特集立ち向かう国研ベンチャー

今、国研発ベンチャーがおもしろい

一般社団法人 TXアントレプレナーパートナーズ 副代表理事 尾﨑 典明

写真:一般社団法人 TXアントレプレナーパートナーズ 副代表理事 尾﨑 典明

2023年1月15日

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2022年6月に岸田内閣により閣議決定された「新しい資本主義」の実行計画および骨太の方針であるが、その柱の一つとして科学技術への投資やイノベーションの推進がある。中でも大学や「国研等アカデミア」への期待は高く、かつては、末は博士か大臣かと言われてアカデミアとして研究を続けてきた研究者たちも何らかの形で自分たちの研究テーマを事業化することが強く求められてきている。研究テーマの事業化にあたってはこれまで同様、企業との共同研究を行って企業で事業化をするものや、特許などの知財を企業へライセンスして事業化を図るものなど様々なアプローチがあるが、これまで以上に注目が集まっている手法として、研究者であってもそのチームでスタートアップとして、圧倒的なスピードでもってJカーブを描くような成長を目指す在り方がある。先に述べた政策や、あるいはそれ以前から取り組まれてきた国の後押しにより、まだまだ他国と比べて低い数値にとどまってはいるものの、社会全体での起業率は伸びる傾向にあるのは確かである。

そんな背景の中、私が副代表理事を務める一般社団法人TXアントレプレナーパートナーズ(以下、TEP。千葉県柏市)にも大学や国研等アカデミアからお声掛けをいただくことが増えてきている。先に説明しておくと、TEPは、2009年に任意団体として設立され、当時はまだリーマンショックの影が色濃く残る先行きの見通せない経済状況の中、それでも何とかスタートアップを守り育てていくため、スタートアップエコシステムを形成していくために、会員であるエンジェル投資家らによるスタートアップへのリスクマネーの投入、および士業やコンサルタントなどを中心としたサポート会員らによるハンズオン支援を行っている。特に技術系さらに言うとディープテック系といわれるカテゴリーに分類されることの多い大学や国研等アカデミアのシーズをもとにしたスタートアップに関しては、IT系やビジネスモデル系のスタートアップと比べ上市までにかかる時間や資金を要する。そのためベンチャーキャピタルなどの外部資金が集まりにくい課題があり、設立当初よりは環境の改善は見られるものの、現在でもわれわれはその苦しい部分をいかに支えるかという観点で活動を続けている。

TEPが構築するスタートアップ支援のエコシステム
一般社団法人TXアントレプレナーパートナーズ(TEP)では、スタートアップを中心に、大学や研究機関、地域行政、エンジェル、メンター、大手企業、ベンチャーキャピタル等を結び、スタートアップの事業成長の好循環を生み出す仕組みを構築している。

近年、TEPに寄せられる引き合いの中でも多くなってきているのは、大学および国研等アカデミアシーズの個別の事業化支援はもちろんのこと、それらを継続した取り組みとすべくシーズを発掘、育成していくための組織の在り方や仕組み、ルールメイクに関するアドバイスなど多岐にわたっている。

本稿では一足先に始まった大学での取り組みや大学発スタートアップではなく、2021年の科学技術・イノベーション活性化に関する法律の改正により加速する国研発のシーズやスタートアップについてTEPが直接的に支援させていただいたもの以外についても概略をつかめるよう触れていきたい。

まずは他の国研と比べても、いち早くベンチャー創出への取り組みをスタートしていた国立研究開発法人産業技術総合研究所(AIST)では、これまでに153社の産総研技術移転ベンチャーがあり、技術移転やスモールビジネスの形態をとっている企業もあるがスタートアップとして活動している企業も多く存在する。宝飾品だけにとどまらず半導体材料などへの展開が期待される合成ダイヤモンドを手掛け、2022年6月に東京証券取引所(東証)グロース市場への上場を果たした株式会社EDPをはじめ、マイクロ流路、量子ドット技術によるナノ蛍光体を開発提供するNSマテリアルズ株式会社などはTEPとしても古くから支援を行った企業でもあり、ディープラーニング、AIに支えられた音声認識技術をコールセンターなどへ幅広く展開するHmcomm株式会社もそれらに続く活躍を見せ確実にトラクションを積んでいる。最近ではヘルスケア、バイオ分野においても、ときわバイオ株式会社、Veneno Technologies株式会社は、ワールドワイドに独自のパイプラインを進めるべく外部からの資金調達を行い、研究・事業開発を行っている。

