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貴金属の世界を開く研究に最高金額500万円も
田中貴金属グループの研究助成

2022年9月15日

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田中貴金属記念財団は、貴金属の新分野を開拓醸成し、学術、技術と社会経済の発展に寄与することを目的に、「貴金属に関わる研究助成金」制度を設けて国内の研究機関や研究者を支援している。今年で24回目となる研究助成は、貴金属工業の発展や関連技術・製品の進化にどう貢献してきたのか。

■産業用貴金属が7割、資産用・宝飾3割

民間企業が研究助成を行っている事例は少なくないが、一般には資産用のゴールドバーやジュエリーのイメージが強い田中貴金属工業株式会社(東京都千代田区)が財団を設立し、貴金属に関する学術的・技術的な研究を助成している。そもそも「貴金属に関する研究助成」とは何を意味するのか、そこに違和感を覚える人も少なからずいると思う。まずは田中貴金属グループ、正確にはTANAKAホールディングス株式会社の事業を正しく知る必要がある。

グループは、持ち株会社のTANAKAホールディングスの下、五つの企業から構成されている。グループを牽引(けんいん)するのが田中貴金属工業(1885年創業)で、貴金属地金および各種産業用貴金属製品の製造・販売・輸出入、および貴金属の回収・精製などを手掛ける。ゴールド・プラチナジュエリーなどの宝飾品、工芸品、貴金属地金・コインの販売・買い取りは、田中貴金属ジュエリー株式会社が担い、産業用貴金属製品と資産用・宝飾貴金属の取り扱いがグループ経営を支えている。貴金属の8元素を用いた製品を事業ドメインとして、国内外に広く事業展開。貴金属8元素とは、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)のこと。希少性だけでなく、加工しやすく、化学的に安定していることから、産業用材料として多方面に用いられる。

母体となる田中貴金属工業は、日本橋茅場町の両替商として事業を開始したが、4年後に、金や銀に比べて難しい白金加工技術を究め、工業製品の国産化に成功したことから製造業に舵を切った。当時、電球のフィラメントは白金でできており、その精製技術を確立したのは創業間もない田中貴金属工業のみだった。以来、産業用貴金属製品の開発・製造に従事し、今日に至っている。

一方、貴金属はそれ自体、宝飾品としての価値、ひいては資産としての価値を持つ。田中貴金属というと「純金積み立て」をイメージする人が多いかもしれないが、その認知度は資産・宝飾としての貴金属に由来するものだ。しかし経営の実体は大きく異なる。売上高に占める割合は、産業用貴金属製品の取り扱いが全体の7割を占め、資産・宝飾は合わせて3割程度にすぎない。研究助成に対する違和感があるとしたら、おそらく世間に広く知られている企業イメージによるものだろう。

■財団を設立、貴金属に関する学術的・技術的研究に助成

研究助成事業は現在、一般財団法人田中貴金属記念財団が主宰している。2015年、田中貴金属工業創立130周年を記念し、「貴金属の新分野を開拓醸成し、学術、社会、経済の発展に寄与する」ことを目的に設立された。ただし研究助成自体は、田中貴金属工業が1999年から研究機関を対象に毎年テーマを募集しており、今年で24回を数える。財団設立を機に事業を譲渡した格好だ。

研究助成を開始した背景は、貴金属に関する基礎研究をスピーディに行うために研究機関や特に大学の研究者のシーズを最大限に活用することを考え、独創的な技術やアイデアをその先の製品につなげることに期待しつつ、まずは製品の基礎データを一緒に取るところにあった。

貴金属に関わる研究助成金は、年1回、9月から11月の3カ月間を応募期間とし、貴金属に関わるテーマを募集している。新しい技術であること、製品に革新的な進化をもたらす研究・開発であることなどが条件だ。応募資格は、日本国内の研究機関に所属していれば、活動拠点は国内・海外を問わない。

貴金属の新しい世界を開く研究テーマには最高金額500万円の「プラチナ賞」をはじめ、「ゴールド賞」200万円、「シルバー賞」100万円が授与される。そのほか、37歳以下の若手研究者のための「萌芽賞」100万円、「奨励賞」30万円を設けるなど、次代を担う人材の発掘・育成にも力を注いでいる。2021年は合計137件の応募があり、この中から23件の研究に対し、総額1,660万円の研究助成金が授与された。コロナの影響でここ数年は応募総数が減少傾向にあるが、コロナ前には200件近く寄せられた時期もあった。

2009年から2021年度までの受賞履歴は、貴金属を使用した研究・開発に限られるとはいえ、合金、メッキ、触媒、電極、配線といった関連技術から、燃料電池、リサイクルなどの周辺テーマに至るまで、多岐にわたる。中には、インフルエンザウイルスの検出や、再発・転移がん予防のための新素材開発など、医療への展開も含まれている。2021年度のゴールド賞は、東海大学、窪田紘明講師の「貴金属含有電子部品のモデルベース設計・生産技術開発の高度化」と、横浜国立大学、井上史大准教授の「貴金属配線による裏面電源供給ネットワークの形成」が受賞した。

■カーボンニュートラルを目指す

貴金属の将来そして産業・社会への影響力を考えるとき、取り組まなくてはならないのは、カーボンニュートラルだ。田中貴金属グループも今年4月、「カーボンニュートラル宣言」を行った。地球温暖化という地球規模の社会課題に対し、2050年までにカーボンニュートラルの達成を掲げ、脱炭素社会に資する技術を自らそして社会に積極的に実装していくことで、地球温暖化問題の解決に挑戦する決意を明らかにした。豊かでサステナブルな地球の未来を私たちの手で創り出そうという考え方は、カーボンニュートラルの流れと合流して大きな社会潮流となりつつあり主要な研究テーマとなっていくだろう。

グループは、創業以来、貴金属リサイクル事業を行ってきた。先ごろ、金や白金などの貴金属資源において、100%リサイクル材からなる「REシリーズ」を原材料としためっき用貴金属化合物の供給を開始した。REシリーズは、鉱山由来の地金などを使用せず、貴金属リサイクル材のみを精製した貴金属原材料である。

金や白金などの鉱山資源の採掘には大きなエネルギーが必要だ。貴金属は希少であり、埋蔵量に限りのある天然資源であるため、REシリーズの展開は新たな採掘の必要量を抑え、効率的な利用ができる。さらに二酸化炭素(CO2)削減による環境負荷低減につながり持続可能な開発目標の実現に寄与する。

今年で24回目を迎える研究助成事業。貴金属は学問としてもニッチな世界で、研究者も限られている。そうした中、助成制度の認知度を高めるために、事務局は日頃から大学などの研究機関とのコミュニケーションを確保している。ここ数年はコロナの影響で、足を運んで直接情報交換をする機会は減ったが、極力現場へ足を運び、学会での企業展示や広告掲載により多数の応募を呼び掛けている。大学や研究室の活気も、コロナ前に近づきつつある。今年の研究助成の応募は、9月初旬~11月30日までの3カ月間。例年を上回る応募が期待できそうだ。