リポート

科学技術都市つくばのまちづくり
~スマートシティからビールまで~

文部科学省 研究振興局 学術研究推進課専門官/つくば市顧問/筑波大学システム情報系客員准教授 森 祐介

写真:文部科学省 研究振興局 学術研究推進課専門官/つくば市顧問/筑波大学システム情報系客員准教授 森 祐介

2023年1月15日

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茨城県つくば市は、人口約25万人のうちおよそ1割が研究に従事し、約150の研究機関が立地する日本最大の研究学園都市である。そのつくば市が2022年4月に政府から「スーパーシティ型国家戦略特別区域」に指定された**0。この特区、「つくばスーパーサイエンスシティ構想」では、誰一人取り残さないというSDGsの精神を柱に掲げ、先端技術をまちづくりにふんだんに導入して地域の課題を解決することを、自治体のみならず、大学等研究機関、民間企業、市民が一体となって目指している。本稿では、これまでの経緯やその推進体制とともに具体的な取り組み事例を、当時の担当者(2019年6月〜2022年6月つくば市政策イノベーション部長)の視点で紹介する。

■つくば市の課題

茨城県つくば市は、つくばエクスプレス沿線の開発などによって、近年、特に子育て世代の転入が増加している影響で、人口がここ5年間は毎年3,000人以上の伸びとなり、ついに2022年6月に25万人に到達した。

他方、中心市街地から離れた周辺部は高齢化が著しく、市内全体の平均高齢化率約19%に対し、約60%となっている地域も存在する。また、市内の道路総延長は茨城県内1位の約3,700kmであり、自動車の交通分担率も全国の地方都市平均を上回る6割となるつくば市にとって、安全で快適な移動手段の確保は急務である。加えて、つくば市には研究学園都市独特の国際性があり、140以上の出身国からなる約1.2万人の外国人が居住しているが、これらの市民は、多様な言語で市や暮らしに関する情報、緊急時の情報が容易に入手できる環境にあるとは言えない状況である。さらに、筑波研究学園都市建設から50年が経過し、市内のインフラが一斉に老朽化を迎える問題も抱えている。

■SDGsの基本理念に基づくスマートシティ化構想

こうした地域課題の解決を目指し、つくば市は、SDGsの基本理念である「誰一人取り残さない」、包摂の精神を市の総合戦略である「つくば市未来構想」の根幹とし、持続可能なまちづくりを進めてきたところ、さらにつくば市の最たる特徴である知の集積を生かし、先端技術を普段の生活の中に取り込んでいく、または、まちづくりに利用していく「スマートシティ化」を行うことで、これらの課題解決をさらに加速することを目指している。

つくば市には、官民合わせて150の研究所が所在、そして住民の約1割にあたる約2万人が研究に従事し、博士号取得者も約8,000人(日本の平均の10倍密度が高い)が在住している。この特性を生かし、これまでも研究機関との連携により、テクノロジーの社会実装に向け様々な実証実験を行ってきた。この中には、日本で初めての取り組みも多く含まれ、他の自治体へも横展開されるなどの成果を上げているものもあるが、ほとんどは実証実験止まりであり、真の社会実装にはなかなか至らないのが現状である。

そこで、テクノロジーありきではなく、地域課題解決のためにテクノロジーをツールとして活用する思想を徹底した上で、様々な分野を連携させる「つくばスーパーサイエンスシティ構想」を2021年4月に打ち立てた**1。「科学で新たな選択肢を、人々に多様な幸せを」という副題を掲げ、行政、移動、物流、医療・介護、防犯・防災・インフラの五つの分野において、計14の個別プロジェクトを切れ目なく実施する。

