シリーズ防災と減災と被災後
佐賀大学 SDGsプロジェクト研究所
地域防災減災研究プロジェクト
佐賀大学 理工学部 教授 大串 浩一郎

近年の自然災害の頻発(ひんぱつ)化や甚大化ならびに少子高齢化・人口減少など災害レジリエンスの低下という解決すべき課題が山積している。この解決の一助となるため、異分野の研究者で研究プロジェクトを結成し、さらに、地域の行政や民間を加えた防災・減災に関するコンソーシアム発足により、地域の防災・減災に関する研究・教育・地域連携を始めた。
■地域防災減災研究プロジェクト
近年の甚大な災害の頻発化と少子高齢化・人口減少社会の到来など解決が困難な課題が山積している。これらの解決のためには異なる分野間の連携が重要である。本研究ではまず、都市工学の分野間で協働し、総合的な地域の防災・減災方策に関する研究を地域と連携して実施することとした。つぎに、国や県、市町、低平地研究会、軟弱地盤研究会などの他の組織と連携し、「佐賀県内地域防災研究連絡会議」や各種講演会等を実施するとともに、異なる組織間・分野間の課題や取り組みの相違を集約・共有し、実現可能な地域の防災・減災方策の研究を行う計画とした。さらに今後、都市工学の範疇(はんちゅう)を超えて異分野の研究者との連携を行うことで、今まで以上に解決可能な課題に対応できると考えた。また、メンバーのこれまでの国際交流実績を元に防災・減災に関する国際共同研究への発展、地域における防災減災研究の拠点化等への発展も視野に入れてプロジェクトをスタートした。

■プロジェクトの背景
2017年度をもって佐賀大学低平地沿岸海域研究センターが廃止され、九州の国立大学の中では2018年4月現在で防災研究の拠点となるべきセンターを持っていないのは佐賀県のみとなった。一方、佐賀県では、総合計画2019において六つの施策の柱を立て、その1番目に「安全・安心の暮らし佐賀」を掲げて重点的に取り組んでいる。2016年の熊本地震、2017年の九州北部豪雨、2018年の西日本豪雨、2019年の佐賀豪雨や東日本台風など、日本各地で甚大な自然災害が発生した。今後の気候変動などによる災害外力の増大や甚大な災害の頻発化、少子高齢化人口減少社会の到来、インフラの劣化による脆弱性拡大など、解決が困難で、これまでの常識が通用しない課題が我々に突き付けられている。このような背景の下、本プロジェクトでは、新領域を取り込みつつ、低平地を含む地域の防災・減災研究の拠点を整備する動きを開始するとともに、近い将来、地域の防災・減災研究の核となることを目指して地域防災減災研究プロジェクトを2021年度からスタートした。本プロジェクトは佐賀大学SDGsプロジェクト研究所において12あるプロジェクトのうちの一つである。
■具体的内容
2021年度に発足した本プロジェクトでは、当初、理工学部都市工学部門の教員5人からなる組織で、以下の分野の研究を実施していくことを目指した。
①水防災・減災分野
②地盤防災・減災分野
③都市計画分野
④防災まちづくり分野
また、地域の課題に対応するためのプラットフォームを構築した。すなわち、県内の行政や民間と交流を定期的に行う「佐賀県内地域防災研究連絡会議」である。この連絡会議により、地域で課題となっているテーマの拾い上げと将来的には共同研究につながる取り組みや地域への成果公開などの機会を増やすこととした。連絡会議には、国土交通省から三つの河川事務所と国道事務所の所長、佐賀県から五つの課の課長、佐賀市、武雄市の防災担当課長、民間から三つの代表的な機関に入ってもらい活動を行っている。2022年度からは、みやき町の担当課にも参加してもらっており、佐賀平野の地区についてはほぼ網羅している。その他の自治体については必要に応じて一時的に参加してもらう形をとることとした。また、2022年度からは、地域防災減災研究プロジェクトに新たに本学の3人の研究者を教育学部、農学部、医学部から追加した。このことにより研究分野としては以下の3分野が追加された。
⑤災害地形学分野
⑥農業防災分野
⑦災害支援(医療福祉、避難所・避難者対応)分野

2021年度の佐賀大学特別公開講座では、当初のプロジェクトメンバー5人が講師となって対面・リモートのハイブリッド形式で100人を超える聴講者に対して「都市の防災・減災」に関する講義を行った。2022年度は新たに加わった3人の教員と合同で「佐賀の防災・減災」に関する公開講座を実施した。今後も、本プロジェクトが中心となって防災・減災に関する公開講座などの開催により、市民と一緒に地域の防災・減災についての意見交換を行っていく予定である。
■課題
プロジェクトメンバーの研究課題としては以下のようなものがある。プロジェクト発足当初の自然科学的視点にとどまらず、人文社会科学的視点も取り入れた総合的な取り組みによって地域の防災・減災に資する研究を行う体制が整った。
①佐賀豪雨と将来豪雨による流域の浸水被害と治水適応策の検討
②伝統的治水技術を活用した将来の流域治水に関する研究
③佐賀豪雨における土砂災害のアーカイブとその特徴に関する検討
④コンパクト・プラス・ネットワークと災害リスクとの関係性
⑤水災害としなやかに付き合う住まいと集住
⑥空中写真を用いた最尤法(さいゆうほう)分類による土地被覆分類手法開発
⑦農地防災機能を維持するための水利施設の管理・運用
⑧佐賀県内の地域における災害支援に関する研究
さらに、年2回開催の「佐賀県内地域防災研究連絡会議」では、次年度以降に次の課題に対して取り組むことを確認している。▷流域のあらゆる関係者で水害対策を推進する仕組みづくり ▷流域治水の実装を促進するための法制度等の充実や見直しに関する意見集約 ▷大規模災害時の防災を担当する機関の連携方法について ▷県内の内水氾濫における避難の在り方や事前防災としての整備 ▷県で構築中のリスク情報の活用策に関する意見交換 ▷浸水情報の発信方法や関係機関との共有方法 ▷災害に対する危機意識の醸成方法 ▷田んぼダムの効果検証 ▷内水氾濫対策の斬新な対策案検討 ▷流域の上下流や左右岸のバランスを考慮した災害リスク低減方策 ▷屋根材などの資源としての河川に繁茂するヨシの活用可能性など。

■プロジェクトの成果と今後の方針
2021年度に防災・減災に関する研究を連携して行う学内の横断組織としての本プロジェクトが構築でき、2022年度にさらに他学部の研究者も加わり、プロジェクトの守備範囲が広がった。また、このプロジェクトを核として、県内の行政、民間などの関係機関から計16人の担当者を集め「佐賀県内地域防災研究連絡会議」を組織し、機関の枠を取り払って県内の防災・減災研究に関する自由な意見交換の場を構築できたことが何よりの成果である。今後、この連絡会議で出てくる意見を元に地域にとって本当に必要な施策に結び付く提言を行うことや、場合によっては地域の課題について新たに共同研究を実施する仕組みもできることが期待される。