次に国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)からも続々と技術に立脚したスタートアップが生まれている。2021年4月に東証グロース市場に上場したオキサイド株式会社は、単結晶やそれを基にした光学機器、レーザーの研究開発を行っており、ロシアとウクライナの問題や急速な為替変動の外部環境悪化に伴う投資環境の中、上場来の株価を維持しつつも成長を続けている。上場もさらなる成長のための手段の一つであり、決して事業のゴールではないことはもちろんではあるが、2021年に上場した企業の多くが望むような株価を付けられず維持できない状況において、オキサイドや先に述べたEDPは、底堅く株価を伸ばし成長を続けることができていることからも、確かな技術に裏打ちされた事業の強さがうかがえる。筆者自身、技術があれば事業が強いのか? と言われるとそこまでの技術信奉者ではなく、効いて2割程度と捉えている。そのくらい事業を進めていく上では不確実なことも多く、技術以外の要素の方が時として事業の成立性に寄与することが多いと感じる。ただし、技術以外の要素で差別化が難しい場合は、やはり技術が事業の競争力になることは確かであろう。NIMS発のスタートアップもここ数年で数を伸ばしており、グラフェンやCNT(カーボンナノチューブ)などを応用したスーパーキャパシタを手掛ける株式会社マテリアルイノベーションつくばや、法改正からNIMSの直接出資が可能となり、第1号案件として選ばれた断熱材料を開発する株式会社Thermalytica、また複雑なニオイを膜型表面応力センサで測る技術を有する株式会社Qceptionなどが後に続く。

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)も世界的な宇宙開発トレンドの影響や、内閣府が主催する宇宙ビジネスのコンペティションS-Boosterなどをきっかけとして、また技術成果をより世に出していくべくJAXA内の制度をより柔軟なものに変更したことによりJAXAの研究開発成果(知財やノウハウ)を活用したものや、JAXA職員が参画するスタートアップが生まれやすい環境になってきている。筆者もメンターとして件のS-Boosterで支援を行った株式会社天地人は、衛星からのリモートセンシングデータと解析・分析技術により土地の評価や気象もさることながら、気候変動に関わる各種データを活用する事業を展開しており、国内米卸大手の株式会社神明や農業ITベンチャーの株式会社笑農和とともに「宇宙ビッグデータ米」などを栽培、提供するなどユニークなアプローチを続けている。株式会社ツインカプセラは、JAXAが国際宇宙ステーションからの物資回収手段の確立のために開発したHTV搭載小型回収カプセル技術を基に、昨今注目されているリキッドバイオプシー向けや再生医療向けに血液や細胞など、輸送に適用可能な断熱保冷保温容器やその他熱全般に係る困りごとを解決するためのコンサルティングを行っている。このほかにも宇宙航空分野で培われてきた技術を他分野へ横展開するような取り組みがなされている。

紹介した3機関以外にも国立研究開発法人理化学研究所発で、血液中の1分子酵素活性を検出し、マーカーなどによる疾患早期診断支援を行うコウソミル株式会社や国立研究開発法人日本原子力研究開発機構発のリチウムやレアメタルの回収を高効率、低コストで行う株式会社エマルションフローテクノロジーズなどは、ベンチャーキャピタルなどからも出資を受け事業を推進させている。このほかにも国研発ベンチャーとはなってはいないものの、出自が国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の研究員であった西ヶ谷有輝氏が代表を務める株式会社アグロデザイン・スタジオでは、寡占化が進む農薬産業に対し、AIやIT技術も活用しながら創薬的な農薬開発アプローチを行っている。

このように国立研究開発法人は、国の後押しやあるいはプレッシャーをこれまで以上に受けつつ、研究開発成果を世に送り出す手段として、企業への技術移転や共同研究ではない在り方、スタートアップというアプローチを推進していく方向へと舵を切っており、この流れは今後も勢いを増しながら加速度的に進んでいくことは間違いない。とはいえ、このようなディープテック領域のスタートアップは、先述のとおりとにもかくにも時間がかかり、資金も人も必要である。国やベンチャーキャピタルなど、資金の出し手たち、支援団体にはそういった背景を理解し、寄り添いながら協働していく忍耐が求められる。

TEPとしても、また筆者個人としてもこれまで以上にアグレッシブかつ適正に国立研究開発法人や大学を筆頭としたディープテック領域のスタートアップを支援し、またそれらが次々と生まれるようなエコシステム構築に向け、ディープテック領域のスタートアップの創出、成長にコミットしていきたいと考えている。