■つくば地域の推進体制

このような取り組みは「まちづくり」そのものであるため、その推進にあたっては自治体が中心的な役割を果たすべきである。しかし限界もある。そこで、つくば市では民間企業、大学、国立研究開発法人、自治体など約75機関(2022年11月末現在)から構成される「つくばスマートシティ協議会」を設置し、分野ごとに分科会を組織して、定期的に議論の場を設けている**2。共同会長は首長である茨城県知事とつくば市長が務めるが、「モビリティ分科会」「医療介護分科会」「インフラ・都市デザイン分科会」「行政サービス分科会」「データ連携基盤分科会」の各分科会のリーダーは筑波大学、NEC、鹿島建設、つくば市等の多様なメンバーが務める。それぞれの分科会で立案した計画は、政府の補助・委託事業に申請したり、参画企業が事業費を出し合ったり、市が予算化したりといった方法で具現化を図っていく。政府事業では、例えばこれまで、つくば市またはつくばスマートシティ協議会として、内閣府未来技術社会実装事業(2021年度)、内閣府デジタル田園都市国家構想推進交付金(2022年度)、総務省地域課題解決のためのスマートシティ推進事業(2022年)、国土交通省スマートシティ実装化支援事業(2019年度から毎年)、国土交通省新モビリティサービス推進事業(2021年度)に採択された。

これと並走させる形で、つくば市と筑波大学は内部の推進体制をそれぞれ構築している。つくば市が設置する「つくば市スーパーシティ型国家戦略特別区域推進本部」は市長を本部長とし、全部局長が構成員となっており、ここでの意思決定には市役所の全ての部局が従うこととなっている。「先端科学技術を活用したまちづくり」のようなテーマは本来市役所のあらゆる業務に関与し得るが、推進するのは企画系部門のみで、実際に事業を持つ原業担当部門と足並みがそろわないことも多い。つくば市では当推進本部を単なる承認機関としてではなく、建設的な議論を行える場として位置付けており、事務局である政策イノベーション部スマートシティ戦略課*1の提案を推進本部でブラッシュアップしていく。

筑波大学では、つくば地域のスマートシティ化ならびに筑波大学キャンパスのスマート化を推進するために「筑波大学未来都市プロジェクト」を設置し、産学連携担当副学長をヘッドとして、部局横断的に30人以上の教員が名を連ねている**3。他自治体では見られないユニークな点は、筑波大学未来都市プロジェクトの中心メンバーである鈴木健嗣システム情報系教授をつくば市の顧問・アーキテクトとして委嘱し、つくば市役所に週に1回の頻度で出勤してもらっている点であろう。これにより、つくば市と筑波大学の間の調整が円滑化し、意思決定に要する時間が短縮されている。

前述の通り協議会には大手からスタートアップまで民間企業も多数加入しているが、そのことに加えて、日本経済団体連合会および日本政策投資銀行は、国内で支援するスマートシティとしてつくばスーパーサイエンスシティ構想を唯一選定し、2021年つくば市との間で連携協定を締結しているなど、経済界からの期待も高い**4

■スマートシティ事例:インターネット投票

こうした推進体制の下、様々なプロジェクトが現在進行形で動いているが、ここでは代表的なものとしてインターネット投票の導入について紹介したい。2020年つくば市長・市議会議員選挙の投票率は過去最低の52%であった。年代別では20代前半が26%と最も低く、年代が上がるにつれて投票率は増加していくが、80代以上になると急落して42%となる。つくば市では、選挙へのインターネット投票の仕組みの導入が市民の政治参加を促すとの仮説、そして、何らかの事情で投票所に行くのが困難な「投票弱者」の投票権保障の観点から、これまで本人確認性と秘密投票、セキュリティを担保したインターネット投票の実証実験を行ってきた。2018年にはマイナンバーカードとブロックチェーン技術、2019年には顔認証技術を活用し、2020年にはスマホでマイナンバーカードを読み込み投票する段階まで技術開発が進んだ。

