リポート

大学運営とSDGs

北海道大学 理事・副学長(国際、SDGs担当) 横田 篤

写真:北海道大学 理事・副学長(国際、SDGs担当) 横田 篤

2022年11月15日

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■はじめに

持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)は、2015年9月の国連総会で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に示された、2030年を期限とする17の世界共通の目標である。これは世界の叡智(えいち)が熟考を重ねた、持続可能で多様性と包摂性のある社会実現のために解決すべき課題であり、「誰一人取り残さない」「平和・人権・ウェルビーイング(well-being)」「経済・社会・環境の調和」などを基本理念としている。現在、北海道大学ではSDGsの枠組みを大学運営に取り入れて活用している。そこで、その経緯や背景、大学運営への活用の実際や意義についてお伝えする。

■北海道大学のSDGs戦略

北海道大学は現在、創基150年を迎える2026年に向けて、中長期戦略「近未来戦略150」に基づき、「世界の課題解決に貢献する北海道大学へ」を目指して歩みを進めている。この戦略は2014年に策定されたため、文言にSDGsを含まない。

こうした中で、2020年10月に発足した寳金清博総長を中心とする現執行部は、従来的な大学改革の観点に加えて、持続可能性(以後、サステイナビリティも併用)や大学の社会的インパクトに直結するSDGsを重視する方針を打ち出し、SDGs達成への貢献を本学の第4期中期目標期間(2022〜27年度)の運営構想の中核に据えた。これは、SDGsは本学が取り組む「世界の課題」と同義であると執行部が認識したことに加え、2020年4月に、イギリスの高等教育専門誌Times Higher Education(THE)が開発したSDGsの枠組みで大学の社会貢献度(=社会的インパクト)を測る「THE大学インパクトランキング2020」で、本学が国内1位、世界のトップ10%の評価を受けたことが大きな契機となっている。さらに本学国際部が2021年12月に取りまとめた「2040年に向けた北海道大学の国際戦略」でも、「サステイナビリティの追及」を戦略目標の一つに据えている。このように現在、SDGs達成への貢献やサステイナビリティの追及が、本学運営の要となっている。

■大学評価と社会的インパクト

話は少しそれるが、社会的インパクトを大学の評価に最初に取り入れたのは英国である。2014年からREF(Research Excellence Framework)が、大学への交付金の傾斜配分の評価方法として導入された。ここでは研究成果(65%)に加えて、インパクト(研究の波及効果)(20%)が加味されている。インパクトは、社会・経済・文化的な便益、環境・健康・生活の質的な便益を含み、純粋に学術分野のインパクトは含まないものと定義されている**1

REFは大学と社会との関わりに重点が置かれているが、THEのインパクトランキングはSDGsの枠組みを使うので、より持続可能性を重視した大学評価となっている。また、わが国でも、社会的インパクトが第4期国立大学法人運営費交付金の評価に取り込まれる予定になっている。

■SDGs推進組織の設置

このような大学の方針を実行する組織整備として、本学では2021年8月にSDGsに関連する活動を一元管理して推進するSDGs事業推進本部を新設した。執行部がスタートしてわずか10カ月後のことであった。

学内の位置付けとしては、施設整備やキャンパス管理を担当する既存のサステイナブルキャンパスマネジメント本部に併置する形とし、全体を総長直轄のサステイナビリティ推進機構として束ね、二つの本部を両輪とするSDGs事業推進体制を整えた。SDGs事業推進本部は教職員学生や学外の多様なステークホルダーとのエンゲージメントを重視しており、ワンストップ窓口の機能も担う。

■SDGsは本学開学以来のDNA

本学がこのような方向に舵を切った背景には、それなりの理由がある。元々本学は、北海道開発のための寒冷地における農業技術の開発と人材育成を趣旨として、1876年に札幌農学校として設置された。学士号を授与できるわが国最初の高等教育機関であり、初代教頭として、当時マサチューセッツ農科大学学長であったウィリアム S. クラーク博士が招かれた。彼は“lofty ambition”(高邁なる大志)に代表されるクラーク精神や、専門教育に偏らない人格教育を含むカリキュラムを導入し、本学の礎を据えた。また、「北大育ての親」と称される一期生の佐藤昌介博士は、1930年まで40年間にわたり校長や総長を務め、米国州立大学の経営手法に倣った運営により、教育・研究上の必要性から広大な農地や山林を農場や演習林として取得し、本学を総合帝国大学に発展させた。

米国の土地付与大学(land-grant university)に類するこのような発展の歴史は、他の旧帝国大学には見当たらない本学特有のものである。現在、本学が広大で緑豊かな札幌キャンパス(農場や隣接する植物園を含め190ha)や、世界最大級の規模を誇る研究林(約7万ha、国土面積の0.2%)を保有するのはこのためである。

本学はこうした発展の経緯や北海道の自然環境を基盤として、とりわけ農学、林学、水産学、環境科学などのフィールドサイエンスに強みを持つに至り、食料生産、生物多様性、環境保全、気候変動といった、サステイナビリティやSDGsの中核を成す分野で世界を牽引(けんいん)する優れた教育・研究を活発に行ってきた。そのため本学は、独自性と優位性を持ってSDGsの達成に貢献し得る素地を持つ大学であり、サステイナビリティやSDGsの追求は開学以来の本学のDNAと言える。

