特集大学発ベンチャー表彰2022

大学発ベンチャー表彰特別賞
老化を誘導する小分子RNAの創薬で難治性疾患の治療薬に挑む

株式会社PURMX Therapeutics 代表取締役社長 田原 栄俊

写真:株式会社PURMX Therapeutics 代表取締役社長 田原 栄俊

2022年10月15日

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がん細胞に「老化のスイッチ」を入れるという新しいコンセプトの核酸医薬品を開発している。既に医師主導治験も開始している点、年々注目が高まっている核酸医薬(がんの老化を促すマイクロRNAに着目)の実現に期待する。

核酸医薬は、次世代のモダリティーとして注目される創薬分野である。われわれは、これまで培ってきた老化研究の成果を、難治性がんの治療に応用できないか検討してきた。すなわち、がん細胞でオフとなっている老化シグナルのスイッチを、マイクロRNAを用いてオンにし、がんを撲滅しようというコンセプトである。この「Aging switch」の抗腫瘍コンセプトを立てるところから研究を始めて、現在、抗腫瘍マイクロRNAをヒトに投与する臨床応用の段階まで持ってきた。その中で、新たに創薬ベンチャーを立ち上げてきた経緯と方向性、そして日本におけるこれからの創薬ベンチャーの課題についてお話ししたい。

■パームエックス・セラピューティックスの概要

株式会社PURMX Therapeutics(パームエックス・セラピューティックス)は、Promising and Ultimate RNA Medicineを無限大に生み出すXから由来しており、患者の立場に立った創薬を重要視し、患者のQOL向上を最大限に尊重する創薬を目指している。われわれは、「マイクロRNA」などの小分子RNAを創薬のモダリティーとして用いる、核酸医薬の創薬ベンチャーである。マイクロRNAは、ヒトの生体内で働く遺伝子のファインチューニング因子として機能しており、様々な遺伝子のスイッチのオン・オフを制御していることから、病気の発症や進展にも深く関与していることが知られている。がんや精神疾患など様々な疾患におけるマイクロRNAの発現異常(発現の亢進、低下)は、遺伝子のスイッチのオン・オフのアンバランスを生み出し、疾患の発症や進展に強く影響をもたらしている。

プラットフォーム型・シーズ型のハイブリット創薬ベンチャー・PURMX

創業者の筆者(田原)らは、細胞の老化やがん化における基礎研究において、マイクロRNAに着目し、細胞が老化する過程において、細胞老化を制御している一連のマイクロRNA(Senescent-Associated miRNA, SA-miRNA)を同定し、その機能解析を行ってきた**1。さらに、SA-miRNAの多くが、がん細胞が持つ機能の一つとして知られる「細胞の不死化」の過程で、細胞老化を回避するために低下することを見いだした。がん細胞が持つ「細胞の不死性」においてSA-miRNAの発現低下が重要な役割を演じていることから、オフの状態にあるがん細胞の「老化のスイッチ、Aging switch」をSA-miRNAがオンにできる機能を有する新しい仮説を立てて研究を進めてきた。その結果、miR-22やmiR-3140-3pをがん細胞に導入することによりがん細胞の老化を誘導して抗腫瘍効果を示すことを明らかにしてきた**1。またmiR-3140-3pが、がん幹細胞や抗がん剤耐性のがん細胞にも効果を示すことを明らかにしており、現在miR-3140-3pを、創薬開発コードMIRX002として、難治性疾患である悪性胸膜中皮腫を対象とした臨床開発を進めている。MIRX002の開発は、2021年3月にIND(Investigational New Drug)を提出し、2022年の1月12日にFPI(First Patient In)を達成している。この開発過程において、PURMXは、これまでに8.5億のシリーズAを完結し、自社で核酸およびDDS(Drug Delivery System)の治験薬GMP(医薬品の製造管理及び品質管理に関する基準)製造を完了させ、フェーズIの治験薬提供を行っている。

