視点
社会実装に向けた大学の課題について
北海道大学 産学・地域協働推進機構 産学連携推進本部 産学協働マネージャー 城野 理佳子
環境変動やエネルギー、食料危機などの問題は、国家レベルで対応すべき課題から組織、個人に至るまで様々な階層の当事者が存在し、覇権争いや利害が複雑に絡み合うなど、科学技術だけで解決できる問題の方が少ないのではないだろうか。第6期科学技術・イノベーション基本計画では、「様々な社会課題を解決するための研究開発・社会実装の推進と総合知の活⽤」を謳(うた)っており、大学においては世界トップレベルの研究を追求すると同時に、研究成果の社会実装が求められている。
これまでは企業への技術移転やスタートアップが達成目標であり、実際に多くの技術が実用化されてきた。しかし上記社会課題を解決するためには、一企業や特定の業界だけでは到底成し得ることはできない。科学技術に基づく新たな社会的価値の創造や、市民科学、市民会議などを通して当事者意識を醸成し、新しい社会システムの構築や行動変容までを目指す必要があるのではないだろうか。しかし今の日本の大学には科学をバックグラウンドに持つ社会科学系の研究者は少なく、人材育成は急務である。一方、新設のポジションは任期付きである場合が多く、優秀な人材にとって魅力的な条件とはいえない。必要な人材にしっかり投資をする、大学のガバナンスも問われている。