特集大学発ベンチャー表彰2022

文部科学大臣賞
日本発そして世界初の抗がん薬開発に向けて

Chordia Therapeutics 株式会社 Chief Scientific Officer 森下 大輔

写真:Chordia Therapeutics 株式会社 Chief Scientific Officer 森下 大輔

2022年10月15日

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新しい抗がん薬を開発する企業。パイプラインの一つであるスプライシング制御薬が新たな抗がん薬となり、世界を舞台に今後活躍することが期待される。また、開発・事業化のプロが大学のシーズをパイプライン化していくことを強みとしており、産官学が一体となり大学の知を生かし創薬事業を展開することを目指している点も高く評価され、今後の創薬業界の新しいロールモデルとしても期待される。

■Chordiaの概要

Chordia Therapeutics(コーディアセラピューティクス)株式会社(以下、Chordia)は新しい抗がん剤を創出するために、国内の産官学連携を軸として起業し発展してきた。2015年の国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)設立時に、産学連携医療イノベーション創出プログラムACT-Mにおいて京都大学および宮崎大学が見いだしたシーズを基にしたMALT1阻害薬の産官学連携研究を開始し、その研究をAMED革新的がん医療実用化研究事業でさらに発展させ**1、最終的に2020年に小野薬品工業株式会社へ、国内最大級となる大型導出の成功まで推し進めた**2。2017年に武田薬品工業株式会社(以下、武田薬品)からChordiaとして独立する際にはMALT1阻害薬の研究継続を断念せざるを得ない可能性もある中、各大学ならびにAMEDとの堅い信頼関係の中で継続を決断しChordiaのパイプラインとして最後まで磨き上げた。これらの成果に基づいて研究統括の森下(筆者)は、産官学連携推進のため各大学から教授として招聘(しょうへい)されており、Chordiaは近年の国内産官学連携を牽引(けんいん)する旗艦となりつつあると考えている。

この間、京都大学イノベーションキャピタル株式会社(京都iCAP)およびジャフコグループ株式会社(東京都港区)をはじめとする国内著名ベンチャーキャピタル(VC)からの投資を得ながら、国立研究開発法人国立がん研究センター研究所および中央病院と協力した1号パイプラインであるCLK阻害薬の非臨床研究ならびに国内第1相臨床試験**3、3号パイプラインであるCDK12阻害薬のAMEDでの新たな産官学連携もスタートさせている。このようにわれわれは日本国内に拠点を置き、国内の主要研究機関と協力しながら日本発かつ世界初の抗がん剤開発を志すスタートアップ企業である。

■事業の目的・ビジョン

Chordiaは、「日本発」そして「世界初」の新しい抗がん剤を創生することにより次世代のがん医療の実現に貢献し、いまだ治療方法が確立されていないがん患者に対して治療薬を届けることを事業目的として2017年11月に創業した。本目的を実現化するため日本の最大手製薬企業である武田薬品からスピンアウトを決断し、日本に拠点を置く企業として特に国内のアカデミア、投資家、行政機関などとの協力体制を築くことにより今までになかった新しい薬を創出すべく研究開発に取り組んでいる。このようなわれわれが追求する日本発かつ世界初のファーストインクラスの薬を創生するためには、cutting edgeな科学知見に基づいた新しいコンセプトの創出が欠かすことができないと考え、アカデミアの新進気鋭の研究者との共同研究講座の設置(京都大学医学研究科小川誠司教授との次世代腫瘍分子創薬講座の設置)あるいは上述のAMEDのグラントを最大活用した産官学連携研究を実施しながら新薬開発を行ってきた。加えて、このような研究活動の過程において多くの国内関係者と協業を進め、日本の創薬エコシステムの一員として、その発展に貢献していくことも志している。以上の活動を通じ、日本発の研究開発型の製薬会社として成長し、日本における新たな医薬品開発の拠点となることをビジョンとして掲げている。

■起業、事業立ち上げの背景と経緯

Chordiaは2017年に武田薬品のがん領域日本サイトヘッドであった三宅洋(Chordia代表取締役)を含む研究者6人で創業した。創業時には四つの抗がん剤候補の独占的実施権を武田薬品から取得したが、この中で以下二つの産学連携研究の成果がChordia起業における大きな契機になっている。

