特集デジタル

都立大の5Gチャレンジ:
ローカル5G環境を活用した最先端研究と産学・地域連携

東京都立大学 総合研究推進機構長 副学長(研究・情報・都連携担当) 堀田 貴嗣

写真:東京都立大学 総合研究推進機構長 副学長(研究・情報・都連携担当) 堀田 貴嗣

2022年11月15日

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■はじめに

最近、5Gという言葉を目にする、あるいは耳にすることが多くなったと思うが、これは5th Generation、すなわち第5世代の略称である。では、何の第5世代かというと、現代では水や空気のように欠かせないものになっているスマートフォンなどに用いられる通信規格の5世代目という意味である。このご時世、グーグル検索すればすぐに調べられることなので、ここで5Gが何なのかは詳しく述べないが、高速大容量、高信頼・低遅延、多数同時接続という三つの特徴を備える最新の移動通信システムであり、DX(デジタルトランスフォーメーション)実現の基盤として注目されている。

さて、東京都の発表している「『未来の東京』戦略」**1の「戦略10:スマート東京・TOKYO Data Highway戦略」において、三つの視点が示されているが、その一つ目において「電波の道」でいつでも、誰でも、どこでも「つながる東京」を実現すると語られており、具体例として「スマート東京」先行実施エリアにおいて、5Gと先端技術を活用した都市実装を重点的に推進し、その成果を東京都だけでなく全国へと展開するということがうたわれている。この「先行実施エリア」の一つとして東京都八王子市南大沢(東京都立大学)が選ばれ、TOKYO Data Highway重点整備エリアとなっている。南大沢地区の整備にあたっては、ローカル5Gなど最先端の研究環境を整備し、5G環境を活用した研究・実証実験などを推進するとともに、先端技術を活用したまちづくりの検討を行うとされた。

東京都立大学にとっては、大変チャレンジングな話であり、当初、やや戸惑いの声もあったように思うが、DXの流れとも相まって、これをむしろ好機と捉える機運が高まった。そして、2020年4月に学内に5G事業推進検討会議を設置し、「都立大の5Gチャレンジ」が始まった。

■ローカル5G環境整備

「ローカル5G」は、携帯事業者の5G環境整備に先駆けて、研究・実証実験を開始できるという明らかなメリットはあるが、一方で携帯事業者が提供する「キャリア5G」とは異なり、自らの敷地内に独自の5Gネットワークを構築しなければならない。2020年度から5年間の研究を進める中で、研究テーマからのネットワークに対する要求や技術進歩による機能拡張に対応できる5G環境を整備していく必要があった。東京都立大学では、ローカル5G環境を構成するコアネットワーク、アンテナなどの無線装置、5Gデバイスなどの機器類の調達、設計・構築、回線工事の実施はもちろん、新たにローカル5G無線局免許を取得する必要があった。東京都立大学ではそのような準備を整え、2020年12月、総務省関東総合通信局にローカル5G無線局免許申請を行い、無事、免許を取得することができた(正式な名義は東京都公立大学法人である)。図1に、本学が整備した南大沢キャンパスおよび日野キャンパスにおけるローカル5Gの電波エリアを示す。4.7GHz帯と28GHz帯の特性を組み合わせて、18の基地局(2022年1月に増設し、現在は20局)でキャンパスの広範囲を効率的にカバーする日本最大級のローカル5G環境が完成したのである。

図1 南大沢キャンパスおよび日野キャンパスのローカル5G エリア
28GHz 帯および4.7GHz 帯それぞれの電波特性を組み合わせて、両キャンパスの広範囲を効率的にカバーしている。

ローカル5G環境整備と並行して、研究環境整備も進めた。その一環として、日野キャンパス内に5G研究に対応した電波暗室を2部屋整備した。そのうち、写真1の左に示す3m法電波暗室はEMC計測を目的とするもので、電磁妨害波を受けても正常に動作するかの確認試験などを行う。もう一つは、写真1の右に示すマイクロ波電波暗室で、開発中の無線機器(アンテナや受信機等)を用いた各種測定を行うためのものである。これらは2021年8月から運用を開始している。

写真1 日野キャンパス内に設置した5G 研究のための電波暗室
左が3m 法電波暗室、右がマイクロ波電波暗室である。

■5G研究支援

このように、新たに整備されたローカル5G環境を活用した研究を重点的に支援することで、Society 5.0実現の基幹インフラとなる5Gをはじめとする高速・大容量の移動通信にまつわる課題解決や、社会実装を通じた都民生活の向上に資する本学ならではの研究の活性化を図ることとした。そのために、二つのカテゴリを用意した。一つは挑戦型研究で、企業が手を出しにくい将来の課題解決に資するチャレンジングな基礎的研究であって、科学技術の発展や変革をもたらすイノベーションの核となり得る研究である。5Gをはじめとする高速・大容量の移動通信システムの普及に伴うドローバック解消をはじめ、ローカル5G環境を活用して研究の高度化や川下分野への波及効果が望まれるなど、科学技術の発展や変革をもたらすイノベーションの核となり得る研究に対する支援を目指すものである。もう一つは社会実装型研究で、5Gをはじめとする高速・大容量の移動通信システムを活用した新たなライフスタイルの提案や社会的・公共的価値の創造を通じて都民生活の質の向上をもたらすなど、Society 5.0の実現につながる応用的研究であって、社会実装が期待される研究に対する支援である。

