特集大学発ベンチャー表彰2022

新エネルギー・産業技術総合開発機構理事長賞
回収可能な小型無人の人工衛星による宇宙環境利用プラットフォームの提供

株式会社ElevationSpace Chief Strategy Officer 河邊 尚貴

写真:株式会社ElevationSpace Chief Strategy Officer 河邊 尚貴

2022年10月15日

  • Twitterを開く
  • Facebookを開く
  • LINEを開く
  • 印刷ボタン

ハードルが高い宇宙利用の分野において、誰もが気軽に宇宙利用できる世界の実現に向けチャレンジしているベンチャー企業である。ElevationSpace社が担う宇宙実験プラットフォームの提供は、食料、創薬、材料等、あらゆる産業分野にとって重要である。宇宙利用、その普及を加速させる可能性のあるベンチャー企業である点が評価された。

■Post ISSにおける宇宙環境利用のダイナミズムとElevationSpaceの取り組み

ElevationSpaceは、「誰もが宇宙で生活できる世界を創り、人の未来を豊かにする」というミッションの下、2021年2月に東北大学の吉田・桒原研究室の人工衛星開発技術を基に設立された宇宙系スタートアップです。

宇宙環境を利用した実験や研究開発は多くの人にとってあまりなじみがない概念かもしれませんが、実のところ国際宇宙ステーション(ISS)と呼ばれる地球低軌道上に滞在している有人施設では、微小重力環境を利用した宇宙でしかできない実験・研究が盛んに行われており、日本だけでも年間400億円もの投資が行われています。

しかし、ISS利用には、安全性やコストに関するハードルが高く利用しづらいこと、利用可能な国が限定的であること、2030年までにISSの運用が終了してしまうこと、の三つが主な課題として存在します。ISSの運用終了により宇宙での実験環境が損なわれる事態に対して、各国政府は特に大きな課題として捉えており、ISSに代わり宇宙環境利用を可能にするサービスを開発する民間企業の支援やサービス利用に関する動きが活発化しています。

このような環境の下、ElevationSpaceもPost ISSに向けたサービス提供を目指していますが、ISSと同様の有人宇宙ステーションを開発するのではなく、「小型宇宙利用・開発プラットフォーム:ELS-R」という小型無人の人工衛星を用いた宇宙環境利用サービスの提供を目標に、2026年にサービスローンチを目指しています。

小型宇宙利用・回収プラットフォーム:ELS-R の概念図

■小型宇宙利用・回収プラットフォーム:ELS-R

ELS-Rは小型の人工衛星で最大で200kgの実験物を宇宙空間へと運び、無人で実験を行い、さらには衛星を大気圏に再突入させ地球上で実験物を回収する一連のサービスを指します。

無人で実験を行うことの可否について、現在ISSで行われている実験のほとんどが細胞に培養液を付加するなどの簡単な作業にとどまっており無人でも代替可能な実験となっています。また、宇宙飛行士の稼働に対して日本の場合、時給600万円程度かかることが知られており、無人化によって大幅に利用コストの低下が期待されています。さらに、人命保護のために厳しく設定されている安全基準が緩和されるため、可能な実験や研究の幅が広がることが期待できると考えています。

ELS-R最大の特徴は、衛星が大気圏に再突入し地上に帰還し、実験物を回収できる点です。実験物の回収が実現することで、宇宙で製造した材料や創薬のためのタンパク質結晶を地上に持ち帰り利用することが可能となり、様々な分野において新たな価値創出につながると考えています。

なお、衛星を再突入させ回収する技術は民間企業では世界でSpaceX(米国カリフォルニア州の航空宇宙メーカー)のみが持っている技術であり、ElevationSpaceはこの技術を獲得するために、技術開発のための座組を構築しています。座組の要素としては主に三つあり、東北大学の五つの研究室との共同研究、JAXAを含む外部機関との連携した開発体制の構築、JAXAで再突入カプセルの開発経験を主導した経験を有する愛知工業大学の渡邉先生の参画です。これにより、日本で初の民間企業による衛星再突入技術の獲得を目指しています。

ELS-R のサービスフロー

■将来構想

2026年のELS-Rのサービスローンチに先駆けて、2023年に技術実証のための機体を打ち上げ、大気圏再突入技術の獲得を目指しています。そして、ELS-Rサービス開始後は宇宙環境利用に関する障壁を低減し、新たな宇宙利用用途および市場創出に向けてこれまで政府主導で行われてきた宇宙実験に民間企業が主導していくモーメンタムの創出を目指します。

私たちのミッションは「誰もが宇宙で生活できる世界を創り、人の未来を豊かにする」です。ミッション実現に向けては、ドッキング技術や有人宇宙技術などのさらなる技術開発が不可欠であり、新たな技術獲得に応じた事業展開が可能であると考えています。

中長期的には、ドッキング技術獲得による宇宙ステーションや月面への物資の輸送事業、有人宇宙技術獲得による人の輸送事業、さらには宇宙空間にホテルや工場などの構造物を建設する宇宙建築事業を展開していくことを構想しています。

ElevationSpaceは、企業や人が自由に宇宙を往来し、宇宙空間を自由に利用できる環境を構築することで誰もが宇宙で生活できる世界を創り、人類の未来を豊かにしていくとともに多くの人々に夢や希望を与えていく企業となるため、挑戦を継続していきます。