Biz & Company

産学共同講座で固体型電池の工業化を
住友化学

2022年11月15日

  • Twitterを開く
  • Facebookを開く
  • LINEを開く
  • 印刷ボタン

リチウムイオン電池は私たちの身近で使われ、生活を便利にしてきた。製品化されておよそ30年、液漏れや発火を防ぐ次世代二次電池として注目されているのが固体型電池だ。固体型電池といっても一般にはほとんど理解されていないように感じるが、その研究開発と実用化は、何合目まで来ているのだろうか。

■産学共同講座で研究

住友化学株式会社と京都大学は、固体型電池の材料と要素技術の開発を「固体型電池システムデザイン」の産学共同講座で進めている。講座の開設期間は2020年4月~2023年3月の3年間で、京都大学桂キャンパス内にラボスケールの製造設備や電池性能評価装置などを設置。住友化学の研究者らと同大学院工学研究科の安部武志教授らの研究グループが共同で研究を行っている。

現在主流のリチウムイオン二次電池は、1990年代初めに実用化され、ノートパソコンやスマートフォン、自動車や電動アシスト自転車など私たちの身近で使用されている。近ごろでは、カーボンニュートラルへの意識の高まりも相まって、自動車や電動キックボードといった移動手段への利用も増え始めた。

夏場に長時間スマートフォンを使用していると高温になり、冬場の気温が低い状態では、一気に放電し電源が切れてしまうこともある。高温状態が続くと劣化が進み、低温状態ではリチウムイオンが動きにくくなり充放電反応が遅くなる。身近な場面で使われている電池だけに、誰もが経験したことがあるのではないだろうか。さらに問題なのが液体のリチウムイオン電池の電解質は、液漏れや発火の危険性が知られている。

固体型電池は、従来型のリチウムイオン二次電池に用いられている電解質を液体の電解液から固体に置き換えたものだ。固体にすることで発火の危険性が減り、電池の作動温度範囲も広くなるなどのメリットがある。

可燃性の電解液を使わないことは、現在主流のリチウムイオン二次電池と比べて安全性を確保し、電池の容量を増大させるだけでなく、急速充電が可能になり車載用では航続距離も伸ばし、電池の寿命も長くできると見込まれている。これらのことから次世代バッテリーとしての最有力候補が固体型電池なのだ。

■国を挙げて

そんな実用性から注目度の高い固体型電池は、世界で開発競争が激化している。現に米国、中国、EU、韓国などが多くの資金と研究者を投入し研究にしのぎを削っている。

国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)では「ALCA-SPRING 次世代蓄電池」で、硫化物型全固体電池と酸化物型全固体電池の二つのサブチームに分けて研究を進めてきた。2022年6月、国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)は、JX金属株式会社、JFEスチール株式会社、住友化学株式会社、太陽誘電株式会社、株式会社デンソー、トヨタ自動車株式会社、日本特殊陶業株式会社、三井金属鉱業株式会社、三菱ケミカル株式会社、株式会社村田製作所と、酸化物材料を電解質とした酸化物型全固体電池の開発競争にオールジャパン体制で取り組むための国家プロジェクトとして、「全固体電池マテリアルズ・オープンプラットフォーム」を設置し始動させており住友化学も名を連ねている。ビジネスの上では競合する企業が集まり、同じ目的の下に協力し合う。このような研究分野は一企業だけで戦うことは困難であることから、素材メーカーとしての住友化学は、大学と共同講座の開設も含め、有望な電解質素材を開発し工業化を狙う。

■確かな素材を

電池は、一般的な小型電池はもとよりパソコンやスマートフォンなどの情報機器、ウェアラブル端末、輸液ポンプ、人工呼吸器、吸引器、酸素濃縮器などの医療機器、航続距離や充電時間の観点から高エネルギー密度と高出力特性が求められる電気自動車(EV)用の次世代電池など、幅広い機器で使用されているが、これらはそれぞれの電解質の特徴によって大きく分けて2種類で研究が進んでいる。その電解質としていま有力視されているのが、硫化物系と酸化物系の素材といわれている。

硫化物系素材は、製造方法も容易で、高出力が特徴なことからEVなど車載用への応用が期待できる。しかし、空気中に漏れ出すと水分と反応して有毒物質の硫化水素を発生させることから、製品化する場合は、厳重な封止加工が必要となる。となれば小型化や製造コストがかさむデメリットがある。

一方、酸化物系素材は、硫化物系とは逆に硫化水素は発生しないことから、安全性は確保できるが、高い電池性能を得ることが難しい。したがって現状では、一つの素材で全てを満たすことは難しいようだ。

いずれにせよ、製造方法が容易で製造コストが抑えられ、たっぷり充電でき、充電時間が短く、高出力で持続時間が長く、安全かつ可能な限り廃棄せずにリサイクルできるなど環境にも配慮するとなると気の遠くなるような研究開発であることは間違いない。

幅広い応用への期待は高まるが、リチウムイオン二次電池から固体型電池に全てが置き換わるとは考えにくく、特性に応じた用途から徐々にお目見えすることになりそうだ。

現状は小型の固体型電池は若干製品化されているようだが、実用化のため自動車や電機メーカーが生産体制を構築中で、最適な素材探索と研究開発が並走中と聞く。少し手を伸ばせば届きそうなところにまで来ているので、2030年ごろまでには、固体型電池も一般化しているかもしれない。

(本誌編集長/大妻女子大学 地域連携・地域貢献プロジェクト専門委員 山口 泰博)