特集立ち向かう国研ベンチャー

混在・分断されたデータを全て一気通貫で統合 
JAXAベンチャー

株式会社DATAFLUCT 代表取締役CEO 久米村 隼人

写真:株式会社DATAFLUCT 代表取締役CEO 久米村 隼人

2023年1月15日

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■DATAFLUCTの概要

株式会社DATAFLUCT(データフラクト、東京都渋谷区)は、衛星画像解析からスタートし、現在は企業のデータ基盤構築やデータ利活用を推進するデータプラットフォーム事業と、複数の種類のデータを活用し、社会課題起点でAI・機械学習プロダクト開発を行う事業を行うスタートアップである。経営コンサルやAIベンチャー、SIerなどが混在し分断されていた「DX」「データ活用プロジェクト」の工程の全てを、一気通貫で担うことができることが強みだ(図1)。変革を目指す大手企業のデータビジネスパートナーとしての共創のほか、「脱炭素」「スマートシティ」など世界標準の課題を解決する自社プロダクトを展開する。

図1 フルスタック支援体制

創業の背景にあるのは「データサイエンスで世界を変えられる」という思いだ。会社員時代に教育や人材、メディアと様々な業界でB to Cのデータビジネス、新規事業を立ち上げた。DXコンサルタントとして独立した後には、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)からオファーを受け、招聘(しょうへい)職員として新規事業を支援。土地の価値の評価や森林管理、農業などの領域で衛星データ活用事業を立ち上げる中で多様な「データを組み合わせる」ことで新しい価値が生み出せると感じた。

2019年1月にDATAFLUCTを創業し、同年にはJAXAの知的財産やJAXAの業務で得た知見を利用した事業を行い、JAXA内の一定の審査を通過し認定されたベンチャー企業であるJAXAベンチャーに認定。以降は衛星データ活用事業へのアドバイスや、イベント登壇などの支援を受けつつ事業を拡大してきた。

■持続可能な意思決定をするためのデータ活用を、全ての企業に届ける

DATAFLUCTは「持続可能な未来を、アルゴリズムの共有で実現する」ことをビジョンに掲げている。アルゴリズムとは、計算可能な問題に対して、その最適解にたどり着くための方法論だ。ビジネスにおいては、経営思想、経営戦略、オペレーション、顧客体験そのものに影響を与えていく根底的な考え方(意思決定ロジック)ともいえる。モノを作り、流通させ、販売する過程で発生するロスも、組織の成長を妨げている非効率な働き方も、データを活用すればなくすことができる。持続可能なアルゴリズムが浸透することで、企業活動も、顧客体験も、社会活動も全て良くなっていくはずだ。

「持続可能な」とは、100年後も事業が成り立つことを指しており、そのためには企業が「変革し続けられる存在」でなければならない。変革し続けられるビジネスモデルこそ、データ中心の経営資源戦略「データビジネス」だが、多くの日本企業はそこにたどり着けていない。データビジネスのパートナーとして企業の変革を支援し、さらに環境、社会、人にとっても最適な答えを見つけることが当社の事業の目的だ。

■マルチモーダルなデータ活用を可能にするプロダクト

DATAFLUCTが提供するのは、複数のデータを組み合わせて価値を生み出すプロダクトだ。当社では「マルチモーダルデータプラットフォーム」と呼んでいる。マルチモーダルとは、画像や音声、テキストなど様々な種類の情報を指し、これらをAI・機械学習に取り込むことで、膨大なデータを活用して価値を生み出すことができる。世の中にあるデータの80%は非構造化データであり、「非構造化データを構造化データにする」ことがビッグデータを扱う最初のステップとなるが、この前処理の難しさから多くの企業では非構造化データを活用できていない。

衛星データ活用からスタートした当社には、衛星画像や位置情報などを組み合わせて分析する高度なデータサイエンスの技術があった。形式が違うデータを複数組み合わせてアルゴリズムを作るニーズの高まりを受けて開発したのが、社内外の多種多様なデータを収集し、非構造化データを構造化して格納できるデータプラットフォーム「AirLake(エアーレイク)」だ。非構造化データの収集、分析、アノテーション付与、加工、蓄積などが自動でできるようになっており、多岐にわたる社内システム、データ分析ツールと連携してデータ活用まで一気通貫で提供できる。

データ基盤を自社で構築するには、広範に及ぶ機能を複雑に組み合わせ、エラーやトラブルがないよう調整を重ねる必要がある。実際には多大な予算を投じてSIerに委託するケースが多い。PaaS提供の「AirLake」ならば、一からデータ基盤を構築する必要がなく、初期費用をかけずに本来の目的であるデータ活用にすぐさま取り組むことができる。