筑波大学生・院生を対象にした調査では、9割の回答者がインターネット投票を使ってみたいと回答し、さらに、実際に2021年の選挙で選挙権があったにもかかわらず投票に行かなかった人の半数が、仮にインターネット投票の仕組みが整備されていれば投票したと思うと回答しており、インターネット投票により若い世代の投票率が向上する可能性が示唆されている。80代以上の投票率の低さに目を向けると、投票所まで行くのが難しい、体調が悪く投票する元気がない、といった理由が住民への聞き取りの際に挙げられている。したがってインターネット投票は若年層だけでなく、移動が困難な高齢者や障害者の政治参加の促進、投票権の保証につながる技術であると考えられる。

他方、公職選挙へのインターネット投票の導入は現在法令により禁止されている。公職選挙法第44条で、選挙人は自ら投票所に行き投票をしなければならないとされており、公職選挙でインターネット投票を実現するためには法改正または規制の特例が必要である。そのため、つくば市は「つくばスーパーサイエンスシティ構想」の中にインターネット投票を盛り込み、市内でのインターネット投票を認めてもらえるよう政府に要望しているところである**5

こうしたことを背景に、近い将来の公職選挙でのインターネット投票導入を見据えて、2021年7月、学校の生徒会選挙においてインターネット投票を先行導入した**6。茨城県立並木中等教育学校とつくば市が主催、文部科学省、筑波大学、VOTE FOR社(東京都港区)、KDDI社、xID社(東京都千代田区)、LayerX社(東京都中央区)の協力の下、高校1年生約160人が、「主権者教育」「デジタルIDとブロックチェーン技術」「通信・5G」についてワークショップなどの事前学習をした上で、従来の紙での投票に代えて、自分のスマホや貸与されたスマホから投票した。生徒からは、「スマホから投票できるのはとても便利。投票所まで遠いから面倒と言って父親は選挙に行っていない。親にも薦めたい」「今回の事前講義や投票の経験を通じて、選挙に行くことの重要性が理解できた。インターネット投票は投票率を上げると思うし、自分は使いたい」「投票結果の改ざんをどのようにして防ぐかに関心がある。停電時にどうするかも考えないと」「お年寄りなど、スマホを使えない人への対応も必要」といった声が聞かれ、今後の本格導入に向けての弾みとなった。今回の取り組みを知った高齢者からも、「インターネット投票は早期に必ず導入してほしい」との実現を待ち望む意見もあった。

こうした実践も踏まえ、内閣府は「先端的サービスの開発・構築等に関する調査事業」として「茨城県つくば市におけるインターネット投票に係る調査実証事業」をVOTE FOR社に委託、マイナンバーカードを活用した模擬インターネット投票を2022年11月に実施した**7。この事業では、本人確認の正確性(なりすましや重複投票への対策)、投票の秘密の担保(個人情報等の漏えい防止)、自由意思の担保(買収や強要の防止)、システムの安全性(不正アクセスや障害への対策)、公正性の担保(投票データの改ざんを防ぐ仕組み)、投票機会の平等(ネットを使えない人への配慮)などの課題について技術的に解決可能であるかを確認することを目的としている。2024年の本格実施に向け、効果検証が待たれるところである。

■多様な人々が集う「たまり場」作り

最後に、産・学・官を含む多様な人々の偶発的な出会いとコラボレーションを育むためのユニークな取り組み事例を紹介したい。つくば市は、つくば駅から徒歩5分の場所にインキュベーション施設である「つくばスタートアップパーク」を2019年に開設し、創業間もないスタートアップのためのオフィススペースや、これから起業を予定する研究者・学生等が利用できるコワーキングスペースを安価に提供している**8。加えて、週に2~3回、研究者向けの起業相談会や、市内研究機関の研究紹介などのセミナーを開催して、研究者、起業家、自治体職員、そして市民が集う「たまり場」としての機能も充実させてきている。これらについては利用者や参加者から高い評価を受けているが、他方、例えば産業界のニーズがある研究テーマを扱っているものの自ら起業することや企業との連携について検討していない研究者や、市民の中でも積極的にサイエンスカフェなどに参加することはないがサイエンスに興味を持ち得る潜在的関心層などを掘り起こすことには課題があった。この解決の一助とするために参考としたのは、筆者の米国留学中の体験である。