しかしながら、サステイナビリティやSDGsを大学全体として重視することへの合意形成や体制の整備は現執行部が発足してからであり、これまでの多くの試行錯誤を土台としてようやく実現した。最大の原因は、こうした本学の特徴ある発展の歴史が教職員に全く知られていないことである。かくいう筆者も、過去に農学研究院長として本学の歴史をひも解く機会があり、その時に初めて知った。そのため、今後、本学発展の歴史とSDGsの関係を学ぶFD(Faculty Development)・SD(Staff Development)に力を入れることにしている。一方で、こうした広大な札幌キャンパスや研究林は、元々アイヌ民族の方々が日々の暮らしに利用していた場所であり、本学はそうした歴史を背景に持つ環境の中で教育研究を行っているという共通認識を育む場としても、このFD・SDを活用していく予定である。こうした状況で、「THE大学インパクトランキング2020」で高い評価を受けたことがきっかけとなり、多くの教職員が漠然と抱いていた「北大らしさ」が、サステイナビリティやSDGsの分野における本学の優位性という形で可視化されたことは幸いであった。そのため、総長の打ち出したSDGs重視のトップダウン的な経営方針は、学内教職員に抵抗なく受け入れられたのだと考えている。

■THEのインパクトランキングが急上昇(図1図2

THEは2022年4月末に、本学がTHEインパクトランキング2022で、世界の大学1,406校中、総合ランキングで世界10位(top1%以内)になったと発表した。本学はこのランキングが開発された2019年の第1回(パイロット版)から毎年参加しており、今回は4回目になる。本学は2回目以降、今回まで連続して国内1位(第3回は同率1位)の評価を得ており、世界でもtop10%の位置にあった。回を追うごとに参加大学が増える中、今回世界順位がtop1%以内に急上昇したことは快挙と言える。SDG別ランキングでは、本学はSDGsの17の目標のうち七つで世界100位以内にランクインした。中でもSDG2(飢餓をゼロに)で世界1位、SDG14(海の豊かさを守ろう)、SDG15(陸の豊かさも守ろう)、SDG17(パートナーシップで目標を達成しよう)は世界20位以内と評価され、フィールドサイエンスに強みを持つ本学の特徴が反映されている。このランキングはSDGsの枠組みで本学の強み、弱みを可視化し、大学運営のPDCAサイクルを回すことができる点で非常に有益である。

図1 総合ランキング:参加1406 大学中10位(国内1位)
図2 SDG別ランキング[SDG2(飢餓をゼロに)]:参加553 大学中1位

■学内外のエンゲージメントの強化

本学でのSDGsの推進は、教員の活動を縛るものではなく、むしろ各自の活動が全てSDGsに結び付くという気づきを通じて、全教職員が各自の取り組む課題の意義を再認識し、モチベーションを高め、より価値ある成果を得ることを目指している。THEのインパクトランキングへの参加は、エビデンスの提供を通じて自らがSDGsに関わっているという当事者意識や組織への帰属意識を生む。そうした環境が「学内エンゲージメント」すなわち一体感を醸成し、組織の総合力が強化される。一方、「学外エンゲージメント」は共感につながる。現在、国は大学に対し、多様なステークホルダーとのエンゲージメントをこれまで以上に強めて社会における責任を果たすように求めている。本学も、地方自治体、国、民間企業、国内外の大学、国際機関などの多様な学外ステークホルダーと連携しながら、SDGsに関わる活動を推進している。SDG17(パートナーシップで目標を達成しよう)のランキングや総合ランキングなど、THEのインパクトランキングは、学外エンゲージメントのパフォーマンスを可視化する指標としても活用できる。そうして見ると、本学の学外エンゲージメントは高い水準にあると言える。SDGsの枠組みを大学運営に取り入れて活用することの最大の意義は、こうした学内外のエンゲージメントの強化を通じて、SDGsの枠組みを土台とする堅固で透明な倫理面での内部統制(ガバナンス)の浸透が期待できることであろう。

■今後の展望

以上、本学はSDGsの枠組みやTHEのインパクトランキングを大学マネジメントに活用し、世界の課題解決に貢献する本学の力を一層強化しようとしている。国際社会の中では、サステイナビリティやSDGsに関する取り組みは、日本で見られるよりも高く評価されている現実がある。痩せ細る運営費交付金や課題対応型で継続性のない国の補助金などに振り回されてきた日本の大学は、見通せない世界情勢の中で、今後ますます国際競争力を失うであろう。そのような状況で、SDGsやESG(環境・社会・ガバナンス)に取り組む団体に対する民間からの資金、いわゆるESG投資が、今後日本の大学の生き残りにも決定的に重要な要因の一つになるだろう。その受け手として、国際社会にふさわしい大学と判断されるための準備を怠らないことが、これからの大学経営に求められている。

参考文献

**1:
小林 直人ほか、英国の新たな大学研究評価REFにおけるインパクトの分析、研究・イノベーション学会年次学術大会講演要旨集30巻(2015)
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