巻頭言

ぬくぬくと島国に生き続ける覚悟

大学共同利用機関法人自然科学研究機構 機構長 川合 眞紀

写真:大学共同利用機関法人自然科学研究機構 機構長 川合 眞紀

2023年1月15日

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2019年が終わるころに突然始まったCOVID-19パンデミック、2022年2月に突然始まったロシアによるウクライナ侵略(こちらは2014年と言うべきかもしれないが)、2011年の東日本大震災、洪水や土砂崩れなどの記録的な自然災害、今世紀に入ってまるで世紀末のような災害(災難)が多発しているように思われる。前世紀(20世紀)はどうだったのだろうか。スペイン風邪は1918年から1920年、第一次世界大戦は1914年から1918年、第二次世界大戦は1936年から1945年、関東大震災が1923年、伊勢湾台風は1959年など、人間はいつの世にも災害(災難)と対峙してきた。繰り返される自然災害に対して人間は、科学と技術の力を利用することで正確な気象予報や津波の進行予測などを可能とし、いざ災害があった場合の対処法も現実的になってきている。何を備えるべきかが分かれば「備えあれば憂いなし」のはずだが、備えを実行するには覚悟と資金が必要である。東日本大震災から10年が経ち、国や地方自治体が覚悟を持って対峙した結果、復興は進んだ。いざ災害に向けての備えも進んでいて、南海トラフ地震の危険が叫ばれる高知市では一定間隔で避難タワーを整備して津波に備えている。

産業革命以来の長年の温室ガス(GHG: Green House Gas)の排出の蓄積により地球温暖化が進み、今後さらなる自然災害が起こるとされている。国連が定める2030年に向けての持続可能な発展の目標(SDGs: Sustainable Development Goals)を達成するための万全の策はまだ完全には整ってはいないが、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO:New Energy and Industrial Technology Development Organization)の示すところでは、わが国のGHG排出削減目標の46%は既存の技術を利用することで達成できるそうである(第6次エネルギー基本計画)。これを実行するにも、覚悟と資金が必要である。民間企業が自らの意思で排出削減目標達成に向かうためには、「地球を救う」という公共的な目的だけでは弱いように思える。昨今の投資家のマインドは民間企業の意思決定を後押しする効果があると聞く。GHG排出削減に積極的に取り組まないと、資金調達に問題が出るとなれば目先の利益にも響く。

わが国の国際性が問われる一つのSDGs目標が人材登用におけるダイバーシティーである。女性活用の数値が極端に低いのが日本の特徴である。一定期間職場を離れると、その後の再就職により得られる給与は相対的に低く、男女の賃金格差を広げている。有能な人材を確保し続けるには、男女を問わず生涯におけるワークライフバランスを担保する社会になる必要がある。男性の育休取得率が問われるようになった。いい傾向である。日本は安全で住みやすい国であると言われている一方で、幸せ度調査は国際的には低い。男女を問わず、生活と仕事のバランスを取ることができるようになると、この国の幸せ度が少し向上するような気がする。官民問わず、雇用の在り方に対しても覚悟を持って臨むことで、世界中から有能な人材を惹(ひ)き付けていければ、国際的なダイバーシティーも実現できるかもしれない。