特集大学発ベンチャー表彰2022

アーリーエッジ賞
長距離量子通信により量子インターネットのある未来へ

LQUOM 株式会社 代表取締役 新関 和哉
LQUOM 株式会社 テクニカルアドバイザー 堀切 智之

写真:LQUOM 株式会社 代表取締役 新関 和哉 写真:LQUOM 株式会社 テクニカルアドバイザー 堀切 智之

2022年10月15日

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量子コンピュータの発展により従来の暗号技術では解読されるリスクは周知の事実である。LQUOM社は量子インターネット分野において、安心・安全な量子インターネット環境の実現のために量子通信技術の開発、社会実装を目指している。量子インターネットの分野においてキープレイヤーとなる可能性を秘めていることに加え、国産の量子通信システムが実現した際の社会性・公共性の高さから、一層の成長が期待される。

■長距離量子通信の社会実装に向けて

LQUOMという社名の由来はLong-distance quantum communicationから抜き出したもので、その名の通り長距離量子通信に向けて「量子中継器」の開発を行っている。LQUOMでは特に量子もつれを活用することに注力しており、End-to-End量子中継・量子テレポーテーション・分散量子計算・delegated量子コンピューティングといったアプリケーションが普及する未来を実現するために必要不可欠な技術である。

量子通信の恩恵の一つに情報理論的安全性が挙げられる。私たちが日々使っている既存の通信(古典通信と呼ぶ)の主流な暗号であるRSA暗号の安全性は、現在のコンピュータでは素因数分解に膨大な時間を要する理屈に基づいている。現在世界中で開発が進む量子コンピュータが得意とするのは、現在のコンピュータが苦手とする素因数分解などの計算であり、原理的に解読の難しい高い安全性を持つ暗号が必要不可欠である。一方、ただ安全性のためだけに既存の通信を置き換えるのはリスクやコストが膨大になるなどの問題もあるため、プラスアルファの付加価値が必要とされている。

標準規格19 インチラック用の量子光源

量子通信においては量子の一種である光子を飛ばすことで通信を達成できるが、代わりに量子もつれ状態にある光子ペアを用いることで、安全性だけにとどまらない応用が可能となる。中でも分散量子計算は特に注目を集める技術であり、離れた量子コンピュータ同士で量子ビットを要する計算を分散処理させることで、現在1デバイスあたり100-1,000程度の数の量子ビット数を実効的に増加させるだけでなく、故障などに伴うメンテナンス時のリスクを低減することにもつながる。量子もつれを用いた量子通信は、量子コンピュータによる暗号解読から守るだけでなく、量子コンピュータの発展を加速させる意味合いも持ち、まさに「量子インターネット」と言えるインフラストラクチャーになり得る。

量子インターネットに向けた量子もつれの社会実装に向けては量子もつれを生成する量子光源や量子状態を壊さずに保存できる量子メモリをはじめとした、entanglement swappingと呼ばれる中継動作を行うための周波数安定化や波長変換も包括するシステムが必要である。LQUOMは横浜国立大学堀切研究室で培われてきた技術を社会実装用に転化するために、株式会社オキサイド(山梨県北杜市)の光学結晶・デバイス技術や経営ノウハウをはじめとして他社との協力により着実に会社として成長を続けている。

■量子ハードウェアの社会実装への障壁

量子に限らず研究開発型ベンチャーにおいて、特にハードウェアの社会実装には研究から量産まで深い死の谷があり、資金繰りが最大の壁となる。その開発サポートとなるのは公的補助金である。LQUOMでも国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) START*1や国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) STS*2による手厚い支援を受けながらの開発がベースとなっているが、開発が一層激化する世界と戦っていくだけでなく国内のニーズ分析や市場開拓から立ち上げて渡り切るためにはまだまだ不足していると感じる。最近では民間のベンチャーキャピタルからリスクマネーを供給いただけるようになってきたが、短期的な財務成果のみに目を奪われ、将来的な成長性やそれを支える技術力に目を向けてくださる投資家は多くないとの印象を持っている。公的予算に関しては金額ももちろんだが半アナログから脱するようなIT化などの仕組み変化の必要性を強く感じている。少数精鋭のベンチャーではバックオフィス業務から解放されて1秒でも長く開発に集中したいのだが、IT化が進むことでさらなるセキュリティの重要性が生まれ、量子通信の需要がさらに伸びるのは間違いない。

次に実装先に関しても壁がある。量子通信は安全保障上重要な機密情報を量子通信によって守ることができるため国民の安全・安心につながる技術である。今後の発展としてはインターネットと類似の成長をたどると考えており、それは米国防総省の資金提供による試験運用に始まり商用拡大してきた歴史を持つため、量子インターネットでもDual Useを念頭に置かないと開発・社会実装で世界に置いて行かれる強い懸念がある。量子通信は少なくとも人間には検知の難しい非常に弱いエネルギーのスケールで行われ人間に危害を及ぼすことはまずないため、防衛と言っても安全保障専用のまさに守りの技術と考えている。一方でそのような応用ですら忌避される風潮が強く残っていると感じており、今後の市場開拓や資金調達の自由度に制約がかかるのではないか、そのようなしがらみにとらわれるうちに世界に置いて行かれるのではないかと不安を常に持っている。現在LQUOMでは、地方自治体や通信会社、銀行グループとも話をさせていただきながらの社会実装という道を進んでいる最中ではあるが、安全保障も含めて一つでも多くのユースケースを獲得したいと考えている。

LQUOMで開発を目指す長距離量子通信は、将来の社会発展の重要な産業基盤のITインフラならぬ、QT(Quantum Technology)インフラとなる。一ベンチャー企業ではなく国がやることではないかと質問を受けることはあるものの、企業や団体に支援をいただきその責に見合うように成長を続けたい。今後の量子技術において欠かせないのは大学で深い知識を身に付けた博士だと強く感じており、量子人材の育成にも貢献したいと考えている。

*1:
研究成果展開事業 大学発新産業創出プログラム(START)
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*2:
シード期の研究開発型スタートアップ(STS)に対する事業化支援の助成事業
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