特集防災と減災と被災後

震災をきっかけに独自ブランド構築 福島路ビール

有限会社福島路ビール 吉田 重男

写真:有限会社福島路ビール 吉田 重男

2022年9月15日

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■製品概要

米麦酒(マイビール)は福島県産米の「ひとめぼれ」と外国産のモルトを原料に仕込み、ホップの香りは弱めで、酵母はピルスナー用のビール酵母と福島県が開発した日本酒酵母「うつくしま夢酵母」を使用して発酵させたビールで、ピルスナーに近い色みと香りである。「うつくしま夢酵母」は日本酒の吟醸酒にも使用される酵母であることから後味に吟醸酒の香りを発する。福島県ハイテクプラザが1991年に開発し、福島県知事の命名による。特徴はフルーティーな香りで、酸味の少ないソフトでマイルドな味わいを造り出し、吟醸酒や純米酒に使用されている。

桃のラガーは福島県産の白桃(あかつき)の果汁とモルトから造った麦汁から仕込んでいる。一度普通のビールと同じように発酵を進め、主発酵の最終段階で果汁を加えもう一度発酵させる。果汁も発酵させるため、糖度は通常のビールと同程度までに落とすので、ドライで果汁感豊かな仕上がりとなっている。

林檎(リンゴ)のラガーは桃の果汁の代わりに福島県産のサンふじの果汁を使用している。

■開発背景や経緯

1997年に地元の建設会社の子会社として地ビール会社をスタートした。2004年に筆者が設立した会社で地ビール事業を継承している。2009年ごろまでは醸造用の発酵貯蔵タンクが多いことなどからピルスナーなどの下面発酵ビールを主に提供しており、当時は全国でも20番以内に入る製造量を誇っていた。2009年ごろまでは、相手に指定されたレシピで醸造していたOEM生産が1社のみで生産量の8割を占めており、経営的には、その1社の動向によっては危うい状態であった。ここでマーケティングを勉強して、顧客の多様化を進めなければいけないと思い立ち、2009年に山形大学大学院理工学研究科博士前期課程(食品MOT)に入学した。修士論文のテーマは、米と麦芽を使用して日本酒の酵母で発酵させ、日本料理に合うビールでマーケティングを行うとした。ゼミで修士論文のご指導をいただいたのは野長瀬裕二教授(現摂南大学教授)で、この研究で多くのご指導をいただいた。テーマとするビールのコンセプト(日本酒酵母を使用すれば、日本料理に合うビール)についてのアドバイスをいただいたのは幹渉教授(現三重大学大学院教授)だった。

マリアージュのご指導をいただいたのは、福島大学の西川和明教授(現在は退官)だった。試飲会を福島市のホテルで行い、日本酒に合うことを実証するために数種類の料理、数種類のビールとのマッチングのアンケートを取り、米麦酒はステーキなどの肉料理よりも、刺身などの和食に合っていることを実証することができた。

2011年に東京ビッグサイトで開かれた「スーパーマーケット・トレードショー」と同時に開催されていた「こだわり食品フェアー」に米麦酒の販路拡大の目的で出展し、福島県産業振興センターの「福島農商工連携ファンド」補助金をいただいた。初めての展示会であったため、展示方法も顧客対応も十分ではなかったが大手酒卸との取引が開始できた。

2011年の東日本大震災では、売り上げが急減し「この会社はもうダメかもしれない」と2011年5月ごろに思った。震災によるビール工場の被害はそれほどではなく、従業員と共に1カ月ほどで修理を済ませた。震災前には製造量の80%を占めていたOEM先向けにビールを醸造し、輸送手段が途絶えていたので、自社でトラックと燃料を調達して東京へ運んだ。

ところが、運んだ先で「福島のビールなんていらない」と言われるようになった。小さな店のオーナーシェフは応援してくれたが、大きな店ほど拒否された。工場の地下60メートルからの井戸水を使用しており、放射能汚染はしておらず、検査機関でも検出限界以下であった。その後のOEMの製造量の落ち込みは大きく、毎年のように下がってきており、最近の製造量は12%まで低下している。

2011年の夏ごろからは、県内の農家や販売店の支援として福島県などが開催をしてくれた各地のイベントに出店していた時に、一緒に出店していた農家から「白桃を持ってきているが、売れなければ廃棄で、この果物を使用してフルーツビールができないか」との相談を受けた。当社はそれまで桃の果汁を使用した「ピーチエール」を製造していたが、果汁の使用量は少なく、このピーチエールで果汁を多く使用したものができるのではと考え「フルーツビールプロジェクト」を立ち上げた。

