のビジネスをリードした。このように約22年間に民間企業で身に付けた基礎研究、商品化に向けた研究開発、さらにビジネスにおけるマーケティング、マネージメントの経験を生かし、千葉大学URA、JSTイノベーションプランナーとして、日本の科学研究、産学連携などの推進と技術の社会実装に携わっている。

■千葉大学と千葉エリア

千葉大学は約150年前に創立した千葉師範学校や共立病院を前身として設立され、現在では10学部、17大学院を有し、学部の枠を越えた幅広い教養と高度の専門性を修得できるアカデミア環境を整備している。2021年に千葉大学ビジョン「世界に冠たる千葉大学へ」を策定し、大学の進む方向を明確化している。ビジョンの一つとして「社会に大きく貢献する千葉大学」を掲げ、本学を起点に教育、行政、産業、医療、地域コミュニティなどへの幅広い社会貢献、また、これら社会貢献を通じたイノベーション創出を目指している。

千葉県は、東京のベッドタウンとして発展してきた大都市郊外エリアと日本有数のコンビナートを有する臨海工業エリア、海と山に囲まれた農村エリアが共存する日本の縮図があり、わが国の抱える多くの課題と実証フィールドを有しており、日本全国の地域が抱える「課題の先進地域」と見なすことができる。

千葉大学IMO棟

■千葉大学における産学連携支援体制

千葉大学は、内閣府の「イノベーション創出環境強化事業」に採択され、2020年4月にイノベーション創出と研究支援・産学連携機能の強化を目的に、学術研究・イノベーション推進機構(IMO)を設置し、オープンイノベーションスペースなどを有する新拠点IMO棟を西千葉キャンパスにオープンした。それまで別組織だった基礎研究支援と産学連携支援を統合し、事務組織である研究推進部とURAをアンダーワンルーフに集結、機動的に活動できるオープンイノベーションプラットフォームを構築した。企業などとのコーディネート活動を強化、産業連携研究を推進し、異分野研究の融合やグローバルな視点での学びをイノベーションやスタートアップ創出に活用している。

■千葉大学の産学連携の現状、課題、取り組み

IMOの下に学術研究基盤支援部とプロジェクト推進部、知財・技術移転部が組織され、学長のリーダーシップの下、研究力強化と研究成果の社会実装を通じたイノベーション創出に努めている。プロジェクト推進部が知財・技術移転部と連携して、研究成果の社会実装を支援している。限られた人数のURAで全体をカバーしているためそれぞれが幅広い業務に関わっている。このことで相互の緊密な連携と情報共有が容易であることが強みになっている。主な支援業務の現状、課題、注力している取り組み等を以下に示す。

①共同研究:民間企業との関係を質・量共に強化していくことを計画・実行している。研究経費の仕組み改定による単価増大と同時に、組織間連携、研究講座・部門、コンソーシアム化による大型連携の推進に注力している。

②受託研究:若手研究者の産学連携のきっかけ作り、企業の事業化の出口近くで必要となる大型開発予算・リスク回避のために産学官公金の支援機関の助成プログラムの積極的活用を推進している。特に地域の中小企業との連携にはもっとプログラムの充実を期待している。その他、大型共同研究につながる拠点形成や地域連携のため、産学官公金の連携による地域連携開発でも大学の役割が重要となっている。

③知財移転・ライセンス:社会実装の有効な手段は大学の有する知財のライセンスであるが、ライセンス収入は他の外部資金と比べて非常に小さい。特許戦略により基本特許等を増加させていくと同時にライセンス活動を強化していく必要がある。また、将来のベンチャー起業を見据えた研究開発では特許戦略や企業との共同研究契約条件に注意が必要である。

④契約:企業との共同研究、共同出願、実施許諾などの各種契約条件に注意が必要である。企業と大学で求める契約条件に大きな差があり、慎重かつ粘り強い協議で理解を求めていく必要がある。

⑤大学発スタートアップ・ベンチャー創出・アントレプレナーシップ教育:大学はイノベーション創出の主体者としての役割が益々期待されている状況であり、特に、大学発スタートアップ創出支援、アントレプレナーシップ教育は今後さらに重要となる認識。学外の各種支援機関と連携深化して、体制整備・強化を進めている。千葉大学独自のギャップファンドプログラム、起業を目指す学生が本物の起業家に触れる機会を提供するスタートアップカフェの実施など、外部機関と連携しながら、起業家候補の発掘からアントレプレナーシップ教育、本格的なスタートアップ創出支援まで、シームレスな支援活動を進めている。

スタートアップカフェの様子

⑥地域連携:千葉県は過疎高齢化、建物の老朽化、コミュニティの希薄化などの課題を抱える都市圏、人口減少と若年層人口流出が著しい地方圏を有しており、文部科学省COC・COC+事業においてイノベーション人材育成プログラムや都市技術と地方産業のマッチングによる新産業創出支援など様々な取り組みで千葉全域をカバーしてきた。事後評価で非常に高く評価された本事業終了後も取り組み継続のためにコミュニティ・イノベーションオフィス(CIO)を設立し、千葉県内の自治体、企業等と協力し、大学と地域の協働による地域活性化・地方創生を推進している。

千葉大学はIMOに集約した産学官連携機能、研究推進基盤やベンチャー支援体制を持続的に強化していくことで、イノベーション創出に取り組んでいく。