リポート

オンリーワンの地域資源を核とした製品開発による地域の魅力向上へ

岩手大学 研究支援・産学連携センターURA/研究・地域連携部 地域連携推進課 専門職員 佐藤 裕文

2022年10月15日

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■オンリーワンの地域資源「久慈産琥珀」

琥珀は、太古の樹木の分泌液が地中に埋もれ化石化した樹脂のことで、地上で唯一の植物起因の有機質宝石である。岩手県久慈市は、バルト海沿岸地域、ドミニカ共和国と並ぶ世界三大琥珀産地の一つである。中でも久慈産琥珀は約9,000万年前のもので、南洋スギ(学名アラウカリア)が起源樹種と考えられており、商業価値として用いられている中でも最も古い。世界に流通している琥珀の大半が2,000万年から4,500万年前の新生代のものであることからも、久慈産琥珀がいかに希少性の高いオンリーワンの地域資源であるかが分かる。藩政時代には、南部藩の特産品として藩外輸出禁止の品に定められ、琥珀奉行が置かれ琥珀細工師を20人も抱えていたと言われ、古くから地域の重要な資源として認識されていた。

岩手県久慈市の久慈琥珀株式会社は、国内唯一の琥珀専門ジュエラーとして貴重な久慈産琥珀の製造販売を行っており、これまで琥珀アクセサリーを中心に大手ナショナルブランドとコラボした時計や文具、岩手大学との共同研究で得た成果で製造した化粧品・財布など、琥珀を用いた事業を展開している。

今回は、同社が岩手大学、他地域との連携を通じて、オンリーワンの地域資源を核とした製品開発による地域の魅力向上の一事例を紹介したい。

久慈産琥珀の原石

■リファインド技術の開発

久慈産琥珀は、他の産地の琥珀よりも古く希少価値は高いものの脆いのが特徴だ。そのため採掘してもそのまま商品化できるのが全体のおよそ35%で、残りの65%はひびや亀裂が入り、そのままでは使えない。成形加工する上での制約も多い。そこで、久慈琥珀株式会社では「このオンリーワンで希少な地域の宝でもある琥珀を余すところなく形にしたい」との思いから、「リファインド」という琥珀粉体を加熱加圧成形することで再生琥珀の技法を開発しようと模索している中で、岩手大学との連携が始まった。

それまで同社では、宝飾品では使用できない琥珀片を、加熱加圧による独自の圧粉成形技術を開発し、琥珀バルク材を成形し、削り出しによる加工により、万年筆・ボールペンの軸や時計の文字盤などの成形品を製造してきた。しかし、品質のばらつきや素材の歩留まりに課題があり、製品としての歩留まり率が50%前後であり、需要に対して十分に対応できない状況にあった。特に削り出しによる製造法では、バルクの削り出し時に、ひび割れや亀裂が発生する課題があった。そこで岩手大学に加え、公益財団法人さいたま市産業創造財団による協力を得て、粉末冶金で高い技術力を有する粉末冶金メーカーのポーライト株式会社(埼玉県さいたま市)と連携体制を構築し、東北と関東の企業による広域の産学連携への取り組みが始まった。

久慈琥珀株式会社が注目したのは、ポーライト株式会社が有する粉末冶金における金属焼結法と、岩手大学工学部(現理工学部)の清水友治准教授が有する金型技術や品質工学での知見であった。

粉末冶金法は金属部品製法の一つで、金属粉末を金型に入れて押し固め、高温で焼結することで精度の高い部品が製造できる。この粉末冶金の金属焼結法をベースとして、岩手大学が有する粉末プレス成形技術のノウハウを用いて、琥珀粉末成形の最適条件の探索を行った。天然の、しかも特殊な材料を用いることから、条件が安定している工業材料とは異なり開発のハードルは高かった。しかし、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の復興促進プログラムによる支援も得られ、金属焼結法をベースに材料解析・評価技術やばらつきの多い材料における最適成形条件を見いだすための設計技術を用いて、成形後、加工をしないで完成品に仕上げるニアネットシェイプな成形品が離型時に得られ、生産効率も数倍に向上する琥珀へのリファインド技法の開発に成功した。

この高品位でステータス性の高い琥珀製品の成形技術の確立により品質ばらつきを解消できる加熱プレス成形量産が可能になり、材料歩留まりがおよそ2倍にも向上し、当初の目標を上回るレベルまで高めることができた。

■新たな発見とさらなる発展

この開発と同時期に、久慈市では久慈産琥珀に次ぐ新たなオンリーワンの地域資源「ジェット(黒玉)」の発見があった。このジェットは、久慈産琥珀と同じ年代の地層から採掘される太古の樹木が化石になったものだ。黒玉やブラックアンバーとも呼ばれ、欧米では高いニーズがある。これまで久慈市では琥珀の採掘と同時に取れるジェットを「燃えない炭」として廃棄していたが、鑑定士の指摘で調査を行い、ジェットであると判明した。しかし、このジェットは、乾燥するとひび割れて崩れやすくなるため、宝飾品への加⼯が難しい材料であった。そこで、久慈産琥珀でのリファインド技術を応用できるのではないかと実験を重ね、少量の琥珀を混ぜて弾⼒性を持たせ、強度を高めることで、高品質、多生産可能なジェットへのリファインド技術も開発した。

ジェット原石とリファインド成形品

■オンリーワンの地域資源を核とした製品開発による地域の魅力向上

現在、久慈琥珀株式会社では、産学官連携により開発したリファインド技術により国内産初の琥珀やジェットを活用し、大手ナショナルブランドでの商品化や、自社でも2021年9⽉に新ブランド「アンジェローグ」を立ち上げ、県内外の販売店や⾃社の通販サイトで販売している。同社の新田久男代表取締役社長は、「久慈ならではの魅⼒を発信・誘客し、新型コロナウイルスで打撃を受けた地域経済の回復に⼀役買いたい」と意気込んでいる。

■最後に

現在、岩手大学では、自然科学系、人文社会科学系の他分野の研究者や学生が地域資源をテーマに、基礎研究から応用・実用化研究に取り組み、学術的にもインパクトのある成果が生まれている。地方にある大学だからこその特徴的な研究成果である。このオンリーワンの地域資源を核とした研究成果を製品開発により事業化し、社会的インパクトを創出し続けることで、地域の魅力向上に貢献し続けていきたい。