特集大学発ベンチャー表彰2022

大学発ベンチャー表彰特別賞
認知症の早期発見を実現するアイトラッキング式認知機能評価法

株式会社アイ・ブレインサイエンス 代表取締役社長 髙村 健太郎

2022年10月15日

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アイトラッキング式認知機能評価法は、簡便であり、今後増加する予備軍を含む認知症の早期診断への貢献が期待される。早期診断による予防・悪化の抑制は患者のQOLの観点、また社会的側面からますます重要になっている。アイ・ブレインサイエンス社の開発アプリは想定される利用シーンが多いこと、海外を含む市場性もあると考えられる点が評価された。

超高齢化社会を迎え、認知症患者に対する医療の拡充は喫緊な課題である。特に軽度認知症や軽度認知障害(MCI)の早期発見が重要であり、早期介入や薬剤による認知機能維持が可能となる。われわれは認知症診断の補助としてDX化した認知機能評価システムをソリューションとして提供する。

■課題ドリブン型の製品開発

当社の技術シーズは、大阪大学武田朱公准教授(臨床遺伝子治療学講座・老年内科学)の国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)2018年度START採択プロジェクト「視線検出技術を利用した簡易認知機能スクリーニングシステムの開発による社会システムの負荷軽減」の研究成果を基盤としている。医師が認知症診療の現場において、問診式認知テストで患者さんが受ける心理的ストレスを軽減したい、また問診検査が時間や検査者の制約により十分に実施できないことの解消手段として現行の医療と相関があるDX手法を必要としたことが開発の起源となっている。

認知症患者は2025年には国内で700万人を超えると推計されている。とても患者数の多い疾患だが、軽度認知障害の段階で早期発見すれば、認知症への移行、発症を遅延させることができる。認知症診断の流れは第一段階で認知機能テストを行い、認知症が疑われれば脳の画像診断や髄液検査へと進み鑑別診断となる。

15分以上を要する認知機能テスト(医師または専門職の問診形式)を患者個々の診察時間内に行うことが難しく、これが認知症診断における最初のボトルネックとなっており、解決手段が必要とされている。

■アイトラッキング式認知機能評価法

アイトラッキング式認知機能評価法は、視線検出技術を認知機能検査に応用し、モニター画面に表示される設問に沿って画面を眺めるだけで認知機能の評価を行うことができる。患者の視線動向から設問正解画像の注視時間割合、視点検出率などにより認知機能を非侵襲、簡便、客観的、定量的に判定する新しい手法であり、被検者は、タブレット端末の前に座り、画面上に現れる設問の正解と思う場所を見つめ3分で検査は終了する(写真1)。結果はすぐに画面表示することができ、認知機能の総合評価(100点満点)に加え、記憶力や判断力などの機能別評価も表示される(図1)。また、同じ患者の経時的な結果をグラフ表示できる機能も有している。何と言っても問診と異なり患者のストレスを大幅に低減し、医療サイドも時間の節約だけでなく検査者の違いによる結果のバラツキを低減することができる利点が大きい。

写真1 アイトラッキング式認知機能評価風景
iPad 画面に表示される設問の回答を視線で捉えている。
図1 認知機能結果表示画面
認知機能総合点の他、機能別の結果をレーダーチャートで表している。

大阪大学では、健常者、軽度認知障害(MCI)患者、認知症患者を対象として臨床研究を行い、従来の問診法であるMMSE*1との間で高い相関が得られたことを報告している**1

当社はこの結果を引き継ぎ、複数医療機関での臨床試験を実施し、医療機器プログラムとして厚生労働省へ製造販売承認申請を行っている。

■世界を見据えたSaMD事業展開

当社は会社設立当初より、事業計画に海外展開を組み込んでいる。日本ではソフトウエアのみを医療機器(医療機器プログラム)とする承認制度があるがいまだ承認品目は多くない。世界的にもこれをSaMD(Software as a Medical Device)として薬事規制の整備が進んでおり、医療での需要も高まっている。

CE-markに規定される医療機器では、日本で実施した臨床試験の結果をもとに認証取得が可能であり、EU諸国をはじめとして臨床試験を必要としない国々も多いことから当社も認証取得を進めている。

アイトラッキング式認知機能評価法は、画面に表示される文字が少なく、問診のように詳細な言語マニュアルも必要としないことから、各国言語版の画面表示が容易である。また、ソフトウエアは世界各国でダウンロードすることが可能であり輸出操作を必要としないことも海外展開を容易にしている。

認知症患者の増加は日本のみならず、世界的な課題となっている。特に人口増加の著しいアジア諸国では医療資源の不足もあり簡易な認知機能検査の需要は高まっている。

高齢者課題先進国の日本から新しい認知機能評価手法を世界に発信したい。

■ファブレスな経営方針

事業は大学のシード技術を製品化するためにスタートしたが、将来の方向性転換の可能性も考慮し、できる限りファブレスな経営を心掛け柔軟性を意識している。少人数で最初の製品開発を手掛け、製品化が見えてきた時点で人員を増強し次製品を手掛け、続いて製品パイプライン化を実現できるよう開発を進めている。具体的には、研究拠点は完全に自前ではなく、大阪大学内に設置したドライラボと大学との共同研究の形をとり、事業に必要なアプリ開発、インフラ整備はITソリューション大手のフューチャー株式会社(東京都品川区)と提携している。また製品の営業についても、大塚製薬株式会社と国内の独占販売契約を締結した。

事業保護また継続のための知的財産については、大阪大学より出願されている特許について当社が全世界で独占的に使用できる契約を締結しており、契約内容についてもスタートアップ企業を優遇する趣旨に沿っており感謝している。

当社は創業から第3期までに総額で9億円の資金を調達している。医療機器開発は創薬事業に比べ多額の資金を必要としないため、開発段階に見合った資金調達としている。資本政策の出口戦略として、新興市場への株式上場を考え、準備を進めている。株式上場は当社が構想するデジタル治療製品の開発費用を調達する手段であり、認知症や患者数の多い精神疾患に関わる企業を世間に広く知っていただくことが目的である。

*1:
MMSE(Mini-Mental State Examination)
認知症が疑われるときに行われる問診形式の神経心理検査で、世界各国で最も用いられている認知症検査である。
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参考文献

**1:
Oyama A, Takeda S, et al. Novel Method for Rapid Assessment of Cognitive Impairment Using High-Performance Eye-Tracking Technology. Sci Rep. 2019 Dec;9(1):12932.
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