2013~2014年にかけてボストンに留学していた筆者が、米国で学んだ産学連携を実現すべく帰国後、京都大学の小川誠司教授と初めて出会ったのが2014年、1年間の議論を経て2015年にAMEDのACT-Mに採択され産学連携を開始した。しかし武田薬品の戦略見直しにより研究が継続困難な状況に陥る。この時、小川教授をはじめとして各共同研究者、AMEDプログラムオフィサー谷田清一先生から鼓舞を受け奮い立ち、Chordia設立時にMALT1阻害薬を武田薬品から移管して継続検討した**4。加えて、CLK阻害薬に直結する研究において小川教授が世界を牽引する研究者であったことから、これらの医薬品開発を加速すべく研究を協力して行ったことが、後の京都iCAP、ジャフコからの資金調達につながり起業に至っている。なお、世界的に見ても産学連携研究の成果を基に起業に至ったケースは少なく、Chordiaはベンチャービジネスにおける次世代のロールモデルの一つになり得ると考えている。

■事業の新規性・革新性

Chordiaは低分子化合物をベースとした医薬品開発に特化した企業である。創業者を含むほぼ全ての参画者が、大手製薬企業における低分子の創薬経験やノウハウを有しており、迅速かつ的確な意思決定により研究を推し進めている。低分子化合物での抗がん剤開発においてわれわれに独自性があるのは、国内外のアカデミア研究者が有する最先端evidenceに一早くアクセスできる連携状態を恒常的に保っていることによっており、この相互に対等で固い信頼関係に基づいた産学連携こそが、Chordiaに科学的な新規性と革新性をもたらしている最たる要因である。このことはAMEDが公募している癌疾患関連の競争的資金を複数件数獲得している事実からも裏付けられている。また上述のように京都大学にて次世代腫瘍分子創薬講座を設立し、アカデミアネットワークをさらに拡大した創薬を実行している**5。以上の産学連携に加えて、国内外企業との産産連携を行うことにより次世代の医療実現を生み出すべく新たなチャレンジに取り組んでいる。

この体制の中でわれわれは、がんのホールマーク(特徴)として新たに見いだされた「RNA制御ストレス」に着目した創薬研究を行っている。がんのホールマークを標的とする抗がん剤開発ストラテジーは、過去の成功例に裏付けられるようにこれまで多くの上市品の創生につながってきた。しかしながら他の既知のがんのホールマークに比べると、比較的新しい「RNA制御ストレス」を標的とする抗がん剤の開発例はいまだにない。そこでこの「RNA制御ストレス」を標的とした次世代のファーストインクラスの抗がん薬として、CLK阻害薬CTX-712、CDK12阻害薬CTX-439、ならびにその他新規パイプラインの研究開発を行っている**6

がんのホールマークとChordia の研究領域であるRNA 制御ストレス

■今後の展望

ファーマ、スタートアップから製薬企業に発展すべく取り組んでいきたい。すなわち、今あるアセットを自分たちの製品として発売する製薬会社になりたいという大きな希望を持っている。またこれらの活動を通じて、医薬品創出という大きな社会貢献をもたらす研究活動の場を新たに日本国内に生み出し、日本におけるこれまでにない医薬品開発の拠点となっていきたい。これらの根底にあるのは日本発の革新的新薬を作り上げたいという思いであり、そこにはこだわり続けて取り組んでいきたい。

参考文献

**1:
成人T細胞白血病リンパ腫に対する新規テーラーメイド治療|chordiatherapeutics.com
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**2:
MALT1阻害剤「CTX-177」に関するライセンス契約|chordiatherapeutics.com
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**3:
CLK阻害薬CTX-712の第1相臨床試験|chordiatherapeutics.com
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**4:
「研究者として信じる道を進む」Chordia Therapeutics・森下大輔CSO|ベンチャー巡訪記|AnswersNews
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**5:
2022年のTop 10 Japanese Startupsのカバーストーリー|chordiatherapeutics.com
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**6:
Nature Dealmakerでの特集|media.nature.com
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