福島大学の西川和明教授にご指導をお願いし、全国中小企業中央会の補助事業の採択を受けた。小型の製造設備を設置して試験醸造を開始した。福島の「くだもの王国」が誇る桃、林檎、洋ナシ、葡萄(ブドウ)などで醸造を行った。2012年に林檎を使用した「林檎のラガー」、2014年には「桃のラガー」を発売した。西川教授と共に東京の料飲店での試飲会なども開催し、アンケート調査を実施した。味の評判も良く、これからの当社の柱になると確信が持てるようになった。

2014年からは1年間、東経連ビジネスセンター(一般社団法人東北経済連合会、宮城県仙台市)の支援を受けた。

2015年には復興庁の「専門家等を活用した被災地における新規ビジネス等事業」や「専門家派遣事業」の支援を2回にわたり受け、さらに2016年からは東北経済産業局、東北農政局「地域産業資源活用化事業」の支援を数年にわたり受けた。

支援後は、毎年のようにスーパーマーケット・トレードショーなどの展示会に出展して酒卸、酒販店、ビアバーなどとの取引の幅が広がった。

フルーツビール開発の取り組みとしては、第一段階が福島県産の果汁を数パーセント使用して「ピーチエール」「なつはぜふるーてぃエール」などを開発。第二段階は福島県産の農家より果物を購入して搾汁し果汁使用率は約30%として「林檎のラガー」「桃のラガー」「黄金桃のリッチエール」などを開発。第三段階ではさらにコンセプトを推し進め、素材の風味をハッキリさせるために一品種のみを使用してシードルに近い「ラズベリーのシードリッシュラガー」「ブルーベリーのシードリッシュラガー」などを開発してきた。ラズベリーとブルーベリーで醸造したものはフルーツビールでありながらシードルに近い品質になったため、「シードリッシュラガー」として商標登録を行った。

対象マーケットおよび販路・戦略は、販路開拓戦略として、当社が弱かったところでもある酒卸・酒販店、高級スーパーへのチャネルアプローチ、製品ラインナップの再ポジショニングとした。

対象ターゲットは、メインターゲット30代+50代女性、サブターゲット20代男女、ディープターゲットとしては東京都を中心とした男性とした。

拡販入口は、飲める店(口にする機会)の強化、ジャパンビアタイムスなどへの出稿、スーパーマーケット・トレードショーへの出展や試飲モニターキャンペーンとした。

■成果

1社のみのOEM製造から自社ブランド製造へのシフトは震災を機に進み、独自ブランド構築ができたため、2009年の販売開始からの「米麦酒」の売上は徐々に増えてきており、最近ではこのビールを目的に来られる店頭の顧客が多くなってきている。

「桃のラガー」と「林檎のラガー」はグラフに示したように中だるみがあるもののその製造比率は増加してきている(図1)。

図1 液種別売上比率

取引の顧客数は2011年当時約60社であったが現在は300社程度まで増え、酒卸、酒販店と料飲店が大きく伸びてきた。

製造数量は震災前までは当社の製造上限に近い製造量であったが、震災で大きく落ち込んだ。その後はわずかながら上昇傾向にあった。しかしOEMでなく、自社ブランドでの販売に切り換えたため、粗利は下がっていない。2020年からの減少はコロナ禍の影響である(図2)。

図2 年間出荷数量(ビール+発泡酒)

■今後の展望

地ビールを始めたころの製造所は全国で120社程度であり、しばらく200~300社くらいであったが、最近はレストランに併設した小さな製造所が増加してきており、現在550社とも言われている。競争が激化してきている。

このような中でのコロナ禍の影響が大きく、料飲店への売上が減ったままである。また、原材料の値上げが目白押しで、当社も近く値上げをしなければと考えている。そのことで取引している顧客の減少を防ぎ、製造量をどのように確保すればよいのか対応策を考慮中である。

今後は地域の産品を使用したOEM生産を進めたいと考えている。今まででもOEM生産は福島県川内村のそばを使用した「蕎麦畑(そばがるでん)」、福島県天栄村の米とマカを使用した「天栄米マカビール」、二本松市のマルナカファームの苺を使用した「Koichigo Beer(こいちごビア)」、仙台市のおでんやこうぞうの「しらたきヴァイツェン」などを生産してきた。これらを推し進めさらに増やしていきたい。

現在ノンアルコール飲料の開発を予定している。ノンアルコールビールやクラフトコーラなどを検討しており、来春には発売したい。