表1に、2020年度および2021年度に学内公募により採択された研究課題を示す。2021年度の社会実装型研究は短期と長期のカテゴリに分かれているが、2020年度に支援期間5年のカテゴリだったものを長期とし、新たに、2~3年の比較的短い支援期間で短期のカテゴリを設けたためである。それぞれの課題についての説明は省略するが、課題名から先端性やユニークさを感じ取っていただければと思う。

表1 東京都立大学ローカル5G 環境活用研究支援制度において採択された研究課題

■産学連携

研究支援だけでなく、ローカル5G環境を活用した産学連携の取り組みも実施している。先に述べたように、東京都が策定した「『未来の東京』戦略」の中で、南大沢エリアは「スマート東京」先行実施エリアに位置付けられ、Society5.0の実現に向け、ローカル5G環境を活用した先端研究を進めるとともに、研究成果を生かし、大学発ベンチャーやスタートアップの支援を促進することが掲げられている。そこで、2021年度に、先端的なシーズを有するスタートアップ企業をはじめとする民間企業や研究機関などと積極的に連携を図ることにより、新たな5Gのユースケースを創出することを目的とし、5Gを活用した新たな製品・サービスの実証フィールドとして、本学のローカル5G環境を民間企業などに提供する事業を実施した。

応募してきた民間企業などから書類審査およびプレゼン審査によって1社を選び、東京都立大学を広範にカバーするローカル5G環境を用いて、VR(仮想現実)/AR(拡張現実)を活用した未来型コミュニケーションの実証実験を実施した。バーチャルな授業やオープンキャンパスを可能にするARプラットフォームを構築し、そのプラットフォーム上で5Gネットワークを活⽤したリアルタイムストリーミングの仕組みを検証し、実際に、学生や教職員も参加しての体験会も開催した。将来的には、リアルタイムのホログラムを投影できる仕組みを検討していくなど、大学説明会等にも活用できる可能性が期待される。

今後は、5Gを活用した新たな製品・サービスの実証実験フィールドとしてローカル5G環境を企業などに提供していくことを考えている。実際、2022年6月には、TOKYO 5G Boosters Project(都事業)におけるスタートアップ企業にローカル5G環境を提供し、南大沢キャンパス内のカフェの注文をオンラインで学内モニターから受注し、ローカル5G回線を用いた遠隔操作ロボットにより南大沢キャンパス内の学内モニターへ商品を届ける実験を実施した。最後に機材トラブルはあったものの、今回の実証実験は、特に理系学生の関心が高く、実験期間中は常に注文が入り続けていたと報告を受けており、実験はおおむね成功であったと言える。このような産学連携に協力できたことは、ローカル5G環境を活用した事業の一環として、一つの成果であると考えている。

■地域連携

東京都が策定した「『未来の東京』戦略」の中で、南大沢エリアは「スマート東京」先行実施エリアに位置付けられていることは先に述べたとおりだが、そこでは多摩地域の課題解決や未来のまちづくりのため、産学公連携により5Gなど先端技術を活用した実証実験などを推進することがうたわれている。具体的には、地元市、都立大学、地元企業とともに協議会を設立し、実証実験内容を選定するとある。これに対し、様々な関係者が参画する「南大沢スマートシティ協議会」を設立し、中長期的な取り組みについて検討することとした。協議会メンバーとしては、八王子市、東京都立大学、東京都(都市整備局、総務局、デジタルサービス局)、協力企業・団体である。協議会では、地域の現況・課題の検討、課題を解決する先端技術の活用および導入評価・優先性検討、社会実装・今後の課題の検討などが行われた。例えば、南大沢駅周辺で自律走行モビリティなどの実験・実証などが行われた。詳細は、南大沢スマートシティプロジェクト-南大沢スマートシティ協議会のウェブサイトで公開されているので参照されたい。

■おわりに

東京都立大学の5Gに関する研究および産学連携、地域連携の取り組みについて紹介してきた。大学として研究をすること自体は当然であるが、日本最大級のローカル5G環境を生かした最先端研究については、東京都立大学ならではの特色ある研究として、今後の成果に大いに期待している。それに加えて、このようなローカル5G環境を利用した産学連携の進展についても期待を寄せている。今後も5Gを活用した新たな製品・サービスの実証実験フィールドとして企業等に提供していきたいと考えている。

参考文献

**1:
「『未来の東京』戦略」は、東京都のウェブサイト「未来の東京」戦略|都の基本計画|東京都政策企画局で公開されている。
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