米国のインキュベーション施設では、様々なステークホルダーが自発的に集まる仕掛けとして、誰でも無料で使えるフリースペースに加え、美味しいコーヒーや地元産クラフトビールが楽しめるカフェ・バーを併設することが多い。つくばスタートアップパークでは開設当初から市内の「Coffee Factory」がテナントとして入居、高品質なスペシャルティコーヒーが提供されていたが、もう一つのキーファクターであった地元産クラフトビールについては未着手であった。そこで、2020年に創業した「Tsukuba Brewery」にCoffee Factoryの豆を副原料として使用したビールの醸造を依頼し、つくば市・Tsukuba Brewery・Coffee Factoryのコラボビール「Tsukuba Tomorrow Beer」をつくばスタートアップパークで提供することとした。五十嵐立青市長自ら仕込みの一部を手伝って完成したこのビールのお披露目イベントでは大勢の人が集まり、用意した100本が30分で完売するほどであった。また、このコラボビールは何かと何かを組み合わせてイノベーションにチャレンジするというつくばスタートアップパークのコンセプトを体現しており、それを自治体主導で実現した好事例として各種メディアで取り上げられたことで**9、後日、「今まで一度も来たことがなかったが記事を見てビールを求めてきました」という人も見られた。今後も第2弾、第3弾と続け、「たまり場」の主要コンテンツとして活用する方向だ。

■おわりに

つくば市においてこのような先端技術の社会実装を、スピード感をもって進めることができているのは、多様なプレイヤーが真に連携しているからにほかならない。そして、チャレンジを実現するためには労をいとわないつくば市職員の存在も大きい。

象徴的な出来事があった。2021年4月、つくば市は、市内スタートアップのDoog社とともに、協働運搬ロボット「サウザー」を使って、自動追従型の荷物搬送ロボットの公道走行を日本で初めて実施した。これまでサウザーは、道路交通法上「自動車」や「歩行者」などの分類において、位置付けが明らかでなかったため公道を走行できなかったが、科学技術振興課の職員が警察庁から発出された文書を見て、「サウザー」を「歩行補助車等」に位置付けることができるのではないかと考え、数日中のうちにDoog社、警察庁と調整を行い、道路使用許可を伴わない歩道走行を実現させた。これは、「法令の縛りがあるからその範囲内で考える」のではなく、「これを実現させるためにはどのようなルールになれば良いか」という、既存の枠組みにとらわれず目的志向型の意識を日常的に持ち続けなければ決してできなかったであろう。このようなつくば市の柔軟性と機動性を生かして、市のスローガンでもある「世界のあしたが見えるまち」を引き続きわれわれに見せてほしいと願う。

*1:
2022年より設置。2011年に市として初めて設置した、科学技術を推進するための組織「企画部科学技術振興課」より段階を経て派生。
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参考文献

**0:
内閣府ウェブサイト 地方創生 > 国家戦略特区 > スーパーシティ・デジタル田園健康特区
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**1:
つくば市ウェブサイト つくば市政 > つくば市の取組 > スーパーシティ
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**2:
つくば市ウェブサイト つくば市政 > つくば市の取組 > スマートシティ > つくばスマートシティ協議会
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**3:
筑波大学オープンイノベーション国際戦略機構 ウェブサイト
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**4:
週刊経団連タイムス 2021年4月15日 No.3496 つくば市との連携協定を締結
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**5:
内閣府ウェブサイトR4.11.21WGヒアリング つくば市提出資料 ②公職選挙におけるインターネット投票の実施
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**6:
NHK政治マガジン 2021年7月7日 ネット投票目指すつくば市 高校生がスマホで生徒会選挙の投票
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**7:
2024つくば市長選・市議選へのインターネット投票導入を目指して ウェブサイト
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**8:
つくばスタートアップパークウェブサイト ウェブサイト
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**9:
日本経済新聞 2022年9月15日 コーヒー風味のクラフトビール 茨城・つくばブルワリー
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