特集大学発ベンチャー表彰2022

経済産業大臣賞
膨大な微生物ゲノムデータベースを活用してバイオものづくり産業を革新する

bitBiome 株式会社 取締役CSO 細川 正人

写真:bitBiome 株式会社 取締役CSO 細川 正人

2022年10月15日

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シングルセルゲノム解析により世界最大・最高解像度の微生物ゲノムデータベースを構築し、微生物遺伝子を活用した産業構造を刷新することを目指す企業である。国の重点産業とされるバイオものづくり分野においての唯一無二のゲノムマイニングプラットフォームとして位置づけられており、今後の成長が期待される。

■微生物ゲノムをデジタルアーカイブ化し、未来社会を支えるものづくりへ

bitBiome(ビットバイオーム)株式会社は2018年11月に設立されたバイオベンチャー企業です。当社は筆者が早稲田大学で開発した、微生物の細胞一つから全ゲノムを解読する技術「bit-MAP®」をコア技術とし、微生物遺伝子データを活用したバイオものづくり支援を事業としています。

人類は古来より微生物の力を利用した発酵食品、薬剤、酵素などを生み出し、様々な産業に役立ててきました。現在では、脱炭素社会の実現に向けて、従来の石油に依存したものづくりの見直しとして、微生物を使ったバイオものづくりが注目されています。しかし実は、地球環境に存在する微生物のうち、その名前や機能が解明されているものは0.001%にも達していません。これは、未来の産業を担う物質が「未知の微生物」という形で、私たちの身の回りに埋もれていることを意味します。しかし、埋もれている「微生物=資源」を掘り起こす「ツルハシ」や、その名前や価値を鑑定する「眼」となる技術がこれまでなく、手付かずの状態で残されてきました。

bitBiomeは、bit-MAP®を用いて未知微生物の遺伝情報を膨大に入手し、世界最大規模の微生物ゲノムデータベース(DB)を構築しています。その中には、これまで未発見の微生物遺伝子が大量に収録されています。DBには様々な遺伝子が採取環境、由来生物種、機能ごとに整理されアーカイブ化されています。バイオものづくりプレイヤーである顧客はこのDBにアクセスし、当社が用意した機械学習技術などを用いて目的の酵素遺伝子などを検索し、当社が提案する機能改変を行うことができます。独自の遺伝子情報に優先的にアクセスするだけでなく、バイオものづくり研究の大部分をDX化し、効率化することが可能です。もちろん、学術的な利用を目的として、疾患や食品と関連する微生物の働きを知るためのリファレンスとしてDBを活用することもできます。

bitBiomeの社名は、細胞一つの微量な対象やデジタル情報を意味する「bit」と、生態系を意味する「biome」を合わせた造語です。これには、微生物生態系をデジタルアーカイブ化し、新たな価値を創出する意味が込められています。

■技術開発とサービス展開を両立させ、事業を拡大

コア技術bit-MAP®は、微生物基礎研究における未知微生物のゲノム解析のために開発されたものでした。そのため、創業当初は、腸内細菌や土壌微生物などマイクロバイオーム研究向けの解析サービス事業からスタートしました。早稲田大学との共同研究により、技術移転を進め解析効率を改善した結果、月間で最大1億遺伝子の新規取得が可能となり、収録遺伝子数は事業会社として世界最大規模の6.5億個となっています(2022年8月時点)。このほか、国立研究開発法人国立がん研究センターや米国Fred Hutchinson Cancer Research Centerなど複数のアカデミア機関との共同研究により、様々な検体分析の実績を積んでいます。一方、研究結果の解釈の際にはバイオインフォマティクス技術が極めて重要です。当社には博士学位を有するバイオインフォマティシャンが複数在籍しており、データの自動解析やDB開発に加え、機械学習を利用した分析の実装を進めてきました。これらの成果は、査読付き学術論文にて発信し、国際特許出願により権利確保を進めています。現在これらのシングルセル解析要素技術が、解析サービスや共同研究に国内外問わず活用されており、さらなる利用者拡大を視野に入れています。

■ゲノム・遺伝子データ解析の効率化により、次の展開へ

解析技術の劇的な進展をもって、いよいよデータを活用した新規事業をスタートしたのが2022年です。世界最大規模の微生物ゲノムDBと当社独自のバイオインフォマティクス技術を活用した「酵素探索サービス」、およびin silico 変異解析とロボティクスを活用したハイスループットスクリーニング(HTS)による「酵素改変支援サービス」の提供を正式に開始しました。DBは今後も拡張される予定であり、数年以内にアカデミア・民間含めての収録遺伝子数を世界最大規模とすることを計画しています。また、データが真に価値あるものであることを実証するために、当社独自のバイオものづくりも推進し、環境や創薬分野における新規物質探索を進めています。

■サポーターとともに、グローバルなバイオものづくりプラットフォームへ

当社の研究開発は、各省庁・団体のスタートアップ研究開発助成事業に支援されてきました。当社のようなバイオベンチャーにとっては、研究環境の確保が起業時の最大の悩みですが、創業の地である早稲田大学からは、学内インキュベーション施設を活用した起業支援を受け、加えてリサーチイノベーションセンターの実験室を活用できたことも事業展開において重要でした。また、主要投資家のUTEC(株式会社東京大学エッジキャピタルパートナーズ)からは、筆者一人で一念発起し起業を決心した2018年5月から創業のサポートを受けており、資金・人材を含めた経営支援を受けています。

設立から4年を迎え、前述のバイオものづくり分野における新規サービスをグローバル市場に展開していきます。内閣官房が科学技術重点領域として挙げる「バイオものづくり分野」において、当社は国際的に見ても唯一無二のゲノムデータマイニングプラットフォーム企業として位置付けられています(新しい資本主義実現会議2022年3月8日基礎資料)。今後は、技術とデータを磨き上げ、様々な既存のバイオものづくりへの新規参入や研究開発加速を支えていき、来るバイオエコノミー社会において世界的なバイオスタートアップを目指します。