特集デジタル

日本の農業におけるスマート化・自動化
―現状と課題―

東京大学大学院 情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 教授 深尾 隆則

写真:東京大学大学院 情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 教授 深尾 隆則

2022年11月15日

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日本の農業は、人手不足、高齢化、耕作放棄地の増加など、疲弊が激しい。いま大きく変わらなければ、先がない状況であり、スマート農業に期待が寄せられている。本稿では、著者らが開発を進める農作業の自動化・ロボット化技術を中心に、現状と課題について述べる。

■日本の農業における課題とスマート農業

日本の農業においては、農業従事者の減少や高齢化などによる労働力不足が進んでおり、65才以上の高齢者の割合は約70%となり、その割合は増え続けている。労働力不足は日本の構造的な問題で、他産業でも問題となっているため、さらに加速することが危惧されている。また外国人技能実習生の確保も今後厳しくなることが予想されている。このような状況を改善するものとして、ICT(Information and Communication Technology)やRT(Robot Technology)を用いたスマート農業が近年注目され、期待が寄せられている。

日本の農産物は高品質をうたっているが、一般的に労働生産性を犠牲にして実現されており、長時間労働を生む原因ともなっている。また労働ピークが、収穫時期等の短期間に集中しており、地域にもよるが、周年雇用ではなく、一時雇用に頼らざるを得ず、現在では年々確保が難しくなっている。このような状況の改善は非常に難しいが、持続的に可能なものとして、農作業の自動化・ロボット化による省力化が特にスマート農業の中でも期待されている。本稿では、日本の農業において、喫緊の課題として認識されている収穫・運搬作業の自動化・ロボット化に関して、われわれの取り組んでいるプロジェクトを中心に、その可能性と課題について述べたい。

■農業のスマート化・自動化

農研機構生研支援センター*1「革新的技術開発・緊急展開事業(うち人工知能未来農業創造プロジェクト)」(2017~2020年度)などにより、AI(人工知能)等を活用した野菜や果実の自動収穫・自動運搬に関する研究開発を、自治体、JA、農業者や、出口となる企業等と取り組み、現在は実用化を目指して、それらの性能向上・改良を行っている。

野菜(キャベツ・タマネギ)の自動収穫に関しては、基となる収穫機があり、人の操縦等の自動化を行った(図1)。具体的には、収穫機に取り付けた距離計測可能なカメラにより野菜を自動認識し、自動収穫している**1。天候や品種の影響も受けるため、それらに対応するロバスト技術が重要である。また収穫機と自動ドッキングし、コンテナを自動運搬するシステムや、コンテナをトラック等へ移し替える自動フォークリフトなども開発した。なお、この収穫機は農作物を選択的には収穫できず、一斉に収穫できるものではなければならない。これは選択収穫ができる機械は高価になりがちな上、収穫にも時間がかかるためである。また機械化やロボット化に適した品種があり、機械で収穫しやすいように育種も重要であり、さらに栽培も機械やロボットで収穫しやすいように栽培することが重要である。

図1 キャベツ自動収穫ロボット

果実(リンゴ・ナシ)の自動収穫に関しては、ロボットアームとハンドを有し、自律移動可能な自動収穫ロボットを新規に開発した(図2)。具体的には、野菜と同様に距離計測可能なカメラにより果実を自動認識し、自動収穫・自動収納している**2。ナシの場合は収穫適期に選択収穫するため、収穫適期判断手法も開発した。この際、ロボットが代替する作業により削減される雇用費程度で購入できる価格が求められるため、ロボットの作業効率を上げることが可能な樹形や摘果などによる事前の栽培作業が重要である。これは現在のロボット技術では、従来の人の作業をそのまま代替することは困難であるからである。

図2 果実自動収穫ロボット

これらのロボットを低価格で提供できれば良いが、現状ではどうしても高価なものになってしまう。そこで、大規模農家でなければ、ロボットを利用する時間が限られるため、周辺農家や地域を超えた農家とシェアする仕組みなども重要になってくる。あるいは非常に小さな圃場(ほじょう)で利用するのは難しく、圃場を大きくしていくことを考えなければならない。このように一つの技術開発で済む話ではなく、野菜も果実も、JAを含む農業者や農業の研究者、ロボットの研究者、企業の技術者が共に現場で開発しながら、社会実装するために最終的に落としどころを見つけていくという共同開発が必要である。また農業環境は多様であり、開発・導入・普及などの体制作りは非常に重要である。なお、このような連携や関係者間の議論から、すぐには実現できないが、実現できると広く使える技術などが明らかとなり、また多くの気づきが得られることから、大学の研究者に今後の研究ニーズを与える場にもなる。

■今後の展開

圃場内での収穫・運搬は形になってきたが、特に野菜収穫において、収穫機の後部で選別やコンテナ詰め込み等の作業を人手で行っており、これらの自動化も必要である。また、耕起から収穫まで、一貫して自動化する体系の構築なども、多くの情報が得られ、収量増や収益増などに貢献することが期待されている。さらに、圃場から集荷場などへのトラックによる運搬の自動化も求められている。これら以外も様々な自動化に対する要求があり、貢献度が高いと考えられるものから取り組んでいる。ただし、農業における課題は非常に多く、このような技術開発を行う研究者・技術者の数も不足しており、新規の研究者・技術者の参加が望まれる。

また、自動化・ロボット化は労働力不足を解消するかもしれないが、地域の人口減を止められるほどのものではない。農業は地域と密接に関わっており、地域の活性化とリンクしながら、後継者の確保、新規就農者の獲得など、できるだけ早期に総合的な施策として考えていかなければならない。

*1:
正式名称は、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター
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参考文献

**1:
解説記事1(野菜) 深尾、吉本:野菜の自動収穫ロボットの可能性と開発事例、野菜情報、2019年5月号
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**2:
解説記事2(果実) 深尾、栗田、吉田:果実収穫AIロボット、機械化農業、2021年5月号
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