がん細胞に老化を誘導するマイクロRNA を用いた「Aging Switch」の新規コンセプト創薬

■老化誘導性マイクロRNAを新規コンセプトで革新的創薬を狙う

私にとって、ベンチャーを作ることは、大学での研究成果を社会に届けることである。特に、創薬ベンチャーにおいては、研究成果を患者に届けて患者を助けるということである。大学で研究費を獲得して論文や学会発表をしても、患者の病気を治すことはできない。しかし、研究成果を実用化することは簡単ではなく、創薬のように上市までに10年近くかかる世界であり、一人で成せるものではない。それを理解した上で、それでも創薬ベンチャーを作ることを決断に至ったのである。

製薬会社へのライセンスは、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)などの資金を獲得して非臨床試験を実施し、ある程度の結果を出したとしても困難であり、少なくともフェーズ1を終わらせないと検討もしてもらえず患者に研究成果が届かないのが日本の創薬の現状である。

非臨床試験が順調に進む中で、前に進むべきか立ち止まるべきかの決断の時に、スキルス胃がんで亡くなった昔の学生を思い出したのと同時に、周りでがんの治療薬がなく緩和療法で苦しむ患者の姿が頭の中でぐるぐると回った。そんな患者を自分の研究成果が救えるかもしれないという強い思いで、起業を決断した。起業に際しては、患者を助けられる「革新的なシーズ」、起業に賛同して一体的に進められる「チーム」、十分な資金調達が必須だと考え、約2年がかりで起業の準備を進めてきた。

「革新的なシーズ」であると強く思うのは、広島大学大学院医系科学研究科細胞分子生物学研究室のラボメンバーで生み出した研究データとしての「老化スイッチ」という全く新しいコンセプトの仮説を実証できる研究データや、がんの親分として知られるがん幹細胞も死滅できるデータ、in vivo有効性POCデータなど新しいコンセプトの抗腫瘍核酸医薬が成功するに違いないと確信を持てたからである。もう一つの重要な要素は、これまで私が経験したことのないヒトへの投与を行う臨床試験を行えるチーム組成であった。

日本における創薬の臨床開発は、研究者個人では、例え大学のARO*1の支援があっても難しく、主体的に進めるチーム組成が必須であると考えた。そのようなチーム組成を作ることができる仕組みがないと、研究者が研究成果を出したとしても、日本における創薬開発は進まないだろうと感じたのが起業後の実感である。

ベンチャー起業は、そのやり方の一つではあるが、革新的な新薬の多くが創薬ベンチャーから創出されている昨今の現状において、今後の創薬ベンチャー創出の支援体制は大きな課題であると思われる。特に、素晴らしいシーズにつながる基礎研究成果を社会実装するための積極的な支援体制が、早期からできる仕組みが必要である。さらに、治験薬をGMPレベルで製造した経験から、国内における治験薬製造体制が貧弱であり、アカデミアが素晴らしいシーズを見いだしても臨床試験が迅速に進められないことが大きな課題であると感じている。創薬の入り口から最終的に患者に届ける出口までたくさんの谷があるのが現状であり、これらの谷を乗り越えられる産学官挙げての支援が、今後の国内創薬ベンチャーがグローバルで戦うためのキーであると考えている。PURMX Therapeuticsは、患者の立場に立った難治性疾患マイクロRNA治療薬の開発を進め、日本で最初のマイクロRNA核酸医薬の上市を目指して行きます。さらに、その革新的医薬品をグローバル展開して、世界中の難治性疾患患者を助けていきます。

*1:
ARO:Academic Research Organization 研究機関や医療機関を持つ大学などが、その機能を活用して医薬品開発や臨床研究、非臨床研究を支援する組織
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参考文献

**1:
.Xu D, Takeshita F, Hino Y, Fukunaga S, Kudo Y, Tamaki A, Matsunaga J, Takahashi R, Takata T, Shimamoto A, Ochiya T, and Tahara H. miR-22 represses cancer progression by inducing cellular senescence. The Journal of Cell Biology, 193 (2) 409-442, 2011
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