ほかにも、社会課題とビジネス課題を解決するためのプロダクトを開発している。「Perswell(パースウェル)」は、当社のデータサイエンティストがモデル構築を行い、需要予測の自動化と精度向上をトータルでサポートする。食品卸の国分グループ本社株式会社(東京都中央区)では「AirLake」と「Perswell」を導入いただいており、社内データと外部データを組み合わせ、毎日再学習する高精度な需要予測を実現した。アイスクリームなど気候に大きく左右される温度帯商品の自動発注にもつながり、在庫最適化と業務効率化を現在進めている。同時に、それは食品ロスの削減にもつながる。

エリアに関するビッグデータを分析し、データに基づく持続可能なまちづくりを可能にするプラットフォーム「TOWNEAR(タウニア)」は、ゼネコンや不動産、交通事業者、地方自治体などに提供している。衛星データ解析で都市の課題を可視化し、地図情報のみでは検索が難しかったコンテナやガスタンク、車、船などの対象物を、誰でも手軽に衛星画像から検索できる。人流データやGPSデータ、購買データなど複数のレイヤーのデータを組み合わせて、エリアの回遊率や商圏分析を行う機能も備えている(図2)。

図2 TOWNEARサービス画面

気候変動対策をテーマに、個人のCO2排出量削減やリサイクル貢献などの「環境価値」に着目した「becoz(ビコーズ)」は、金融、化学メーカー、スポーツチームなど様々な業界からニーズがある。公開済みの事例としては、株式会社クレディセゾンと提携発行する「SAISON CARD Digital for becoz」および、その決済データから自分の購買によるCO2排出量を可視化できる「becoz wallet」がある。個人のCO2排出量のデータ化は、ユーザーが自身のライフスタイルを見直すきっかけとなるだけではなく、カーボンニュートラルを目指す企業にとっても活用の可能性がある。今後は、クレジットカードだけではなく家や車のデータも活用する予定だ。環境価値をコインやポイント化して、サステナブルな製品の購買に使えるようにするなど、価値を流通させる仕組みの準備も進めている。

■国内のデータビジネスの課題

機械学習を用いたプロジェクトは、日本企業にとって難易度が高い。理由は、データサイエンスに関するリテラシーの低さと組織的要因だ。例えば、DATAFLUCTは企業が持つデータと外部データを組み合わせて新たな価値を生み出し、事業をトランスフォーメーションするための支援を行っているが、クライアントによっては「データ活用のビジョンを示す」ところからスタートする必要がある。ビジョンを描けないことが、日本企業が新たなデータビジネスを生み出せず、データビジネスの市場が広がらない原因の一つであり、当社が事業を進める際のハードルでもある。

そして「縦割り」の組織では、部署ごとに違うシステムを採用したり、部署間の連携が取れなかったり、何階層もある意思決定プロセスを経なければプロジェクトを進められないといった課題もある。これまで多数の企業のデータビジネスを支援する中で見えてきた成功の鍵は、「統合」だ。データ基盤の統合だけではなく、人事も事業もサービスも組織構造も統合しなければならない。日本企業には、ここでリーダーシップをとれる人材が不足している。

こうした課題を突破するために、DATAFLUCTは事業開発に強いメンバーを採用してきた。AIベンチャーは、画像解析に特化した人材、データエンジニアリングに特化した人材など「特定領域の専門家集団」であることが多い。当社はデータサイエンティストと事業開発に強いメンバーがタッグを組み、データ活用のビジョンをクライアントとともに描くところが特徴だ。事業構想からシステム実装まで、スタートアップらしいスピード感でプロジェクトをリードする点は、クライアントから「頼もしい」と信頼を寄せていただいている。

■今後の展望

2022年4月のシリーズBラウンドの資金調達では、事業会社を中心とする投資家グループから出資を受けた。各社と資本業務提携や共創に向けての検討を進め、10月24日には「AirLake」と東芝デジタルソリューションズの「AI OCR文字認識サービス」「RECAIUSナレッジプラットフォーム」のシステム連携を発表した。従来活用が難しかった手書き自由記述を含め、書類のデータ読み取りから整理、共有、活用までをワンストップで行うことができ、設備トラブル発生時の対応時間の短縮や早期解決などに活用できる。

今後もこうしたコラボレーションに積極的に取り組んでいく予定だ。様々な技術やデータ、資産を持つ企業や団体、研究機関と協力し、誰もがデータを有効活用し持続可能な意思決定をすることができる世界の実現を目指していきたい。